第300話 まるってひょっとしてブラをしてないの?

 俺とのどかは2人で電車に揺られて小烏こがらす道場の最寄り駅までやって来ていた。

 そこからの徒歩での移動中恋人繋ぎしているのになんだか微笑ましい目で見られるのが、なんとなくのどかに申し訳ない。

 外から見たらどう見ても仲良し兄妹にしか見えないもんなぁ。恋人繋ぎなことに注目して欲しい。


「きょーちんとひよりと一緒に剣の修行、楽しいんだよ」

 周りの目なんて気にしないでつないだ手をブンブン振り回しながらのどかが俺の顔を見上げるようにして言ってくる。

「あれ? まるっていつの間にひよりのことを呼び捨てにするようになったの?」

 気付くとのどかがひよりを呼び捨てするようになったらしい。そういえばこの前のどかのおばあちゃんに挨拶に行った時もそうだったかも。


「うん、ひよりがまるに『私のになってくれ』って言って本気で相手をしてくれたから、ひよりとまるは対等なんだよ。

 きょーちんも知ってるかもしれないけどまるはいつもお世話されたり小さな子扱いされることが多かったから……きょーちんや陽菜ちゃんみたいに1人の女の子として正面から向き合ってくれたり、剣道をする1人の剣士として正面から向き合ってくれるひよりみたいなのは初めてなんだよ」


 そうか、のどかはこういう見た目だからどうしてもお世話を焼く対象にされやすい。実際に集中力が続かなかったりして勉強も苦手だし、スポーツでもその身体能力を生かしたスポットの助っ人としてしか参加していなかった。

 のどかなりにマスコットみたいな扱いは不満だったんだろうな。

 俺みたいに獣欲というか男の欲望をぶつけられるのも実は嬉しかったってことか……それはもちろん愛情あってのことだろうけど。


「「ひ~よりちゃんっ! あ~そびましょ~!!」」


 のどかとせーので声を合わせて小烏こがらす道場の立派な門に向けて大声で叫ぶ。

 ドタドタドタドタ……ガタンッ、ドカ、ガラガラガラ!

 いつぞやのようにものすごい勢いで走ってきたひよりがドアのかんぬきを外して扉を開く。


「お、お前ら……前回恭介にその掛け声をされてからしばらくご近所さんの目が冷たかったんだぞ。

 頼むから小烏こがらす道場の評判を落とすのを止めてくれ」

 のどか1人なら女の子だから大丈夫だろう。次からはのどか1人で声をかけてもらおう。


 3人で道着に着替えてから稽古をする。夏休みの終わりに石動いするぎさんに誘われている大学への出稽古に行くのだ。その時はマネージャーとして陽菜が付いてくる予定。

 陽菜はついでに家政科のある県立大学のキャンパス見学にも行くそうだ。


 まだ2年生だけど着々とみんなの将来も含めて決まっていく実感がある。俺たちに関しては、特に俺とのどかはこれからの頑張りである程度剣道の試合で実績を残す必要はあると思うけど……それでも竜王旗剣道大会優勝という実績自体はあるから。ひよりにおんぶにだっこの実績だけどな。


「今まで剣の鍛錬と言えばずっと1人だったからこうして3人で稽古できるのが私は本当に幸せだ」

 ひよりが涙ぐみそうな勢いだ。そうだよな、いままでどんどん廃れていく道場を見ながらそれでも自分の剣の道を究めようと頑張ってきたんだもんな。剣道部だと文字通り段違いだったし。


 俺はまだまだだけど、ライバルと呼びたくなるようなのどかと出会えたことはひよりにとってどれほど幸せなことだろうか。

「まるも剣道楽しいんだよ。ひよりときょーちんといつも一緒にいられるし」

 とどめの一撃。涙もろい俺の刀剣女子は完全に涙を流している。のどかと俺の2人でひよりをぎゅっと抱きしめてから稽古を始める。

 強くなろう。ずっとひよりの隣にいられるように。


 今年の夏は特に暑いので午前中の涼しいうちから稽古しようと思ったが、風通しの良い道場だとは言ってもやはり暑い。

 ひよりがいったん休憩を宣言した。ぐっしょり汗をかいてしまったので2人に断って道着をはだけさせる。


 はぁ~、ちょっと涼しい。剣道は防具までつけると地獄だよな。今の俺たちはまだまだ素人なので足さばきや基本の動作を学ぶ段階だけど反復練習だからこそ真剣に取り組むと本当にキツイ。


 しかし、こういう風に道着をはだけていると楽だけど俺がこうやって緩いせいで他のみんなに我慢させてる部分もあるからちょっと申し訳ない。でも熱中症になるわけにはいかないもんな。

 とか思っていたらひよりものどかもらんらんとした目で俺の汗で濡れて貼りついたシャツを見ていた。


「きょ、恭介。稽古は午前中の予定だが水浴びして帰れるように準備してあるんだ。汗も大変だろうから良ければ行水して帰ってくれ。恭介みたいないい男が電車の中で汗のにおいをさせてるなんて犯罪に近いぞ」

 え!? 俺ってそんなに汗臭い? 気にしてなかったけどそう言われるといつもは水泳部だからプールで最後はシャワーだもんなって思う。


「まるも行水したいんだよ。汗でべとべとなんだよ」

 そういうとのどかが俺のマネをして道着をはだける。白いタンクトップは汗でびっしょり濡れていて可愛らしいふくらみに張り付いてしまっている……んだけど……


「まる……まるってひょっとしてブラをしてないの?」

 可愛らしいピンクのポッチまで透けて見えちゃっているのだ。考えてみると今まで何度か泊まりに来た時とかに、のどかのことを脱がしているが一度もブラを外した記憶がない。まるよりペタンコのひよりのブラは外したことがあるのに。


 思わずひよりの顔を見るが考えていることがバレたのか怒られた。

「もっとぺたんこなのにをつけてて悪かったな。どうせ揺れもしなければ型崩れの心配もないさ」

 ひよりが凹んでいるが今はそれ以上に緊急事態と判断して更衣室からスマホを持って来て陽菜に電話する。今なら陽菜とみおが一緒にいるはずだから話が早い。


 電話で話した結果、明日時間のある女子でのどかのブラを買いに行く流れになった。この貞操逆転世界では女子は自分の胸を見られてもあまり恥ずかしくないのでらしいというのはみお情報。

 クラスメイトの何人かの名前を挙げてノーブラ派を教えてくれたが正直二学期から気になっちゃうから教えないで欲しかった。その子たちの夏服の胸元をガン見しない自信がない。


 ノーブラでも気にしないというまるを説得した決め手は陽菜の「恭介くんはブラを外すときめちゃくちゃ興奮して凄くエッチな目で見てくるから楽しいよ」という一言だった。

 もちろんまるにはちゃんとブラをつけて欲しいけど……事実かもしれないけど……陽菜の言葉「エッチな目で見てくる」が地味にショックだった。


 そんなこんなで休憩終わって稽古再開。だけどなんとなくのどかの道着の下がノーブラと思うと集中力がそがれて稽古に身が入らない。水泳部の時は近くに競泳水着で巨乳のゆかり部長がいたのに集中できていたのだからそれだけのどかのちっぱいが気になっているってことになる。

 う~ん、分かるんだけどそれがバレるのはなんだか恥ずかしい。


「こら、恭介。集中しろ。のどかを見てみろ。どんどん変な癖が抜けて動きが良くなっているぞ、そのへっぴり腰はなんだ」

 パンッ

 ひよりの手でお尻を叩かれて腰が前にでる。2人に同時に俺のものが大きくなっているのに気付かれた。うう、恥ずかしい。


「そ、そういう事なら仕方ないな。どうせ後10分で終了だから恭介はそっちに座って休んでいろ」

 どうせ勃起したままじゃ身が入らないし大人しく休憩させて貰う。

「よし、今日の稽古は終了だ! 恭介、さっきも言ったがぬるめの風呂を入れてあるから汗を流して帰ってくれ。私は昼食の準備をしに行く」


 そう言ってひよりが道場を後にする。俺は更衣室から自分の着替えを抱えてお風呂場へ。勝手知ったる小烏こがらす道場である。

 親父さんは今日は朝から町内会の会合があるとかで出ているので今ここにいるのは俺たち3人だけだ。


 ふぅ~……

 かかり湯をしてぬるい湯船に浸かる。本当にひよりって気が利くよなぁ。この世界で自分が気が利く女の子たちに囲まれている幸せを実感する。

 貞操逆転世界だからみんなみたいな気が利くタイプじゃない子もたくさんいるはずなのに俺の周りは恵まれてるから。こんな亭主関白みたいな感じでいいのかななんて思ってしまう。


 カラカラカラカラカラ~


 そんなことを考えていたら、浴室の戸が開いてすっぽんぽんののどかが突撃してきた。

 そのままかかり湯もせずに湯船にザッパ~ンと飛び込む。こら、お前はさっき汗びっしょりだっただろうが!?


「きょーちんとの一緒のお風呂嬉しいんだよ」

 そう言ってにぱぁと笑うのどかに小言を言う気もなくしてしまう。本当にのどかは可愛いなぁ。

 いったん頭まで潜って犬みたいにプルプルして水をふるっている。いつも黒くてつやつやのポニーテールがびしょ濡れだから後で拭いてやらないと。(お世話癖)


 ぬるま湯の湯船の中でのどかを後ろからギュッと抱きしめる。もちろん2人とも裸だから俺の方はガチガチに勃起しちゃっててのどかのお尻のところに当たっちゃってる。

 2人とも真っ赤になっているけどのぼせているわけじゃない。

 腰に回していた手をゆっくりと胸の方にずらしていく。


 カラカラカラカラカラ~


「おい、恭介。疲れて湯舟で寝ているんじゃないだろうな?」

 そう言いながら昼食の準備を終えたひよりが浴室を覗きに来た。2人でひよりにめちゃくちゃ怒られました。

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 ちょっとした小話


「まる、ここが石動さんの大学だから。今日は出稽古でこっちが教えて貰う立場だから失礼のないようにな」

 俺たちは陽菜を含めた4人で剣道の出稽古に大学までやってきた。

「分かっているんだよ。ひよりときょーちんに恥をかかせるわけにはいかないんだよ」

「まるも成長したものだな。その意気だ。小烏道場の門下生として来ているのだからよろしく頼むぞ」

 まだ夏休みで剣道部に入部していない俺たちは竜王旗剣道大会優勝チームということで招待されている。

「おう、よく来たな多々良。それに小烏こがらすも。お、ちびっこも来てくれたか……ほら、こっちに来い。お前とはあの決勝戦の決着をつけたいと思っていたんだ」

「石動さん、やる気満々ですね。よろしくお願いします。」

「よろしく頼む。私もこの2人も大学の剣道というものを見たことがないから勉強させてくれ」

「ゴリねーちん、よろしくなんだよ」

のどか!?

「はぁ、今なんか言ったか?」

「ゴリラのおねーちゃんだから『ゴリねーちん』って言ったんだよ」

「ばか、まる。よく見てみろ。確かに体格はゴリラかもしれないけど顔は可愛いだろ? あれで照れ屋さんだから……めちゃくちゃ可愛い人だから」

「恭介くん、止めてあげて。石動さんが怒ればいいのか照れればいいのか分からなくなって凄い顔になっちゃってるから」

「うが~、お前ら2日間、足腰が立たなくなるくらいしごいてやらぁ! 覚悟しろ!!」

石川(いや~、やっぱり多々良たちがいると石動が面白くて仕方ないわ。これは絶対入学して貰わないとな)


 という会話が出稽古に行った大学であったとかなかったとか。

 ※夏休み最後の大学出稽古編は流石に冗長なのでこれにておしまいです。



【作者の感想】300話でも平常運転


 ……と言いつつ読んでこられた読者様には伝わっちゃってるかなと思うのですが、最終回が間近です。

 一人一人の思いを語るために旅行後の物語は書かれています。

 最終回を公開した後、こぼれた話を番外編、さらにその後で寝取られたヒナの物語になります。


 毎日18時に最新話公開中

 次回更新は10月6日です。

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