第283話 言ってくれたら乳首くらい見せてあげる
お昼ご飯は漁港で用意して貰っていた仕出しのお弁当、ちゃんとクーラーバックに入ってるため少し冷たかったけど、お刺身がいっぱい入っていて豪勢だった。
みんなで砂浜に思い思いに腰を下ろしてお弁当を食べていく。
「恭ちゃん……」
陽菜がちょっと困った顔をしたので幼馴染として陽菜のお弁当のお刺身を全部掻っ攫ってしまう。別に意地悪をしているわけでも陽菜が刺身を嫌いなわけでもない。
免疫抑制剤を飲んでいると他の人がどうということのないレベルの細菌でも食中毒になってしまう可能性があるのだ。
新鮮なものを仕出し屋さんが捌いたのだから基本的には大丈夫と信じたくても、今回の島という環境で食中毒になったら本当にドクターヘリにでも来てもらわなくては命にかかわる事態にすらなりかねない。
「うう、私のお刺身ぃ……」
食いしん坊の陽菜にとってはとても悲しい光景だと思う。帰りに漁港で新鮮な魚を一尾買って、さちえさんに捌いて貰おうかなとも思う。
家でならいざとなっても救急車を呼べるしさっと湯通ししてしゃぶしゃぶ風にしてもいい。
陽菜の頭をなでてやる。
「陽菜にはアジフライをあげるから」
お刺身を貰ったお返しにアジフライを陽菜のお弁当に載せてあげる。陽菜の顔がパァッと明るくなる。くぅぅ……俺の彼女が可愛すぎる。腹ペコバンザイ!
「ありがとう恭ちゃん。恭ちゃん大好き」
こういう旅行に来ているせいかちょっと甘えん坊かな? 呼び方が「恭ちゃん」になってるけど可愛いので指摘しない。ちょっと前まで「恭ちゃん」は自分のことじゃないと思っていたのでモヤモヤしていたが、「多々良くん」も「恭介くん」も「恭ちゃん」も全部俺のことだと思うと本当に幸せだ。
「本当に仲いいよね。きょーすけは姫川さんと幼馴染なんだよね?」
近くでお弁当を食べていたゆうきが聞いてくる。違和感を感じないのが怖いがマイクロビキニの美少女にしか見えない俺の親友がその格好のまま女座りでお弁当を食べてるのはすごくエッチに感じてしまう。
「あ、私も聞きたいです。多々良先輩と姫川先輩って何きっかけで幼馴染から恋人になったんですか?」
村上妹も聞いてくる。確かに普通の幼馴染同士が付き合うのと違ってかなり紆余曲折あったからなぁ……
陽菜には俺の考えを話してあるけど俺はこの旅行中にゆうきに自分が別世界からの入れ替わりでここにいることを告げるつもりでいる。ゆうきは元々この世界の多々良恭介の友人だったしこれからもゆうきと付き合っていくなら知らせるべきだと思っているからだ。
その前にゆうきの写真を撮って多々良恭介の想いを成就させてやろうと思っているけど。
「そうだなぁ、陽菜とは家が近くて幼馴染だったんだ。小さい頃は仲良かったけど一時疎遠だったから再び会ったらすごく可愛くなってて惚れ直したとか、そういう感じ?」
なぜ話してる俺が「?」をつけてるの分からないけど、結果的に陽菜が真っ赤になってるので信憑性は抜群だろう。
「きょーすけはそんなこと一言も言ってなかったのに……」
「私も多々良先輩みたいな素敵な幼馴染が欲しかったです」
村上が髪を切ってショートカットにしたから双子みたいにそっくりになった兄妹の感想が返ってくる。
「よし、そろそろ写真撮影の時間にしよう。最初は陽菜、次はしずくでいいかな? 2人は写真を撮り終わったら晩ご飯の準備もかねて早めに青猫館に戻っておいて欲しい」
陽菜から撮りたいのは本音。あの可愛くて綺麗な今の陽菜をこの太陽のもとで俺のカメラにしっかりと収めておきたい。
ただ、しずくと先に帰らせる理由は陽菜が無理をし過ぎないように考えてのことだ。今回の旅行は2泊3日、初日からはしゃぎすぎると陽菜の場合は体力が足りなくなるのが目に見えている。
だから、しずくと一緒に涼しい別荘の中でのんびりと夕食の準備を進めて欲しい。
「恭介くん、私恭介くんの写真を撮りたいんだけどダメかな?」
陽菜がちょっと赤い顔をして言ってくる。ん? 2人の記念撮影みたいのをしたいのかな?
「恭介さん本人のことを撮りたいってことだよ。陽菜ちゃんの気持ちになって考えたら分かるでしょ。陽菜ちゃんはカッコいい彼氏の写真を自分のスマホに残したいのよね」
しずくの説明に、陽菜がうんうんと首を縦に振っている。なんだか照れてしまう。
「そういうことだったら最初はまずはみんなで恭っちの撮影会にしよう」
みお部長の鶴の一声。みんなが拍手してくれてる。マジで照れて顔が真っ赤になってると思う。これは陽射しのせいじゃないね。
「えっと、こんな感じかな?」
俺なりにポーズをとるとみんながパシャパシャッとスマホだったり一眼レフだったりで思い思いに写真を撮ってくれる。
うう……めちゃくちゃ恥ずかしい。
「う~ん、いまいち表情が硬いし、そのラッシュガードは面白みに欠けるよね? 陽菜ちゃんの白いフード付きのラッシュガード借りてもイイ? 恭っち、そのラッシュガードを脱いでこっちの白いほうを着てくれる?」
みおがそういうんなら間違いないだろう。更衣室に行ってぴっちりしたラッシュガードを脱ぎ、前開きのパーカーみたいな白いラッシュガードに着替える。濡れすけはしない素材みたいだから大丈夫だよな?
ジッパーを上まで引っ張り上げてみんなの元へ戻る。
「恭介くんって白が似合うね」
「恭介、よく似合ってるぞ。こっちにも笑顔を向けてくれ」
ひよりまで俺にスマホを向けている。なんだろう、このちやほやされ感。このまま乗せられて流されて変なAVの契約結ばされたりして。
「う~ん、ちょっと違うんだよね~。しずく、分かってるでしょ? やっちゃって!」
みおがそういうと、砂浜を近づいてくるしずくが俺のラッシュガードのファスナーをおもむろに引っ張り下ろして俺のラッシュガードの前がはらりと開いてしまう。
「うわっ」
思わず手で胸を覆うようにしてしまう……いや、乳首を見られるのは俺的には平気なんだけど村上とかちさと先生、みなもさんの視線が怖くて。
「いいねぇ~、その恭っちの恥ずかしがる表情いただき」
パシャシャシャシャシャ! みおの一眼レフから恐ろしい勢いのシャッター音が聞こえる。
「多々良くん、ちょっとだけ手を放しておへそが見えるようにしてみようか」
さ、さんご先輩!? さんご先輩もカメラマン魂に火がついてる?
「はぁはぁ……私光画部に入ってよかったです。私今日のことを一生忘れません」
村上が鼻血を出しながらシャッターを切っている。光画部の将来は大丈夫か?
陽菜がおろおろしながらも自分なりの写真を撮っている。ちょっと待って? なんで陽菜までみんなと一緒に真っ赤になってるの? 俺の上半身は平気だよね? いつももっとエッチなところいっぱい見てるでしょ?
「陽菜っち、ちょっと恭介のラッシュガードのフードになってる
みおが指示するとなぜか俺の斜め前のポジションを取り、しずくがさんご先輩と村上たちの前を横切るようにする。
陽菜が
「ちょ、撮っただろ!? 今撮ったよね?」
みおもしずくも何を頑張ってるのか分からないけど、さんご先輩たちから俺の乳首をガードしつつ、みおが一眼レフで俺の乳首が陽菜の手でポロリしたのを撮りまくっていた。
もう、なんなのこの子たち。普通にエッチして俺の乳首なんていくらでも見てるだろうに……それに俺はみんなから見たら貞操逆転世界の男子だから言ってくれたら乳首くらい見せてあげるのに。
「ちっちっちっ! 恭っちは分かってないな。見られないものを見て、撮れないものを撮るからこそ意味があるんでしょ? いや~、いい写真が撮れたわ」
「ちょっと、みお部長! 部長ばっかりズルいです。私にもその写真下さい」
「ダメダメ! こういうのは児童ポルノに当たるから譲るわけにはいかないよ」
みおがドヤ顔をしているので最終手段を使うことにした。
「ちさと先生、朝のお仕置きをする時が来ました。児童ポルノを所持してる悪い女子高生がそこにいるんで捕まえてカメラのデータを消しておいてください」
その後のみおとちさと先生の鬼ごっこは極門島の歴史に残る鬼ごっこになったとかならなかったとか。
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いつもながら期待されているエッチな写真撮影は行われないのがこの貞操逆転世界なのです。
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次回更新は9月20日です。
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