第278話 海に行きたくてソワソワしちゃってる(陽菜視点)

 しずくちゃんの話ではこの極門島は周囲3㎞の小さな島でそこに西園寺家の別荘が2棟立ってるんだって。東屋みたいな小さい建物もいくつかあって、燃料を使う自家発電機とソーラー発電、風力発電まで備えてて携帯会社のアンテナまで立ってるから問題なくスマホも使えるっていう話だった。それを西園寺グループの福利厚生で社員さんに使わせてあげてるってことらしいの。


 すごいよね。それにお泊りするのは孤島の洋館!! 正確には旧館は和洋折衷のかなり古い様式らしいんだけど今回私たちが泊まるのは最近建て替わった新館の方の洋館だ。

 その名も青猫館。建物が猫の形をしてるわけじゃないんだけどこの猫の顔の形をした猫島の左目に当たる真ん中より少し東寄りに建っていて青い屋根なのでブルーアイに見立てられて青猫館だ。正確には青い猫目館なんだろうけど青猫館って呼ばれてるって。


 もうこの時点で私のワクワクは最高潮だよ! 何を隠そう私はミステリーとか推理小説が大好きなのだ。

 その青い屋根が森の向こうに姿を現した。

「陽菜、楽しそうだね。陽菜は小さい頃から少年探偵団とか大好きだったもんね」

 ひよりちゃんの背中から恭介くんが話しかけてくる。恭介くんをおんぶするなんてちょっとうらやましい。私もおんぶしてあげたいけど私の身長と力じゃ無理だろうなぁ。


「そうだね。久しぶりに恭介くんと探偵団ごっこをしたいかも」

 小学生の頃、少年探偵団に憧れた私は恭介くんと一緒に探偵団を作っていろいろと難事件を解決したのだ。と言っても思い出してみると大した事件じゃなくて三丁目の八百屋さんのおばさんのサンダル消失事件とか、裏のお爺ちゃんのヘソクリ盗難事件とかそういう身近なやつばかりだったけど。

 私は基本的に安楽椅子探偵で家にいて、恭介くんが持ち帰ってくる情報から謎を解くのだ。今考えたらあれは実際にあった事件じゃなくて恭介くんが謎を作ってくれていたのかもしれないけどそれは聞かないお約束だと思っている。2人のいい思い出だから。


「いいね。久しぶりに陽菜団長の名推理が聞きたいかも。も探偵助手復活かな」

 恭介くんも本当に懐かしそう。こうやって昔の話をしていると本当に本物の恭ちゃんなんだなって思ってそれだけ嬉しくなっちゃって恭介くんへの好き度が最大値からさらに更新しちゃうからすごい。


「2人の思い出があってうらやましいものだな。もっとも私たちもこれから恭介との思い出をたくさん作らせて貰うけどな。もちろんそこには陽菜ちゃんも一緒にいて貰うぞ」

 ひよりちゃんが恭介くんをおんぶしたまま会話に加わってくる。ひょっとして団員が増える? 私が目を輝かせたのを見てひよりちゃんが苦笑する。3人目の団員が手に入ったらしい。

「まるも! まるも入る」

 まるちゃんが加わって4人、なんのかんの言って付き合いがいいからみんな探偵団に入ってくれそう。


「じゃあ、ゆうかが怪盗役をやってあげます。恭介少年をさらったりするんですよね? 手下のお兄ちゃんを使って誘拐しちゃいますから。団長さんが早く見つけに来ないと恭介少年はあんなことやこんなことをされてあられもない姿にされちゃいますから覚悟してくださいね」

 黒蜥蜴みたいなことを言い出すゆうかちゃん。ゆうかちゃんとは今回初めて話すけど結構人懐こくていい子みたい。恭介くんのことをかなり好きっぽいのだけは気になるけど。


 そんなことをワイワイ話しながらついに青猫館の前に到着。大きい。すごく大きくて立派な建物だった。真夏の青空の下、青い屋根がすごく映えている。

 3階建てで部屋数が客室だけで10部屋もあるそうだ。1階はエントランスがあって、食堂と遊戯室と大きなリビングがある。

 浴室は結構大きいけどお風呂のお湯だけは井戸水を使うには量が多いので雨水をためた物をろ過して使うんだって。

 こういう島の井戸はちょっと塩分が混ざっちゃうことがあるらしいんだけどここの井戸は島の中心で深めにほってるから大丈夫ということらしい。


「陽菜ちゃんはここにいる間はこっちにあるウォーターサーバーかペットボトルのお水を飲んでね。井戸水も定期的に検査してるけど一番安全なのは島外から運んできてるお水だから」

 しずくちゃんが免疫抑制剤を飲んでる私のために専用の飲み物を準備してくれていた。こういう気遣いは本当にありがたい。

 自分でも極力気を付けるつもりだけど旅行のせいで体調が悪くなったりするとみんなが自分たちのせいだって思っちゃいそうで怖かったから。


 私がやりたくてやってることでも周りのみんながどう考えるかっていうことを気を付けないといけない。恭介くんとみんなをくっつけたのもそうだけど特に自分の体調に関しては無責任じゃダメなのだ。


 とにかく荷物を置き終わったらみんなとにかく海に行きたくてソワソワしちゃってる。そうだよね。私も砂浜を早く見てみたい。海なんて本当に心臓の手術をして以来なのだ。


 朝早く出たから時間はまだ午前10時くらい。お昼前に遊ぶにはいい時間だろう。

「お昼ご飯はお弁当だから砂浜まで持っていきましょう。そしたら午後までたっぷり遊んだり撮影したりできるから」

 しずくちゃんが提案してくれて、みんな諸手を上げて賛成。

「アンタたち~、夏休みの宿題は終わってるの? 午前中の涼しい時間はお勉強の時間だって小学生の頃に習わなかったの?」

 一番先生のいうことを聞かずに生きてきてそうなちさと先生がみんなに声をかけてる。明らかにみんなをからかって言ってるのが分かるけど、みんなからブーイングされている。


 みんながブーブー言ってるのを笑ってみているちさと先生の後ろから忍び寄る影が一つ。

 ガバッと抱きつくとちさと先生の着ているTシャツの裾から手を突っ込んでおっぱいを揉みしだく。そんなことをするのはもちろんみおちゃんだ。

「そんなこと言ってるけどちさとセンもばっちり下に水着着こんでるじゃん。あ~エロい水着。ひょっとしてこれ着て恭っちのことを誘惑しようと思ってたとか?」

「あっ。こらッ……ンッッ、ダメッ」


 抵抗しようとしてるがみおちゃんのテクニックであっという間にメロメロにされてしまってるみたい。それにしてもみおちゃんは先生相手でも容赦ないというか後が怖くないのかな?

「あ~、こんなエッチなクロス・ホルターのヒョウ柄ビキニとか。恭っちとゆうきっちしか男がいないのに誰に見せるつもりだ~? ウリウリぃ」

 Tシャツをお腹の方から胸の上までめくり上がらせて今やヒョウ柄水着(確かにすごくエッチに見える)の中に手を突っ込んでちさと先生の先っぽをクニクニしてるみおちゃん。やりたい放題でエッチすぎる光景に思わず恭介くんの目を後ろから目隠ししてしまう。


「あ、陽菜!? 目隠しされたらちさと先生を助けに行けないから」

 多分ひよりちゃんが助けに行くから大丈夫……と思ってひよりちゃんを見ると股の間に手を挟むようにしてモジモジしている。いったい何があったのひよりちゃん?

「もうダメ……助けてみなもぉ!」

 みおちゃんに限界まで責められてちさと先生が思わず助けを求めたのは同級生だったという刑事さんだった。


 みなもさんはみおちゃんからひょいッと奪い取るようにちさと先生を抱きしめると自分の腕の中で抱きしめて背中を撫でてあげている。

「ちさと……あんたレズ風俗のせいで女の子の愛撫に耐性無くなってるんじゃない?」

「うう、藤岡には後でお仕置きしておくから」

 あ~、みおちゃんはお仕置されるの大好きだから返り討ちにあうちさと先生の姿が容易に想像できる。


 手で隠してた恭介くんの目を放してあげると一連の流れが終わっていることにガッカリした顔をしたのでお尻をつねっておいた。エッチなのは知ってるけど浮気はダメだよ恭介くん。


「みんな、忘れ物ないか? もしあっても浜からここまでは500mくらいだから俺が走ればすぐだからいいけど、極力忘れ物はないようにね」

 恭介くんの確認の元、電動カートに写真撮影の機材とお弁当、着替えを乗っけて出発!

 砂浜のそばに更衣室になる四方を囲まれた東屋とパラソルとか浮き輪とかを置いている倉庫があるらしい。

 釣りに来る人も含めて結構一年中、西園寺グループの社員さんと家族が遊びに来るからいろんなものが充実してるんだって。


「後で陽菜の分の浮き輪を借りよう。俺が引っ張って沖に連れて行ってあげる。広い空の下2人っきりでぷかぷか浮いたら気持ちイイよ」

「わぁ。すごく楽しそう。私全然泳げないけど恭介くんと一緒だったら海も大好きになれそう」

 ちょっと子ども扱いされてるかもしれないけどすごく嬉しい。だって恭介くんが純粋に私を楽しませようとしてくれてるのが分かるから。


「あっ、いいなぁそれ。私も連れて行ってもらっていい? 恭介さん」

「きょーちん、まるもやって欲しい。きょーちんと浮き輪で2人きりがいい」

「恭介、私にもやってくれないだろうか。いや、泳げる私は恭介を浮き輪で運んでもいいから」

「恭っち、あーしもおねがい。2人っきりで海でうわき、最高!」

 ピーーーーーッ! みおちゃんレッドカード! 浮き輪うきわがいつの間にか浮気うわきになっちゃってるから。


「多々良先輩、私もお願いしてイイですか?」

「きょーすけ、僕だけ仲間外れにしないよね。水泳部って言っても遠泳なんて出来ないから」

「た、多々良くん。学校のプールでも見せたみたいに光画部だけど私は泳げるから一緒に遠泳して欲しいな」

「あ~、若いねぇ……女子高生は。みなも、あさか、私たちはこっちで酒盛りでもしましょう」

「こら、ちさとは監督役だからお酒飲んでいいのは22時以降って言われてるでしょ?」

「そうよ、ちさとちゃん。何かあった時に対処しなくちゃいけないんだから」

「あ~、多々良任せた。もう童貞じゃないんだから女子はちゃんと守りなよ」

 谷垣先生がやさぐれてるなぁ。


 とりあえず砂浜にビーチパラソルを立てるのが早いか、私は着ていた白いワンピースをガバッと脱いでしまう。


「ひ、陽菜!?」

 恭介くんの焦る声。もちろん下に水着を着ている。生まれて初めて人に見せるために買った水着。モノキニビキニと言われる前から見るとワンピース、後ろから見るとビキニみたいになっている白の水着。大胆過ぎて恥ずかしくて顔が真っ赤になっちゃいそう。


 緊張で胸がドキドキと早鐘を打って心配になるくらい。頑張れ私の心臓。

「ど、どうかな? 恭介くん? 私の水着似合ってる?」

 誰よりも早く恭介くんに水着を見せたかった私の気持ち。分かってくれるかな?

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 毎日18時に最新話公開中

 次回更新は9月15日です。

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