第277話 気が付くと誰かの背中で揺られていた

 そんなこんなでみんなで歌って騒いで漁港までやってきた。


 いつも島までの移動をお願いしている漁船らしく漁師のおじさんとしずくが挨拶している。

 みおも部長として礼儀正しい挨拶をしている。おじさんはギャルが敬語使ってくるから逆に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてるぞ。


「じゃあ、荷物を積み込みましょう。こっちの3つのクーラーボックスの中身は3日分の食材だから」

 しずくの仕切りで荷物を船に積み込む。島では釣りは一応できるし磯釣りの漁場としては恵まれているらしいが天候次第の部分もあるのであまりあてにしないようにってことだった。

 それに写真を撮る方に本気になったら釣りなんてしてる暇なんてないかもしれないし。


「ほら、多々良! きびきび働く。力は男のあんたの方が強いんだから」

 なんだかちさと先生が俺に厳しい? なんか機嫌を損ねるようなことをしただろうか。

 ゆうきは同じことを言われたりしないが別に不公平だとは思わない。実際の所、ゆうきに筋力をつけようという俺の頑張りはことごとく失敗してゆうきの二の腕は今でもポヨポヨのままだし。


 筋力で言うとこのメンバーだとひより>俺>みお>のどか>しずく=さんご先輩>陽菜=ゆうき=村上って感じだろうか?

 最後の3人は無理に荷物を運ばせない方がいいかもな。漁船との間はちゃんと板がかけてあるって言っても海にでも落ちたら大変だから。

 みなもさんも力持ちだからどんどん荷物を運ぶ。みんなが船の手前まで荷物を運んで俺、ひより、みなもさんの順でバケツリレーの要領で荷物を積み込む。


 一番揺れてる板の上でも全く不安定さを感じさせないひよりの足腰ってどうなってるんだろう。あの足腰をガクガクにさせることが出来るのが自分だけって思うとちょっと変な気分に……思わずひよりのおしりに注意が向く。あ、でもインターハイ優勝後にみおにイカされまくってたのもエッチだったなぁ。

「恭介くん! 真面目に運ばないと危ないよ」

 多分また陽菜に頭の中を読まれたんだろう。注意される。

 うん、不安定な場所で荷物を運んでる最中にエッチなことを考えちゃダメだよね。気を付けます。


「ひより、これで最後だ」

 そういうとみおの撮影バッグを渡す。今回の撮影旅行は光画部の撮影機材だけでも結構な量になっている。レフ版とかまで持ってきてるもんね。

「ああ、恭介お疲れさま。でも恭介が手伝ってくれて助かった。恭介は力強くて逞しいな」

 ひよりがちょっと惚れ直したような顔をして俺を見つめる。やっぱりひよりは強い男が好きみたいだな。筋トレ続けてきて良かった。


「じゃあみんな次は船に乗り込んで。落ちないように俺が手をひくから」

 俺が船側に乗り込んで1人1人手を引いて船に乗り込んで貰う。陽菜とかゆうきは補助がないと危なっかしくて海に落ちちゃいそうだし。

 まるはバランス感覚バツグンで全然補助なんて必要ないのに嬉しそうに俺の手を掴んでいた。

 さんご先輩はそんなに照れないでください。ちさと先生もそんなキャラじゃないでしょ?


「それじゃ全員揃ったわね。ここからが旅行の本番だからみんな気合を入れていきましょう」

 ちさと先生の宣言でここから30分ほどの船旅だ。漁船だから揺れるとは思っていたけどまさかここまでとは……

 俺は海を舐めていたらしい。そしてここに来て発覚。この身体こっちの多々良恭介、船酔いにメチャクチャ弱い。

 こういうのって慣れだから仕方ない部分はあるけど、入れ替わり前と比べてもめちゃくちゃ酔いやすいみたいで一発でダウンしてしまった。


 出航5分で吐き気がして10分後には海に向かって戻してしまった。ああ、陽菜とさちえさんが作ってくれた豆腐のお味噌汁が魚のえさに……


 今はカーペットの敷いてある船室で陽菜の膝枕で寝ている。寝れればいいけど気持ち悪くて横になってるだけ。

 陽菜が俺の髪を優しくくしけずってくれているのでその感触だけが気持ちイイ。

「ありがとう、陽菜……ゴメンね、船酔いなんかになって」

「ううん、気にしないで。恭介くんでも苦手なものがあるんだって思ってちょっと安心しちゃった」

 最近弱いところばかり見せてるような気がするけど、陽菜の中では俺は完璧超人みたいに思って貰えてるみたい。もっとカッコいい男を目指して頑張ろう。


「恭介君、このお薬を飲んで。市販の酔い止めだからそんなに強いものじゃないし眠くなるけど優しいお薬だから」

 そういうってあさかさんがペットボトルと一緒に錠剤を2錠渡してくれた。酔い止めを飲むなんて何年ぶりだろう。って言うかこの身体だと初めてだけど。

 飲みなれない薬だったからか俺の意識はそのまま暗いふちに落ちていった。





 気が付くと誰かの背中で揺られていた。おんぶされてる?

「ひ、ひよりか……」

 目の前の黒髪と匂いでひよりだと分かる。前に回された手におっぱいが当たらないのも大きなヒントになった。

「ああ、恭介。目が覚めたか。あんまり良く寝ていたから起こさずに寝たまま運ばせて貰ったぞ」


「ああ、よかった。恭介くん目が覚めたんだ。もう船が島について今は船着場から新館の方の別荘に移動しているところだよ。荷物は電動カートで運べるけど運転する人以外は乗れない荷物運搬用なんだって。道が悪くて乗り心地も悪いらしいからひよりちゃんにおんぶして運んでもらっていたの」

「そうか、ありがとうひより。迷惑ばかりかけるな」

「水臭いことを言うな。恭介と陽菜ちゃんのためになるなら恭介を運ぶくらいなんてことないさ。それに……腰のところに恭介のが当たっておんぶというのは役得なんだな」

 う~ん、ひより以外がいったらセクハラで訴えたいところだけどこの子の場合は純粋にそう思ってそうだしなぁ。元の世界で男子が女子をおんぶしておっぱいが当たって役得って思うみたいなものか。


「船から見たらこの島凄かったんだよ。針みたいに尖った岩と門みたいな穴の開いた岩が遠くからも見えて。あの2つの岩を見て天国に繋がる島だって昔の人が考えたっていうのもわかっちゃったよ」

 陽菜がちょっと興奮しながら話しかけてきてくれるのが微笑ましい。興奮してる陽菜が可愛い。

「あの2つは針孔岩と蝋燭岩って言われてるのよ」

 一緒に歩いているしずくが補足してくれる。どうも島の北側には奇岩群があるらしい。


 島には2つの別荘があり、2家族、もしくは2グループが宿泊やレジャーに使うことが出来るそうだ。今回は俺たちのグループだけでの貸し切り。しずくのお願いということで琴乃刀自が張り切っちゃったらしい。

 この2泊3日の間は天気予報も晴天続きだし本当にいいタイミングだった。


「でも、極門島ごくもんとうなんて怖い感じの名前だからどんな島かと思ってたけど有名な猫島だとは思わなかったよ」

 さんご先輩が言う。この人もネコが好きなんだったっけ? 猫島って猫がいっぱい住んでるとか?

「衛星写真から見ると島の形がなんとなくネコの顔に見えるから猫島なんだよ」

 まるが教えてくれる。う~ん、まるでも知ってることを知らなかったとは……あ、まるはしずくと一緒にここに遊びに来たことがあるんだ。なら仕方ないか。


「そうそう。上から見ると猫みたいな形の島に赤い屋根の旧館と青い屋根の旧館がちょうど猫の目の位置に立っててオッドアイのネコみたいって言われてるんだよね。今回撮影用にドローンも持って来てるから後でドローンで見てみたらいいよ」

 みおの撮影機材がやたら量があると思ったらドローンまで持って来てるの? 本当にみおは撮影に関しては手を抜かないな。


「多々良先輩、気分がよくなったら海水浴場に行きましょう。プライベートビーチどころか本当に私たちしかいない無人島の浜辺ですよ。わざわざ砂を運んできて砂浜にしているんですって。岩清水先輩のお家ってどれだけお金持ちなんですか? 全裸で泳いでも大丈夫なビーチってもうヌーディストビーチじゃないですか?」

 後輩の村上が興奮気味に言う。アホの子の考え方! う~ん、誰にも見られない=全裸OKって考え方が女子じゃなくて貞操逆転して男子になっちゃってる感。


 この子たちみんなどっちかっていうと裸を見られるのは恥ずかしくない側だから全員で裸になれば同調圧力で俺も全裸に出来るとか思っていないよね。

 俺は逆に裸を見られても比較的平気な元の世界の男子だから、村上のお兄ちゃんのゆうきが恥ずかしいだけだから止めてあげなさい。

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 次回更新は9月14日です。

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