第265話 ひよりは図星を突かれて真っ赤になってしまう
そんなこんなで朝目覚めた俺たちは慌てて部屋のシャワーを浴びて素知らぬ顔で朝食バイキングに顔を出した。
みおには全部バレてるわけだが流石に近藤先生を前にしてそういうからかいをすることもなく、ひよりの方も平常心を取り戻して食べる分を適量だけよそって持って来て俺とみおを安心させた。
みおが小声で俺に耳打ちする。
「恭っちやるじゃん。ひよりっちが完全に自分のペースを取り戻してるね。それになんだか肌艶がめちゃくちゃよくなってるし。これは午後からの試合も期待できそうだし写真映えもしそうだね」
確かに今のひよりが負ける姿が想像できない。恋する女の子は強いってことかもしれないけど。
インターハイの剣道は4日間の日程をとられているが男子の試合や団体の試合もあり、今回俺たちはひよりの女子個人戦のみなので後半の2日間だけの参加となる。
ひよりの試合としては初日が午後からで1~4回戦、2日目が朝から準々決勝から決勝までの3試合で合計7試合勝利すれば優勝ということだ。
竜王旗で28人抜きしているひよりから見たら大したことないように思えるかもしれないが、それぞれの選手が県の代表であり県で1番か2番目に強い選手なのだから油断することはできない。
刀剣女士のインスタ用にみおがひよりに張り付いて生中継、俺はトーナメントでひよりが次にあたる選手の偵察を中心に動くことになった。
最初のうちは試合場が4コートとられているので移動しながら偵察することになる。女子が多い会場なので俺は多少目立っているかもしれない。
たまに俺の顔をガン見してくる道着姿の女の子がいるんだけどなんでだろう? 学校にいるときとは違う注目の浴び方なんだけど。
ガシッ
「おう、多々良じゃないか。久しぶりだな。元気してたか?」
そう言いながら後ろから俺の肩に筋肉質な腕を回して抱き寄せられた。俺の背中にめちゃくちゃデカくて柔らかい巨乳が当たる。
おっぱいの感触をたっぷり味わいたいけど慌てて飛びのいて距離を取る。と、そこにいたのは
身長は俺よりも10㎝くらい高くて短く切った髪を金髪に染めている。あの時は鋭くて怖いくらいだった目つきは今はニコニコしていてこんなに大きい人なのにちょっと可愛いかもって思ってしまった。
恰好はブルーのジーンズに白のカットソーで胸がなかったらイケメンのお兄さんって感じかも。
「多々良がいるということは
石動さんの後ろにはあの時副将を務めた女子大生がいた。今日は黒のチューブトップにデニム地でピチピチのミニスカでめちゃくちゃエロいお姉さんだった。思わず股間が反応しそうになる。
「こら、石川。お前みたいな下品な女に近づかれたら純情な多々良が怯えちまうだろうが、どっかいけ、シッシッ」
「そんなことを言いながら本当は石動が多々良と二人っきりになりたいだけのくせに」
「はぁ、違うし。くだらないこと言ってると殴るよ」
どうやらこの二人は気の置けない友人同士らしい。えっと、ウルフカットでカッコイイお姉さんの石川さんはこっちの世界に来てからも会ったことのないタイプなので正直気になってしまう。
そんな石川さんがいきなり頭を下げて謝ってくる。
「その節はすまなかった。小烏の傷めていた足を攻めるような真似をしてしまって。剣士として卑怯な行いだったと反省している」
「え、あ、あれは無理して試合に出てたひよりと出させた俺が悪いんで……顔上げて下さい。それに相手の弱点を攻めるのは兵法としては間違ってないと思います。もし気になるなら後で小烏と会って貰ってその時話してもらったら」
そういうと石川さんの肩に手を当てて顔を上げてもらおうとする。
「ま、あそこまでやって負けちまったからアタシたちは大学で先輩たちにさんざん怒られたし今日はこんなところまでスカウトがてら高校生の試合を見に来させられてるってわけ」
俺のことを抱きつくようにして石川さんから引きはがしながら石動さんがいう。体育会系のせいかやたら距離感が近いなこの人。
「でも石動さんは去年のこのインターハイで勝ち抜いて優勝したんですよね。凄いと思います」
俺が本気でいう。今年の大会もレベルが高い。この猛者たちとの試合を全て勝ち抜いて日本一になったんだから本当に凄い。俺が褒めたら石動さんが真っ赤になった。
「ま、まあな。去年の決勝はこの石川とアタシだったんだよ。アタシの方が上だから竜王旗でも私が大将だったんだけどな。って、そんなことよりアタシを倒した多々良がなんで男子の方で出てないんだよ。お前のところの男子の代表2人とも2回戦であっさり負けてたぞ」
うちの県の男子はすでに残っていないらしい。
「俺、水泳部ですから」
「はぁ? 水泳部?」
「はい、水泳部で地区予選で負けましたからインターハイに出てません」
石動さんが口をパクパクさせている。
「お、お前剣道部じゃないの? だって小烏は県代表で……え!? ええ~っ!」
俺が素人って言わない方がいいんだろうか。ひょっとしたらショックを受けちゃうかもしれないし。でもこの剣道にまっすぐな人に嘘をつきたくないしなぁ。
「えっと、俺はひよりの実家の
ちょっと鯖を読む。真面目に取り組んだのはもっと短いし実質3ヶ月くらいかな。
「あははははは。アンタ最高。ここまでポッキリ折れた石動の顔初めて見たわ」
爆笑しながら石川さんが俺の背中をバンバン叩いてくる。会場の隅とはいえここまで騒いだら迷惑なんじゃなかろうか。
真っ赤になったり真っ青になったり忙しい石動さんが俺の腕をムギュッと掴むと爆笑している石川さんを置いてズンズンと試合会場になっているアリーナのふちを歩いて移動していく。
目的の人物が試合を終えているのを確認したのかその長身(石動さんほどではないが)の刀剣女士の前に俺を引っ張っていく。
「おい、小烏! ちょっとコイツについて聞かせてくれ」
石動さんが試合を終えてカメラを構えたみおに向かって話しながら汗を拭いているひよりに声をかける。汗を拭いているといっても暑さで汗をかいたのか息一つ切らしていないのが画面の向こうの視聴者にも伝わっているだろうか。
「ん、恭介どうした。ああ、石動さん、お久しぶりだな」
ひよりは俺が腕を握られているのを見て石動さんの腕を掴んで外させる。なんとなくひよりの背中に隠れてしまう俺。それを横から撮るみお。
なんだろう、竜虎相撃つというかこの会場内で一番緊迫感があるのはこの空間なんじゃなかろうか。試合中でもないただの会場の隅っこなのに。
「多々良から聞いたんだが、コイツは剣道を初めて半年で私でも打てないような突きを入れてきた。どうやってあんな突きを仕込んだんだ?」
「恭介の突きか……正直言って私にも理解できないレベルで私に酷似した突きだった。恭介にあの突きが出来たこと自体が私にも信じられなかった」
なにそれ? 俺の突きってオーパーツかなんかなの?
「あの突きが出来る男を水泳部に放っておくってどういうことだよ小烏。剣道界の損失だろうが。お前がコイツを育てる気がないならうちの大学でスカウトして貰っていくけどいいか?」
「なにを言っている。恭介を誰かに渡すわけがないだろう。恭介が剣の道を志すならその時は私が一生面倒を見る」
「だけどお前だって今のままだと限界があるだろう。もっと広い世界を見たいからインターハイにも出てるんだろ? だったら多々良にももっと広い目で剣道の世界を見せてやるべきだ」
2人が俺の剣の道? を巡って争っている。どうなってるのこれ? とりあえず「私のために争わないで」っていってみるか?
「恭介の突きは天性の部分があるから下手に手を加えると歪むかもしれないぞ。多分腰の動きに他にはない力強さがあるんだ」
「ああ、確かにあの時にアタシが気圧された気合の声も下半身から音が響いてくるみたいだった」
ちょっと待って!? 2人ともちょっと
ひよりと石動さんが喧々諤々の議論を交わしているところに追いついてきた石川さんが石動さんの肩をぽんっと叩く。
「石動ちゃん残念。この2人もう出来ちゃってるわ。多分昨日もヤってるし。小烏も処女の頃にはなかったすごみが出てるし。この2人が欲しかったらまとめてスカウトして目の前でイチャつかれる覚悟しなよ」
俺とひよりは図星を突かれて真っ赤になってしまう。そういうのって伝わっちゃうものなの? それとも石川さんとか みおが異常なの?
「えっ? えっ? えええええ~っ!? そ、そうなの? 多々良の恋人ってあのチアガールの子じゃなかったの?チアガールの子は奥手そうだったから多々良ってまだ童貞だと思ってのに」
なんで石動さんが俺が童貞じゃなくなってそんなにショック受けてるの? 剣道家って童貞の方がいいとかあるの?
気付くと石川さんといつの間にか録画を止めているみおが姉妹かってくらいいい表情で石動さんのことをニヤニヤしながら見てるし。
その後石川さんからひよりへの謝罪なんかもあってちょっとバタバタした。
結局ひよりの3回戦が始まるまでに俺の偵察結果を伝えることが出来なかった。何のために偵察に行ってるのか分からなくなりそう。
それでも勝ってくれるひよりに惚れ直すんだけどね。
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会場で恭介がやたら注目されていたのは竜王旗剣道大会の優勝試合の動画やインタビューを見ている女子選手が多かったからです。
その界隈では降ってわいたイケメン剣士としてちょっとした有名人だったりする。
(顔立ちは普通に整っている程度ですがこういう時ってイケメン扱いされますよね)
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次回更新は9月2日です。
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