第261話 きょうすけはヤリチン?

 翌日、しずくからのSOSを受けて部活後にしずくの家に寄って帰ることにした。

 陽菜にも来てもらってオブザーバー兼見張り役(?)として参加して貰う。


 しずくの家に来たのは前回俺が登場している同人誌「恭介くんとしずくちゃんシリーズ vol.3」の存在を知って説教に来た日以来だ。

 前回と違ってしずくの思いを受け入れてエッチまでしちゃった後だから別種のドキドキがある。


 ピンポーン


 ガチャッ

「恭介さん、いらっしゃい。もう陽菜ちゃんは来ているわよ」

 陽菜の自転車が家の駐車場に置いてあったからそうだろうとは思ったけどね。

「おじゃまします。芥川ももう来てるの?」

「うん、修羅場だから泊まってもらってるの。印刷所の締め切りまであと4日しかなくて」


 落した方が楽なのでは? と思ったがしずくの中では貞操逆転世界について世に広めたいという強い思いがあるらしい。

 確かにネタとして広まってくれた方が俺と陽菜の隠れ蓑としては都合がいいと思うけど。うちのクラスの女子はドロップロック先生(しずく)のファンが多くて愛読者だらけだからこれから安心して貞操逆転世界について話せるようになるのは嬉しい。


「しずくが俺と陽菜のために頑張ってくれてるのは嬉しいけど無理はしないでくれよ。しずくの体の方が大事なんだから」

 しずくの部屋に向かう廊下を歩きながらそういうとなにを勘違いしたのかしずくが真っ赤になりながら答えた。

「わ、私の体ってそんなに大事? ひょっとしてエッチの時気持ちよく使えるから?」

 俺のことをなんだと思ってるんでしょうか? しずくさん!?


「純粋に健康! しずくの健康が心配だからね。しずくの体はエッチで大好きだけどエッチだけが目的じゃないからもうちょっと冷静になって」

 2人で真っ赤になってしまう。エッチしちゃったせいで距離感がおかしくなってるよ。あとエッチしたことではっきりした貞操逆転世界の女の子たちと俺のお互いの性的な価値観のずれについてはこれから擦り合わせていこう。


「あ、恭介くん。待ってたよ。2人が聞きたい内容が私でも分からないことが多くて助けて欲しくて」

 ああ、やっぱりこっちの世界に来て長い陽菜じゃ答えきれなかったか。

 陽菜は向こうでの中一までの性知識しかないからこの世界から見ての貞操逆転世界である元の世界のエッチなことについては知識が足りてないもんな。


 今日の陽菜の格好は夏らしい白のワンピース。陽菜の清楚な感じが凄く出てて可愛い。

 あの清楚なワンピースで中身はむちむちでちょっとエッチな陽菜とイチャイチャしたいと妄想してしまう。


 陽菜の後ろからひょこっと顔を出した芥川が俺の顔を見て言う。

「きょうすけ久しぶり。助けに来てくれて感謝する。それにしてもイヤらしい顔をしてる。何を考えた」

 早速インタビューされている。ちなみにしずくの話では芥川に対しては俺が貞操逆転世界という発想を考えついた第一人者という設定になっているらしい。


 今日のしずくは白のカットソーに青のスカートでお嬢様っぽい格好だが、芥川の方は何故か制服の夏服でいつもの薄い灰色がかった髪を後ろで一つにまとめて銀縁の眼鏡をかけていた。身の回りの唯一の眼鏡っ子になったな。

「芥川はなんで制服なんだ? 夏休みなんだし普通の格好でいいだろ?」

 別に芥川の私服が見たかったわけじゃないけど友達の家で泊まり込みまでして制服というのはよく分からない。


「ん、制服でエロいシナリオを考える方が興奮する。パンツも白無地に限る」

 そう言いながら制服のスカートをピラッとめくろうとする。思わず俺の視線が下がってスカートの中を覗き込もうとしたところで陽菜の目つぶしがさく裂した。

「目が、目がぁ……」

「恭ちゃんは見ちゃダメ」

 陽菜さん、気持ちは分かるけど指二本で目つぶしはダメ! せめて目つぶしは貫手ぬきてでお願い。じゃないと突き指しちゃうかもしれないから危ないしね。

 あと、恭ちゃん呼びありがとう。なんか嬉しい。でも恭ちゃん呼びってことはエッチNGって意味でもあるよね。分かってる。芥川に手を出すつもりなんてゼロだから。


「大丈夫? きょうすけ。目が痛そう」

 まだ目を開けないでいる俺のすぐそばに制服のスカートのままの芥川がしゃがみ込む。目さえ開けば、目さえ開けば目の前に白無地の清楚パンツの楽園が広がっているはずなのに……


 陽菜としずくに両側から腕を掴まれて無理矢理クッションに座らされる。結局芥川のパンツを見ることはできなかった。




「それでね、恭介さんに来てもらったのはどうしても書けない展開があってどうすればいいのかなって」

「まずはここまで書いたシナリオをきょうすけに読んで欲しい……」

 そういうと芥川が俺にノートを渡してくる。芥川のシナリオノート、サン〇オみたいなキャラクターものの可愛いノートにエロいシナリオがびっしり書き込まれてるギャップが凄い。


「基本的に純愛モノ。貞操逆転世界の積極的な男子がガンガンに口説いて消極的な女の子が真っ赤になって。最後は危ないところを助けられた女の子が男の子に気持ちに応えて男性から積極的にエッチして処女喪失。女の子が処女だったことに男子が喜ぶところも聞いていたようにしてみた」

 フムフム、なるほど。元の世界の純愛系の同人誌って感じで俺にとっては違和感がないな。この世界の女子から見たらイケメンがカッコよく女の子を口説くエロ系同人誌に見えるってわけか。特に問題ないように見えるが……


「それで何が物足りないんだ? 十分に受けそうな気がするけど」

「貞操逆転世界の感じが不十分に感じるんだよね。あとね、男の子を恭介さんから聞いていたヤリチンにしようと思ったんだけどヤリチンにならなかったの。どうしたらこの男の子を恭介さんみたいなヤリチンに出来るの?」

 グハッ……俺に大ダメージが入りましたよ。しずくさん、俺のことをヤリチンだって思ってたの?


「きょうすけはヤリチン? どうしたら主人公をヤリチンに出来る?」

 俺と陽菜が元の世界からこの世界に来たことをカミングアウトした夜に皆に問われるままに元の世界のことをおもしろおかしく話した記憶があるが、その時話したヤリチンについての話がここで俺に振りかかってくるとは。


「えっと……今回はヒロインが1人で主人公と一対一だからヤリチンになるのは無理じゃないかな? ヤリチンは不特定多数とは言わないまでもたくさんの女の子とエッチしないとヤリチンってジョブにつけないから」

「きょうすけは沢山の女の子とエッチした?」


 芥川の追求が止まらない。そうだよね。この世界の女子からしたらヤリチンなんてUMA未確認生命体のたぐいだから興味津々だよね。

 こら、しずく。しずくと陽菜が真っ赤になってたら俺が二人とエッチした2人が竿姉妹だってバレちゃうでしょ!?


「そこは置いておいて、今回の話はそれなりにまとまっているからヤリチンの話は次回作に回して今回はこの純愛モノを膨らませた方がいいんじゃないかな。えっと、とかとかそういう男らしいポーズとか展開の方がいいんじゃないかな」

「男らしい? きょうすけはそういう強引なのが男らしいと思うの? そんな強引な男は見たことないけど貞操逆転世界は奥深い」

 危ねぇ……俺の中の男らしさはこっちの世界じゃ男らしさでも何でもないわけか。貞操逆転世界……まだまだ奥が深いらしい。


「壁ドンとかそういう男らしいのなら私いっぱい語れるよ! 小学生の頃、少女漫画も好きでいっぱい読んだし私の恭介くんとの思い出語ったらいっぱいカッコイイエピソードがあるよ。マンガにして欲しい」

 陽菜が目をキラキラさせている。ちょっと正体バレが怖いけど(特に陽菜が読んでいた少女漫画はこっちの世界に存在しないから)そこはしずくにうまい具合に調整して貰おう。


 それから陽菜は1時間ほどノンストップで過去の俺恭ちゃんがしたという貞操逆転世界(俺たちの元の世界のことね)の女の子的にキュンキュン来る行動を次々に挙げていった。

 恥ずかしすぎて俺がキュン死しそうなんですけど。自分が何の気なしにしていた行動がそこまで陽菜に刺さっていたとは知らなかった。


「陽菜ちゃんスゴイ! これは絶対ウケル。そんなカッコイイ男子がいたらこの世界でもモテモテ間違いなし」

「やばい……姫川さんの話す男子のことを思い浮かべたらパンツが濡れてきた。ちょっとトイレに行ってスッキリしてくるから姫川さんはいったんストップ」

 そういうと芥川は本当にトイレに行ってしまった。マイペースすぎるだろう。あとナニしにトイレに行った!?


「これは今回はヤリチンのエピソードを入れてる場合じゃないわね。恭介さん、明日から締め切りまで陽菜ちゃん借りてイイ?」

「いいけど、陽菜も連れてひよりのインターハイの応援に行くつもりだったんだけど?」

「それはじゃあ、みおちゃんに頼んで一緒についていって貰ったらイイよね? みおちゃんにはこっちのヘルプ頼むつもりでスケジュール空けて貰ってたから」


 陽菜と顔を見合わせる。ちょっと想定外なんで2人で相談させてください。

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 小学生時代の恭介は陽菜にとっては王子様でした。

 今でも王子様ですけどね。


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 次回更新は8月29日です。

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