第二部 三章 しずくは同人誌の夏、ひよりはインターハイの夏
第260話 暗礁に乗り上げて座礁すればいいんじゃ
陽菜がみんなのことを受け入れた理由が分かったら、ますます陽菜のことが愛おしくなった。陽菜は何よりも俺のことを一番に考えてくれているのだ。
陽菜のことを考えているつもりで自分の殻に引きこもってしまった自分が情けなくなる。
だけど、そのままじゃいられないからこれからのことを考えないと。
変な言い方だけどみんなとの距離感はこれまでよりもずっと近くなったけど、だからと言って変わってしまったわけじゃない。
今までのように付き合いながらお互いにエッチなことも含めて正直になれる関係になれればと思う。特に性的な価値観が本当に逆だからしっかり擦り合わせないと大きな誤解を生みそうだし。
将来のことまで考えるといろいろとルールをつくったり、生活のことを考えたり、家族が増えて子供が生まれることを考えたらしっかりとした計画も立てなくちゃいけないと思うんだけどそれよりも前に差し迫った問題があった。
ひよりのインターハイ出場である。
俺が周りに目を向けずに陽菜にすがっていた間にひよりは県大会の個人戦で優勝してインターハイ出場を決めていた。
ひよりの初めてを貰った後でひよりから改めて県大会優勝とインターハイのことを伝えられて本当に情けないやら申し訳ないやらで泣きそうになったが、ひより自身は「恭介が振り向いてくれるまで恭介の刀剣女士としては負けられなかったからな」と男前なことを言っていた。
インターハイと言うともう一人、女子水泳部のゆかり部長も個人戦で200mバタフライで県で2位に入り、200m平泳ぎで優勝してインターハイ出場を勝ち取っていた。こっちは俺の
今年はインターハイは北海道で開催されるが、どうにか両方の応援に行きたいと思っている。
それぞれ剣道の女子個人戦が8/5-6、水泳が8/17-20の予定なので一度に応援が済むわけでないのがつらいところだ。
「恭介くんの8月のスケジュール、だんだん詰まってきてるね」
陽菜の家に帰って来てお風呂に入って夕食を食べて陽菜の部屋でくつろいでいる俺にカレンダーを見ながら陽菜が言う。最近は陽菜の部屋に入り浸っているので俺のスケジュール管理用のカレンダーまで陽菜の部屋の壁にかかっている。
「ひよりの方は多分いいところまで行くだろうから2日とも日程を押さえておいた方がいいだろうし、水泳の方は純粋に来年にむけてトップ選手の泳ぎを見ておきたいんだよな」
悩ましいところだ。それだけ旅行して泊まるとなるとお金もかかるし。
幸い北海道へは近くの空港から札幌直行便があるだけましなんだけど。直行便がなかったら東京まで一回出てから乗り換えることになるところだった。
「ひよりちゃんの応援には行きたいかも。ゆかり部長さんの方は恭介くんのマネージャーをしていた時にお世話になったから応援はしたいけど水泳部のみんなも今回は北海道までいかないんだよね?」
いかんせん北海道は遠い。今回はひよりもゆかり部長も本人と部活の顧問だけがついていくと聞いている。
インターハイとかって近くの県で開催される方が部員みんなで応援に行けていいよね。今回の北海道は遠すぎる。個人競技になっちゃうと気軽に応援にってわけにも行かない。
「とりあえずひよりに電話してみよう。ある意味で刀剣女士の活動だからインスタ用の写真も押さえておきたいし、そうなるとみおも行った方がいいかもしれないし」
うんうんと隣で陽菜も頷くのでまずはひよりに電話をする。
プルル、ガチャッ
「恭介か!? もしもし」
ワンコールで出た上にもしもしよりも俺の名前の方が先なんだけど。
「ああ、俺だけど。なんだかすごく電話とるのが早かったけど何かあった?」
「いやちょうど今、恭介に電話するかどうか考えていたところだった。なんだかこういうのは心が繋がっているみたいで嬉しいな」
本当に嬉しそうなひよりの声にちょっと照れてしまう。隣の陽菜を見るととりあえず気にしている様子はない。ひよりと繋がっていることにイヤな気分にはならないようだ。
「ひょっとしてインターハイのことで電話しようとしてた?」
「ああ、いんたーはいの応援をして貰えればというのといんすた用の写真をどうしようかと思ってな」
「そのことなんだけど俺かみおが応援に行ければいいかなって思って。ただ、ひよりの刀剣女士の活動費用だって無制限に使えるわけじゃないだろ。だから応援に行くにしてもこっちも多少は自腹切らないといけないだろうし」
「ああ、ずいぶんとふぉろわーさんも増えて収益化が出来てきたってみおちゃんが言っていたから予算が出せるか確認してみよう。陽菜ちゃんも来てくれるんだろう?」
ひょっとしたら電話越しの気配で陽菜がいることまで分かったりするんだろうか?
ちなみにひよりのインスタグラムもみおの個人事務所にて管理する流れになっている。みおの個人事務所はみおの母親を社長にすえて一昨年立ち上げたのだそうだ。税金対策って大変だし大切だよな。
「とりあえず陽菜も行けるように計画したいからよろしく」
その後はちょっと電話口でお互いの気持ちを伝えあったりイチャイチャしてから電話を切った。
ちょっとイチャイチャし過ぎたみたいで電話を切った後に陽菜からいっぱいキスされたけど。マーキング? マウンティング?
陽菜のことが一番好きってベッドの上でいっぱい気持よくして分からせてお互いに荒い息をしているとしずくから電話がかかってきた。
「もしもし、しずく? どうした?」
「恭介さん、陽菜ちゃんもそこにいるよね? もう間に合わないかも……大ピンチなの。助けて」
基本陽菜がいる場合はスピーカーにしているので陽菜がしずくに質問する。
「しずくちゃんどうしたの? いったい何があったの?」
「陽菜ちゃん……あのね、私と理央が同人誌を描いているの知っているでしょ?
今年の夏コミ受かって「恭介くんとしずくちゃんシリーズ 四部作」を3日目に販売しようと思っていたんだけどもう一冊追加で出そうと思っていた新作がどうしても上手くまとまらなくって……理央と考えた新作が暗礁に乗り上げてるの」
そのまま暗礁に乗り上げて座礁すればいいんじゃなかろうか。
「それは大変だね。それで私は何をすればいいの? 私マンガなんて描けないよ。恭介くんも描けないと思うけど」
うんうんと隣で頷いておく。ついでにしずくの作品のモデルにされるのは前回までで終わりにするように話してある。流石に本当にエッチした今の状況でモデルにされてしずくとしたガチのエッチを作品に落とし込まれたら困るし。
しずくは画力があるんだからいくらこの世界の女子的に平気だからって自分や友達をモデルにせずにちゃんと架空のキャラクターを創造して肖像権に問題ない同人誌を描いて欲しい。これも元々は多分しずくに対する俺の独占欲による部分もあるんだけど。しずくの裸もいくら絵でも他の男に見せたくない。
「あのね……理央って覚えてる? 私が一人だけ貞操逆転世界の概念を伝えたいって言った相手は理央なの」
うん? 理央っていうと現視研の部員でしずくと一緒に同人誌を作ってるシナリオ担当の芥川理央のことだよな。
「私、理央と一緒に貞操逆転世界の同人誌を描いてこの概念を広げてしまおうと思ったの。
男子が性的なことに積極的で女の子が恥ずかしがる世界観。この世界観を同人とかサブカルの世界に広げちゃえば恭介さんと陽菜ちゃんが本当に貞操逆転世界から来たってことがバレにくくなるんじゃないかと思って」
なるほど、木を隠すなら森の中……じゃないけどみんなが貞操逆転世界についての物語を知っていてその話をしている環境があれば俺や陽菜が万が一元の世界の話をしても創作物の話をしてるように見えるって寸法か。
俺たちがこれから教室で話をする時に普通に会話の中に貞操逆転に関しての会話が出ちゃう可能性がある。特に俺に関してはクラスの女子はみんな俺の行動を気にしてるから。(陽菜と付き合うことになったから無理なアプローチとかは無くなったけど相変わらず注目はされている)
「そういうことなら協力したのに。なんで言ってくれなかったんだ?」
「企画して理央と一緒にシナリオを書き始めたのは生徒会長選挙直前の陽菜ちゃんの誕生日会をして恭介さんが私たちに別の世界から来たって告白してくれてお泊りしたあの後すぐなの。あの頃恭介さんは生徒会長選の対立候補で、会長選の途中からは私からのメッセージに本当に短い返信しかくれなかったから」
グサッ……いや、冗談めかしてる場合じゃない。しずくは俺と陽菜の正体ばれをしないようにと気を使ってくれて同人誌という手段を考えてくれていたのに俺ときた日には自分の殻に引きこもってしまったから。
「あの時は本当にごめん。そういうことなら何でも聞いて。俺も陽菜も協力するから」
「そうだよ、しずくちゃん。私にだって答えられることがあると思うし」
陽菜の常識は中一からこっちの世界の教育を受けてるからちょっとちぐはぐで偏っているから無理かもしれないけど。
「本当? じゃあ印刷所への入稿まで本当にもう時間がないから教えて欲しいの。『ヤリチン』と『少女漫画』ってどういうものなの?」
思わず陽菜と顔を見合わせる。やっぱりそのまま暗礁に乗り上げてチンボツすればいいんじゃないかな。
-----------------------------------------------
夏コミ3日目が女性向けエロ同人誌の販売日です。
この世界ではコミケの女性向けエロ同人誌が一番幅を利かせていて一番にぎわいます。
女性がどっと押し寄せるので現実の夏コミと比べても化粧の臭いとか制汗剤の臭いとかすごそう。
トイレは増やさないと大変なことになりそうですね。
毎日18時に最新話公開中
次回更新は8月28日です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます