第254話 それともわ・た・し?(陽菜視点)
まるちゃんを撫でている間に恭介くんの目の色が変わったように感じた。もちろん見た目が変わったわけじゃないし、何が変わったわけでもないんだけど私には分かる。
恭介くんが前を向いた。やっぱりまるちゃんの純粋さは恭介くんの心を動かした。
こればっかりは同じ世界で生まれてこっちの世界に入れ替わった私にはできなかったことだからちょっと悔しいけど本当に感謝している。
あ、目の色が変わったって言ってもまるちゃんにエッチな目を向けるようになったとかじゃないからね。相変わらず妹を見るような娘を見るような優しい目。
う~ん、キスまでしたのにこれだとまるちゃんの恋は多難かもしれない。いや、まるちゃんのキスで王子様の目を覚ましたからこそ、ここから先フラットに冷静な目で見てくる恭介くんをノックダウンするくらいこの世界を魅せていかないといけないんだ。
「今日はまるちゃんに泊まってもらうから……うん、恭介くんがいろいろ思う所があるのは分かるけどまるちゃんが一緒に寝たいからだから三人で一緒に寝よう」
そう考えると私のベッドは狭いなぁ。床に二枚敷布団を敷いた方がいいのかな?
「陽菜起きてる?」
恭介くんが私の隣から声をかけてくる。私たちは三人で川の字になって床に敷いたお布団の上で寝ている。私、恭介くん、まるちゃんの順で恭介くんを真ん中に挟んだ川の字だ。
まるちゃんがギュって恭介くんにしがみついてるのが可愛い。
「起きてるよ。恭介くん寝れないの? ひょっとしてまるちゃんに抱きつかれて興奮してる?」
「初めてエッチする前の陽菜に抱きつかれて寝てた頃に比べたらこのくらいは楽勝だけどね。
あの頃はよく手を出さずに寝れてたって自分に感心するよ。それもこれも陽菜の体がエッチすぎるのが悪い」
思わぬ流れ弾を食らって真っ赤になってしまう。暗くしてあるから顔は見えないはず。
「陽菜の心臓がすごくドキドキしてるよ。可愛い」
もう、思わず恭介くんの胸をポカポカしてしまう。
「アハハ、陽菜ゴメン……心配かけて。もう大丈夫だから、明日から普通に部活にも出られると思うし、来年はこの世界での水泳大会で成果を出せればって思うから真剣に打ち込むよ」
「うん、良かった……まるちゃんのおかげで恭介くんの顔つき変わったもん。だから恭介くんもまるちゃんの気持ちを考えてあげてね。おやすみなさい、恭介くん」
「ああ、真剣に向き合うよ。おやすみ……陽菜」
翌朝、恭介くんとまるちゃんでランニングに行った後(まるちゃんは途中で休んで、帰りは恭介くんにおんぶされていた。ちょっと羨ましい)恭介くんはいったん家に帰った。
日奈子さんとの朝の時間をゆっくり過ごしたいらしい。ちょっとだけホッとする。私のお母さんも嬉しそう。
今日も恭介くんは午後まで部活だ。
多分昨日まで楽していた分だけ今日は遅い時間にくたくたになって帰ってくるんじゃないかな。土用の丑の日も近いしお母さんと相談してウナギでも買ってこようかな。
みおちゃんとも電話でそんなことを話していたらみおちゃんが本当にウナギを買ってきてくれた。
さすがはインスタグラマーでお金を稼いでるだけのことはあるけど催促しちゃったみたいでちょっと申し訳ない。
「あら、流石はみおちゃんね。恭介くんにたっぷり精を付けてもらって搾り取っちゃう気なのね」
「そんなことないですよ、さちえさん。恭介のことを搾り取るのはあくまでも陽菜ちゃんですから。恭介がすぐ萎えちゃったら教えるあたしもつまらないですし」
なんかお母さんと意気投合してるし。ギャルメイクしてないみおちゃんは話し方まで普通だし不思議な感じ。恭介くんが帰ってくるまでにギャルメイクをすることになっているけど。
みおちゃんのエコバッグの中からアイスバーが5本も出てくる。コンビニで売ってるチョコでコーティングされた限定販売の大きいやつだって! 凄い美味しそう。食べたい食べたい!
けど5本? 私とみおちゃんとお母さんと恭介くんで4本でいいはずなのに?
「あ、それは全部夕方までに陽菜ちゃんが食べるやつだから」
なんなの? このカロリーのアイスを晩ご飯までに5本も食べてその上にうな丼なんて食べちゃったらまたお腹がパンパンになっちゃうよ!? なんなのみおちゃん? ひょっとして私ヘンゼルとグレーテルみたいにお菓子で太らされて食べられちゃうの?
「陽菜ちゃんがこういう顔してる時は変な妄想してる時なんだよね。あたしが今日何しに来たのかを忘れてない」
そう言いながら最後にオレンジジュースのペットボトルとミントの飴をエコバッグから取り出して終了。
私の方はみおちゃんの言葉でちょっと赤くなる。いや、ひょっとすると真っ赤かも。
「陽菜っちはすごいね。あーしにはこんなことは考え付きもしないしやろうとも思わないよ」
恭介くんが帰ってくる前にみおちゃんと二人で一緒にお風呂に入ってみおちゃんにメイクをして貰う。みおちゃんもギャルメイクをしていつものギャル風に着崩した制服を着ている。
「う~ん、確かに私も自分がこんな風なことをしちゃうなんて思いもしなかったけど……特に元の世界でずっと恭ちゃんと一緒に生きてたら普通に恋愛してそれで幸せだったと思うし。
でも今はこの世界で生きているのに何もしなかったら本当に後悔することになっちゃうと思うから。だから今日みおちゃんに来てもらったのも私の挑戦だから。一生恭介くんといるために出来ることは何でもするから」
「そこまでの覚悟があるならあーしは何でも協力する。もちろん恭っちのことは大好きだからあーしもそばにいたいし」
二人で顔を見合わせてちょっと笑う。もうすぐ恭介くんが帰ってくる時間だ。今日は二人で玄関でお出迎えするつもり。
昨日の今日だから恭介くんも身構えてるかもしれないしね。
ガチャッ
「ただいまー」
「おかえりなさい恭介くん、お風呂にする? ご飯にする? それともわ・た・し?」
「それともあーし?」
恭介くんが帰ってくるのを私は制服姿で、みおちゃんはギャル風制服でお出迎えする。
左右から恭介くんの手を引っ張るようにしてお家に上がってもらう。
「た、だだいま……って、二人ともなんで制服なの?」
「えへへ……可愛いでしょ? みおちゃんにお化粧して貰ったんだよ」
「恭っちの好きそうなナチュラルメイクの陽菜っち! これは自信作だよ。めちゃくちゃ可愛くない?」
「陽菜はいつも通り、いやいつも以上に可愛いけど……って押さないでも歩くから、とりあえず台所に行けばいいんだよね。分かったから押さないでってば」
恭介くんはご飯を食べてからお風呂に入るのが好きなので先にご飯を食べてもらおう。
夕方でご飯を食べるにはちょっと早い時間かもしれないけど疲れちゃているだろうしお腹が空いているだろうからきっとおいしく食べてもらえるはず。
私は……コンビニ限定アイスを5本も食べちゃったからせっかくのウナギがガッツリ食べられそうにないけど。
ウナギが……みおちゃんが買ってきてくれた高級ウナギがぁ……
「おお、すごい!? ウナギなんて豪勢ですね。土用の丑の日でしたっけ?」
「今日じゃないわよ、恭介くん。土用の丑の日は来週くらいだったかしら。ウナギはみおちゃんが買ってきてくれたのよ。陽菜ちゃんはごはん少な目で大丈夫よね?」
流石お母さん、私がアイスを食べてるのを応援していたもんね。私のお腹の減っていない具合はバレバレだ。
「「「「いただきま~す」」」」
四人で食べたウナギはとっても美味しかった。うう、もっと食べたかった。
今恭介くんはお風呂に入っている。恭介くんはお風呂は結構しっかり体を洗うから長風呂とまではいわないけどゆっくり入る方だ。歯を磨いていつものようにイソジンとか使っていたからキスも出来るはず。
私はみおちゃんと一緒にドキドキしながら恭介くんが二階に上がってくるのを待っている。
恭介くんが階段を上がってくる足音が聞こえる。
私のドキドキはもう限界だ。本当に移植して貰った健康な心臓に感謝しないと。
コンコンッ
いつもの恭介くんのノック。
「入っていいよ恭介くん」
ガチャッ
恭介くんが入ってくる。
「恭っち……色々と話したいこともあるけどその前にあーしは本気で陽菜っちと恭っちを応援してるからね」
「みお、大丈夫。陽菜が俺とみおが2人で話しをするための時間を作ってくれたんだろう?」
「違うよ恭介くん。今日のみおちゃんは私の先生だから」
さあ、覚悟を決めよう。恭介くんのために色々覚えるんだから。
-----------------------------------------------
陽菜の決断はいかに?
次回更新は明日8月23日18時です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます