第252話 恋する女の子の顔だ(陽菜視点)
これからのことをお母さんと相談した結果、まずは精神科医に頼ることにした。
恭介くんを騙すわけではないが、恭介くんの治療方針を考える参考になればということで精神科医の女医さんに訪問診療で私の家に来てもらう。
その上で精神科医としての訪問ではなくお父さんとお母さんの友達という設定の演技までして貰った。マーケティングの仕事の都合で私や恭介くんのような高校生の意見を聞きたいという説明を恭介くんにした上での訪問だ。
私が恭介くんの素直な意見も欲しいんだってとお願いしたので、恭介くんのどうでもいい病も少し顔を出しちゃっていたけどどうにか精神科医の先生との面談を進めることが出来た。
一時間もお話して「それじゃあお
明日恭介くんが水泳部に行っている間に先生のクリニックを訪ねて結果を教えてもらう予定だ。
「いってきます。午後には帰ってくるから」
「いってらっしゃい、恭介くん。えっといってらっしゃいのキス」
モジモジしながら言うとちゅっと軽いキス。恭介くんはちゃんとうがい薬でうがいした後じゃないと本気のキスは絶対しない。
おかげであれだけエッチしても私は風邪一つひいてないけど。
バタンッ
ドアが閉まると私の後ろでお母さんがニヤニヤしている。
「半月ちょっとで18個か~……毎日してるわけじゃないから結構二回戦してるのね。若くて羨ましいわ。流石は貞操逆転世界から来てる男の子よね」
「あ~、お母さんまた私がいない間に私の部屋のクローゼット覗いたでしょ!! もう怒るから! それに恭介くんは私と同じ世界から来ててそんな変な世界から来てないから!」
もっとも恭介くんがこの世界のことを貞操逆転世界って呼んでるからお互い様なんだけど。
「コンドームの話は置いておいて……さあ車に乗って。クリニックまでは30分だからそんなにかからないけど……アリバイ作りじゃないけどクリニックの近くにデパートがあるからそこで美味しいものでも食べて帰りましょ。
日奈子さんももう出てくると思うし」
お母さんが車の鍵を開けながら楽しそうに言う。恭介くんが元の世界では男の人は女の人の不倫に気付けないって言われてるっていうけどこっちの世界でも一緒なのかな? こっちの世界の方が女性の性欲が強いからもし女性の浮気がバレにくいんだったらちょっと怖いよね。
お母さんのアリバイ作りって言葉と手慣れた様子から怖い想像をしてしまった。ラブラブなうちのお父さんとお母さんに限ってそんなことないと思うけど……ないよね!? お母さん?
「「「ありがとうございました」」」
日奈子さんにも同伴して貰って恭介くんの保険証なんかも全部提出して3人で精神科医の先生からお話を聞くことが出来た。
結論から言うと精神的な病気になっているわけではなさそうで、疲れたことと周りに対して憶病になってしまった結果私に依存する傾向が出たのだろうということだった。
つまり、私以外の人からも十分に愛されているって伝わって今いる場所に安心できるようになれば元の恭介くんに戻れるってことだよね?
うん、私はすごく愛して貰ってる。そして友達にも恵まれてる。私と同じようにこの世界に受け入れられているって心の底から思うことが出来れば昔みたいな恭ちゃんに、この世界での本当の意味での恭介くんになれるんだ。
私の友達も……うん、恋のライバルたちも恭介くんの幸せを願ってくれている。
恭介くんには覚悟して貰おう。この世界には恭介くんを必要としている愛してくれる人が沢山いるって分かってもらうんだ。
一旦作戦会議が必要だろうね。覚悟してよね、恭介くん。
みんなと一緒にこの世界で恭介くんが誰よりも愛されてるって思い知らせてあげちゃうから。
二日後、恭介くんが出掛けている間に恭介くんの
日奈子さんが私たちを迎え入れてくれて、恭介くんの家のリビングが作戦会議室になる。
なぜ恭介くんの家に集まったのか。それは恭介くんが私の家に帰ってくるからだ。
もしも私の家に大勢で集まったならどれだけ気を付けても多少なりとも痕跡が残ってしまう。
誰かの髪の毛だったり、使ったコップの数だったりヘタすると置いてあるスリッパの位置が変わってるなんてなんでもないことから恭介くんは気付いてしまうのだ。
そういうところは敏感なのにたまにとんでもなく鈍感になっちゃうのが私の彼氏の可愛いところなんだけど。
それに対して恭介くんの家へは最近は着替えを取りに帰るくらいしか家に帰っていないし数日間帰らないこともあるので多少中の状況が変わっても気付かれにくいのだ。
もし何かあって恭介くんが早く帰ってきたりしたときに私が遠くに出かけていると恭介くんが心配して計画がバレるかもしれないから灯台下暗しで恭介くんの死角になりうる恭介くんのお家に集合することになったのだ。
「って陽菜ちゃんが偉そうに解説していますけど、考えたのは私なんですよ。恭介さんのお
一生懸命日奈子さんに説明し終えた私の頑張りを台無しにするしずくちゃん!
うう……日奈子さんの前で出来る女アピールをするチャンスだったのに……あと日奈子さんはしずくちゃんのお義母さんじゃないからね! その人は義母になるとしても私のお義母さんになる人なんだから!
ぎゅぅ
まるちゃんが私に抱きついてくる。
「師匠……きょーちんが全然遊んでくれなくなっちゃったんだよ。まるさびしいんだよ。いつ電話かけても優しくまるって呼んでくれたのに。なんだかすごく遠いんだよ」
まるちゃんのポニーテールの頭を撫でてあげると私に抱きついたままでまるちゃんが泣き始めた。
こんなに小さな子(同じ年だけどね……ついでに言うと私より体重は軽いけど身長は1㎝高いけどね)まで泣かせて、恭介くんは罪作りだよ。
「恭介くんが今どういう状況になっているか説明するね。ちょっと長くなるから分からないことがあったら途中で質問してくれていいから」
そうして私はお義母さんの日奈子さんと二人で、この世界の女の子4人に今の恭介くんの状況を説明する。
元いた世界で傷ついて死にかけて(というか恭介くんの自己認識では死んで)こちらの世界に入れ替わりしたこと。
その後にこっちの世界に馴染むために相手の望むように振舞い続けて嫌われないように常に気を張って生きてきたこと。
その中で私のことを好きになったこと。
私のこともこっちの世界の女の子だと思い込んでそれでも私のことを好きで告白しようと思っていたこと。
たまたま私が恭介くんの幼馴染であり同じ世界から来た人間であると気付いて告白したこと、そして最後に私と一つに結ばれて私以外がどうでもよくなってしまったこと。
しずくちゃん以外は私と恭介くんが結ばれたことに多かれ少なかれショックを受けていたけど、それ以上に恭介くんとの今までの付き合いの中で恭介くんがどういう風に無理をしていたかを知ってそれぞれショックを受けていた。
「まるはそれでもきょーちんのことが大好きなんだよ」
リビングの長ソファーに座る私に膝枕されたまま話を聞いていたまるちゃんが私の太ももの上から私を見上げて声をあげる。
「うん、恭介くんも皆のことを大好きなんだよ。ただ、みんなのことを異世界人だって思い込んで線引きしちゃったからその線を踏み越えて欲しいの。
だって恭介くんは違う世界の私だと思い込んでた時に私相手に告白しようとしていたんだよ。それって気持ちさえあれば別の世界の人でも問題ないって思ってるってことだもん」
「それは陽菜ちゃんが特別だからなんじゃないのか? 私みたいな女に本当に恭介は心を開いてくれるんだろうか?」
「何言ってるのよ、ひよりちゃんがダメだったら私なんてどうすればいいのよ。恭介さんがこの世界に来た一番最初の頃から付き合いがあったのにこうやって距離を取られちゃってるんだから」
「あーしって恭っちに負担ばっかりかけてたのかな? あーなんか泣きそう」
みんながちょっとネガティブになってる。前向きなのはまるちゃんくらいか。
「じゃあ先鋒はまるちゃんってことで私が決めちゃうから。恭介くんはね、好きでもない人に触らないし悩まないし一緒にお風呂に入ったりしないから。
私の彼氏はみんなのことが好きだから悩んで距離が分からなくなっちゃっただけでみんなのことを絶対好きだったからそれだけは信じてあげてよね」
私はみんなの顔を一人ずつ見つめる。うん、みんな前を向いた恋する女の子の顔だ。
恭介くんの中にある線引き、でも私たちの恋心にあっちの世界もこっちの世界もない。
恭介くんの代わりなんていないんだからみんなと一緒に恭介くんに自分の本当の気持ちを思い出してもらおう。
-----------------------------------------------
ちょっとした小話
陽菜「しずくちゃん達4人はクラスの中でも恭介くんのおちんちんがすぐに反応しちゃうメンバーだから恭介くんも絶対意識してるはずなんだよ」
みお「ちょと待って陽菜っち。その理屈で言ったら一番ヤバいのは水泳部の北野ゆかり部長ってことになるよ。恭っちって水泳部のプール開きの時も四つん這いになっていたしその後もしょっちゅう四つん這いになってるし……」
しずく「私が知ってるのは病院の看護師の若山あさかさんね。あの人相手にかなり勃起しちゃっていたらしいから」
まる「まるはきょーちんが担任のちさと先生で大きくしてたのを見たことがあるんだよ」
ひより「それを言うなら私はゆうき相手に勃起してるのを見たことがあるな」
陽菜「うう、私は刑事のみなもさんと……あとこれは絶対言いたくなかったけどうちのお母さん相手にもおっきくしちゃってるのを見たことがある」
日奈子「本当にうちの子が元気すぎてゴメンなさいね、まったくあの子ったら」
「「「「「謝らないでください、お義母さん」」」」」
陽菜「もう、恭ちゃんのバカ! でも恭ちゃんの秘密を知ってるのはここにいるみんなだけだから一緒に頑張ろう」
「「「「おー!!」」」」
日奈子(本当にこれでイイのかしら? まあ恭介は幸せ者よね。こんなに慕われて。普通の男の子だったらこの人数の女の子に追い回されたらいくら本当に好かれててもノイローゼになりだけど。多分あの子なら大丈夫なのよね)
という会話が会議の最後に繰り広げられたとかなかったとか。
(あれ!? さんご先輩の立場は?)
もうちょっとでトンネル抜けるので毎日更新中です。
次回更新は8月21日です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます