第251話 今までみたいな恭介くんがいい(陽菜視点)

「はぁはぁ……気持ちよかったよ。陽菜、愛してる。陽菜だけがいればそれでいいから」

 私のことをすごく気持ちよくしてくれた恭介くんが繋がったままそう言ってキスをしてくれた。

 すごく幸せだ……幸せだけどこれはダメな幸せだ……


 そう思ったら私の目から涙がこぼれてしまっていた。止めようと思っても止められない。

 なんで気付けなかったんだろう。ポロポロ涙を流し続ける私を一生懸命慰めようとする恭介くん。

 うん、うん、ゴメンね。私が泣いていたら不安だよね。


「ご、ゴメンね。気持ち良すぎてわけが分からなくなっちゃって泣いちゃった」

 恭介くんを傷つけないように嘘をつく。ゴメンね恭介くん。嘘は今回だけにするから……安心して今日は眠って。


 ギュゥ


 恭介くんの頭を抱きしめると意識を失うように恭介くんが眠りについた。






 ギシッ


 恭介くんをベッドに残してタオルケットをかけてパジャマに着替える。いくらお母さんに会うんだとしてもベビードールはエッチすぎて無理。

 あんなエッチな格好を恭介くん以外に見られたら死んじゃう。見ていいのは恭介くんだけだ。

 恭介くんの頬にキスをする。ちょっとお母さんの所に行くだけだからそのまま眠っていてね、恭介くん。


 コンコン


「お母さん、入っていい?」

「いいわよ。起きてるから……陽菜ちゃんは大丈夫だった?」

 お母さんが私の体を心配して聞いてくれる。どう答えればいいのか難しい質問。

 だけどここは恥ずかしくてもちゃんと答えないと本当に心配されてしまう。


「大丈夫、エッチなことはすごく気持ちいいから。恭介くんもすごく上手で全然無理なことや嫌なことはされてないの。本当に優しくて……でも、このままじゃダメなの……」

 お母さんが両手を広げて私を迎え入れてくれる。「おいで」……お母さんの腕の中に飛び込むと抱きしめてくれる。


「大丈夫よ、陽菜ちゃん。陽菜ちゃんと恭介くんとみんななら絶対乗り越えられるから。お母さんもなんだって協力するし。必要なら本気で親子丼だってしちゃうわよ」

 フフ、もう、お母さんは……ぎゅぅっとお母さんを抱きしめ返す。


「私たちじゃ無理だと思ったら協力をお願いするね。お母さんとこんな話をすることになるなんて思わなかったよ」

 二人で顔を見合わせて笑う。私はちょっと泣き笑いだけど。

 いや、協力はお願いするかもだけどお母さんは恭介くんとエッチしたら絶対ダメだよ。本当にお父さんがいるのに不倫なんて絶対ダメだからね。


「恭介くん、この世界に適応なんて全然できてなかったよ。私だってずっとずっと長い時間をかけて慣れたのに、たった数ヶ月で適応できるなんて凄いなぁって思っていたけど無理してただけだった。

 気付いてあげられなかったよ……」

 お母さんの胸の中で泣きながら話す。もっと強くならなくちゃって思うけど恭介くんが可哀想で気付いてあげられなかったことが申し訳なくて涙が止まらない。


「でも、陽菜ちゃんが止まり木になって休ませてあげられたらから壊れちゃう前に恭介くんが無理してるのが分かったんでしょ。陽菜ちゃんがいなかったら本当に危なかったと思うわよ」

 そう言いながら私のことを撫でてくれる。


「夏休みに入ってからひよりちゃんもしずくちゃんも恭介くんから一回も連絡がないんだって、みおちゃんたちも一緒。メッセージ送っても本当に必要最低限の返事しか来なくて誘いは全部断られてるって」

「それは陽菜ちゃんに気を使って……とかじゃないのよね?」


「うん、私も応援してるのを知ってるから問題ないはずのひよりちゃんの刀剣女士の活動も全然手を出さなくなったんだって。

 思いついたのもスタートさせてくれたのも恭介くんでずっと見守ってて欲しかったのに協力してもらえなくなっちゃってひよりちゃんすごくガッカリしてる。

 でもひよりちゃんは強いから恭介くんがもう一度見てくれるまでひとりでも頑張るって」

 もちろんみおちゃんが協力してくれてるから大丈夫だと思うけどね。


「だから恭介くんは私のためとかじゃなくてって思って二人だけでこの世界で生きていければいいって思ってるみたい」

「陽菜ちゃんがって思えたらそれで解決なんじゃないの?」

「もう、お母さんだって分かってるくせに」


「そうね、陽菜ちゃんの好きな恭介くんは……陽菜ちゃんが好きだったって言ってる幼馴染のはそんな子じゃないもんね」

「うん、私はがいい。無理してるんじゃなくて自然体でみんなとも一緒にいてくれる恭介くんになって一緒にずっと生きていきたい」

「お母さん応援するから。陽菜ちゃんも疲れたでしょ。ホットミルクをいれてあげるからリビングに行きましょう」

 お母さんがそういうと立ち上がる。私も気付くと喉が渇いていた……一緒にリビングに移動する。


 お母さんがミルクパンを出して牛乳を火にかけている。私はホットミルクを作る時に出来る牛乳の膜が好きだったりする。


「しずくちゃんたちと話したんだけどこっちの世界に来てからの恭介くんはずっと相手の望むように、相手の思うことを叶えるように動き続けてたんじゃないかって……例えば恭介くんって私といるときは下ネタって全然言わないの、っていうか元の世界の男子相手だったら下ネタをいうこともあったかもしれないけど女の子相手に下ネタを言うような人じゃないんだよね。

 その下ネタを言うのは男子に下ネタを言って欲しい女の子と一緒にいるときだけなの。つまり相手に嫌われたくなくて相手に合わせてどんなことでもしちゃっていたの」


「そうよね。無理だったくらいだから陽菜ちゃん以外だと越えられない一線としてエッチは無理だったみたいだけど、ひよりちゃんには子種をあげられない代わりに道場の存続を、しずくちゃんとは付き合えない代わりにこれから先の自由をそれぞれプレゼントしようとしたってことなのよね。

 みおちゃんはなんだかんだいって本当はエッチしたいんじゃなくてああいう距離の近いあけすけな男の子とのお付き合いがしたかったみたいだし、まるちゃんはお兄ちゃんみたいな人が欲しかったってことか」

「お母さん……お母さんが誘ったって恭ちゃんは絶対……ううん、恭介くんは絶対エッチしてくれないから、これ以上恭介くんを誘惑したら怒るからね」

 コトンッ

 お母さんがミルクパンからホットミルクをマグカップに入れて私の目の前に置いてくれる。いや、ホットミルクじゃ買収できないからね。


「そんな恭介くんが陽菜ちゃんと再会して、物心ついたころからずっと大好きだった陽菜ちゃんと初めてエッチした瞬間から他の人からどう思われるとか全部がどうでもよくなっちゃって、陽菜ちゃんだけに執着してる……と。

 水泳を始めたのも陽菜ちゃんの心臓移植手術を見て自分の心臓も健康で力強ければ移植した時に誰かの役に立つと思って始めたんでしょ?

 そして今は陽菜ちゃんの心臓に何かあった時に自分の心臓を使って欲しいって本気で思っちゃってる。陽菜ちゃんってどれだけ愛されちゃってるの?」

 そうやって言葉にして説明されると愛されすぎちゃってるって感じて赤くなっちゃう。


「そういういい方したら私が愛されてるってことかもしれないけど……」

「お母さん知ってるよ。そういうのを「ヤンデレ」っていうんでしょ」

「もう、間違ってないかもしれないけど恭介くんをヤンデレ扱いしないで。それにね、私がこの前怒っちゃって他の女の子との付き合いを気を付けてって言っちゃったのと、わ、私と初めてエッチしたのと今までのこの世界での生活に疲れちゃっていたのが合わさって世界を狭くしたくなっちゃったのが今の恭介くんの状態なの」

「そうね。陽菜ちゃんは恭介くんにどうなって欲しいの?」


「ゆっくりでいいから私が癒してあげて……ただ共依存って言うか私と二人だけの関係じゃなくてみんなとの関係も作り直して欲しいんだ。

 みんなに自分の正体がこの世界の人間じゃないってバレちゃてもう取り繕わなくていいんだって分かったのが悪い方に出てるのが今の状態だから……だからこそ同じ世界から来てる私に異常に執着してるんだし……それはそれで嬉しいけど……えへへ」


「う~ん、陽菜ちゃんって自分の娘ながらヤンデレの素質があると思うわ」

「む~、そんなことないって。とにかく恭介くんには前みたいにいろんな人のことを大切にしていろんな人と一緒に笑い合える恭介くんになって欲しい。恭ちゃんもそういう男の子だったから。

 それに8月のお盆前にはみんなで撮影旅行に行くし恭介くんは約束したことを破ることはないから絶対旅行には参加するから。それまでに恭介くんの心を癒していくよ。だからお母さんも協力してね」


「うん、いいわよ。陽菜ちゃんと恭介くんのためなら一肌でも二肌でも……全裸にだってなっちゃうから。お母さんに任せてよね」


 もう、お母さんは!! でもお母さんに話を聞いて貰ってホットミルクを飲んだおかげか、私の部屋に戻って恭介くんの懐にもぐりこんだ後は驚くほどぐっすり眠ることが出来たのだった。

 -----------------------------------------------

 ちょっと会話が長くて申し訳ないです。

 重要な回だったので母娘でしっかり話し合いました。


 恭介の変調の理由はこういうことでした。

 次回更新は8月20日です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る