第249話 私たちみんなで繋がっていよう(陽菜視点)
そんなこんなであっという間に選挙活動の一週間が飛ぶようにすぎて今日は金曜日の午後。今から候補者の生徒会選挙の立会演説会の時間だ。
しずくちゃん、恭介くん、私、みおちゃんの順で候補者A、候補者B、推薦者A、推薦者Bと交互に話していくルールなんだって。
候補者A推薦者A、候補者Bと推薦者Bって流れの方が分かりやすい気がするけど何年か前の光画部の先輩がやらかして今の順番になったんだって。
その時は後攻なのをいいことに先に出た一般の候補者たちの意見を光画部の先輩候補者ががコテンパンに論破!
その上候補者と推薦者の二人がかりで会場の笑いを全部さらって大問題になり失格! 史上最悪の選挙戦として知られる戦いになったとか。もう、本当になにやってるの? 迷惑なんだから。
「……ということで私の演説を終了させていただきます」
パチパチパチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチ
しずくちゃんの演説が終わる。会場全体から大きな拍手。
しずくちゃんの凄いところは最初用意した原稿を全く読まずに壇上で演説しているところだ。一緒に演説の練習をしていた私から見ると本当に凄いと思う。
一字一句を覚えているうえに会場の聴衆のみんなの反応を見ながらところどころ内容を変えていた。
私にはマネできることじゃないから本当に凄いと思う。
恭介くんが立ち上がって壇上へ向かう。向かう前にステージの袖で椅子に座って待機している私に向かって微笑みかけてから壇上に向かう。
あれ? 今私だけに微笑みかけた。自分の陣営側のステージ袖にいるみおちゃんにもしずくちゃんにも一瞬も目が行かなかった?
恭介くんに限ってそんなことってあるのかな。
「2年5組の多々良恭介です。この度生徒会長に立候補させていただきました。
私が生徒会長を目指すのはある意味では禊ぎと贖罪のためで……」
恭介くんの演説が始まる。男子と女子の仲たがいの原因を作ってしまった自分の罪滅ぼしとして今回の生徒会長選挙に立候補したこと。今回の選挙戦の一週間だけでも随分とみんなの中で男女の仲が良くなったと思われること。
途中何故か私の話になった。
「今回の選挙戦の中で男子生徒に対して女子の人気投票を行ったところ、対立候補の岩清水しずくさんと推薦者の姫川陽菜さんが非常に人気が高いという結果が出ました。
え~、対立している候補者としては岩清水さんの人気に脅威を覚えるべきなのでしょうが、私は姫川さんの彼氏なので絶対に誰にも渡さないことをここに宣言させていただきます」
な、なに言ってるの恭介くん!? 私は恭介くんの恋人で他の人のことなんて目もくれることはないんだけど恋人宣言なんてされたら目立っちゃうし恥ずかしいよ。
「岩清水しずくさんに関しては私が去年の冬、川で溺れてその後入院していたときに本当にお世話になって助けられました。
彼女がいなかったら私はこうやって回復して生徒会長選なんて面倒でどうでもいいことに参加なんてしていないでしょう。
投票用紙にはぜひ、「岩清水しずく」と書いて一票を投じて下さい。それでは多々良恭介の応援演説を終わります」
パチガヤパチパチガヤパチパチ
パチパチガヤパチガヤパチ
パチガヤパチパチガヤパチパチガヤ
しずくちゃんよりも拍手は少なく、それ以上に戸惑ったようなみんなのざわつき。
いつもならどんなことでも全力投球の恭介くんが最初から試合放棄して応援演説なんて言って終わるなんて絶対恭介くんらしくない。やる気がなかった? それに選挙戦がどうでいいって言わなかった?
「岩清水しずくさんの推薦人、姫川陽菜さん? 応援演説をして下さい」
前生徒会の書記さんが体育館のマイクで私のことを呼び出している。
慌てて壇上に立つが動揺してしまっている私は手も震えているしもう原稿用紙を見てもしどろもどろでまともに読めそうにない。
会場のザワザワいう声ばかりが耳に入り緊張で真っ赤になってしまう。
すると私の真上から照らしていたいた照明がフワッと陰り原稿用紙に影が落ちた。
「大丈夫、出だしを一緒に読むからゆっくり声を出して」
恭介くんが私を包み込むように後ろから抱きしめて原稿用紙を支えてくれる。
「「私、姫川陽菜は岩清水しずくさんを生徒会長として推薦します」」
「その理由は私がこの学校に入学してから……」
読み始めの一文を恭介くんと一緒に読んだら、後の文章は頭も覚えてくれていたのかすらすらと出てくる。その間、恭介くんは両手で私が読みやすいように原稿用紙を持っていてくれて、私の顔のすぐ横から原稿用紙をじっと見つめていた。
「……ご清聴ありがとうございました」
パチパチピーピーッパチパチパチパチピーピーッパチパチ
パチパチヒューヒューパチパチ羨ましいよーっ
パチピーーーッパチパチパチピィィーーッパチパチパチ
会場から凄い拍手となんだかよく分からない口笛? のような音と囃すような声。
なんだか大うけしちゃった状態なんだけどとにかくペコリと頭下げると恭介くんが私の手を引いてステージ袖に連れ帰ってくれた。
「え~と、この状況で恭っちの応援なんて出来ないんであーしの幼馴染で親友のしずくのことをよろしくお願いします」
お静かにという書記さんの声でも全然静まらない会場に向かって清楚風にメイクしているみおちゃんが一言挨拶してステージを降りると会場は謎の拍手に包まれた。
恭介くんとみおちゃんはステージを降りると前生徒会の皆さんと生徒会担当の先生たちに連れられて別室に連れ込まれた。
多分説教中。すごく長くなりそう。あれは怒られるよね。巻き込まれなくて良かった。私は被害者扱いだった。ちょっと申し訳ないけど。
今は投票が終わって開票中。しずくちゃんと控室になっている教室で一緒に開票待ち。
「しずくちゃん」
「陽菜ちゃん」
「「恭介くん(さん)がおかしい」」
二人の声がハモった。いや、今週一週間ずっとおかしかったのだ。
生徒会選挙中なので気にしないようにしようと思っていたけど毎晩泊りに来て私が無理しちゃダメだからとエッチはしないのにずっと私のことを抱きしめるように寝ていた。こんなに毎日一緒に寝るのは初めてだ。
それ以外でも私以外の女の子といる時間が極端に短くなった。生徒会選挙の握手やみおちゃんとの写真撮影などしないといけないことはやっているが終わると同時にあっという間に私の家に帰ってきてしまう。悪いことじゃないんだけど恭介くんらしくなかった。
「火曜日の朝から会って話している時すごくそっけなっくてこれまでとは別人みたいで。
メッセージの返事も急に短くて適当になって、口癖みたいに「どうでもいい」って言葉が会話に混ざるようになって……ずっと気になっていたんだけど恭介さんに何かあったの?」
「あ、私も思った。さっきの選挙の演説も恭介くんらしくなかった。今までだったら負けるとしても全力でしずくちゃんに挑みかかってそれこそ「胸を借りるって」感じでダメもとでも諦めるはずなかったのに、しずくちゃんの応援演説だって……あれは放り投げてるよね?」
「そう、陽菜ちゃんには心当たりはないの? 金曜日の放課後から火曜日にかけて、あの選挙に参加するって楽しそうに金曜日の昼休み話してた恭介さんが変わっちゃうような大きな変化……知ってることがあったら教えて。このままじゃ恭介さんが恭介さんじゃなくなっちゃいそうで……」
心当たりはある……恭介くんのことが好きなしずくちゃん達が嫌な思いをするかもしれないって思って黙っていた私と恭介くんだけの秘密。だけどしずくちゃんになら親友だから話してもいいよね?
私の初体験の話をするのは恭介くんへの裏切りじゃないよね。
「たぶん、私の初めてを貰ってもらったことと関係があるんじゃないかと思う。すぐに夏休みに入るからみんなでやりとりして情報交換しよう。ゴメンね、しずくちゃんも恭介くんのことが好きなのにこんなことをこんな形で伝えて」
「こっちこそ話しにくいことをごめんなさい。とにかく陽菜ちゃんにひよりちゃんも私たちみんなで繋がっていよう……」
コンコン
ノックの音がする。
「岩清水さん、おめでとう。開票率100%のうち得票率75%で生徒会長選挙当選です。
早速引き継ぎ事項があるから生徒会室に来てもらえるかしら。
姫川さんはお疲れさまでした。生徒会には入らないってお話でしたね。この後は挨拶だけしたら帰れるから」
前生徒会長さんの3年生女子の先輩から声をかけられる。
そう、私は恭介くんと相談の上で生徒会には加わらないことになっている。無理して色々掛け持ちすると私は限界を超えちゃう可能性があるからという理由で。
とにかく今日は恭介くんと合流して一緒に家に帰ろう。
胸騒ぎがするけど大丈夫だよね、恭介くん。
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やっぱり変
あとあの応援演説した恭介が25%取っちゃってるのはどうなんだろう。
やっぱり変なので明日も更新
次回更新は8月18日です。
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