第233話 4年間も守ってあげることが出来なかった

 夕方陽菜の日記を覗き見したとき、風が吹いて開いたページが1年生の終業式の日について書かれた日記だった。

 それは「恭ちゃんへ」という書き出しから始まっており、恭ちゃんに恭介くんに関する愚痴を聞いてもらうという文章……ずっとこの世界の多々良恭介が「恭ちゃん」なのだと思っていた俺にはどういう意味か分からなかった。

 陽菜から見たらずっと同一人物と思っているはずなのになんで別人として書かれているんだ?


 こっちの世界の多々良恭介恭ちゃんと入れ替わった今の俺恭介くん……そう思っていたのに違った? ……別のページを読むと「元の世界」という言葉が出てくる。

 陽菜が別の世界の人間!? 俺と同じように別の世界どこかから来たのか?

 よく似た世界がたくさんあって……俺のように入れ替わる人間がたまにいるんだろうか?


 陽菜が眠っていることを確認する。スーーースーーー寝息を立ててよく眠っている。

 陽菜には悪いが本棚を見るとたくさんの日記が並んでいるようなので端から中を見せてもらおうと思い手に取る。

 ページを開いた瞬間、ひぃっと声を上げてしまう。そこには子供のおちんちんの写真が沢山収められたアルバムだった。これが陽菜が言っていた多々良恭介のおちんちん写真なのだろうか。想像していた以上にたくさんの写真があってゾッとした。


 気を取り直して日記を取り出しページをめくる。小学生の頃の日記、俺と陽菜のエピソードにそっくりの話がいくつも綴られている。いや、そっくり同じじゃなくて俺と陽菜のエピソードだ。

 桜の中を手を繋いで歩いた話、雨の中を陽菜にカッパを着せて図書館から家に帰った話、遊んでいて疲れた陽菜をおんぶして帰った話、陽菜を元気づけるためにプロポーズした話、どれもこれも身に覚えのある話ばかり……いつの間にか一冊読み切り、俺は気付くと懐かしさで涙を流していた。


 これは小学生の頃の日記のようだったから次はカバーの色が違う一冊を手に取る。中学生の陽菜が書いた日記のようだった。

 そこで俺は知る。魂が入れ替わってこの世界で目覚めた陽菜が俺のあげたアメジストのペンダントが無くなって泣いていたことを。

 元の世界にいた陽菜とこっちの貞操逆転世界にいたヒナが入れ替わって、俺が「中学から高校生まで見てきたヒナ」と「こっちの世界で出会っ再会した陽菜」になっていた。


 つまり本当に運命のいたずらのように、俺はこの世界に入れ替わっていた陽菜を追いかけるようにして遅れてこの世界の多々良恭介と入れ替わっていたのだ。

 中学一年生の陽菜はこの世界にたった一人でどれだけ寂しかっただろうか、そう思いながら陽菜の日記を読むと涙が止まらなかった。

 俺が……恭ちゃん幼馴染がいなくなって恭ちゃんのことを求めながらも恭ちゃんに手紙を書くように毎日日記を書くことで日々を送っていく陽菜。

 俺はこの子を4年間も守ってあげることが出来なかった。でも……今日からはずっと一緒にいることが出来る。恭介くん恭ちゃんだと伝えよう。そして俺の想いを伝えたい。


 その前に、4年前の約束を果たすんだ。陽菜が無事に目覚めたらアメジストのペンダントをもう一度つけてあげるって約束。

 この世界で陽菜と再会してから何度だって気付けるチャンスがあったはずなのに今日まで待たせてしまった。俺が気付かなかったばっかりに恭ちゃん恭介くんの間で悩んでくれて。そして恭介くんを選んでくれていたことを日記で知った。

 そんな陽菜のために送るのは指輪なんかじゃなかった。幸い来週の陽菜の誕生日のために俺はバイトしてお金を貯めてきた。


 陽菜の家の扉の鍵をきちんと閉めると、俺は曲がった鉄砲玉のように自分の部屋に戻ってバイト代を握りしめると駅前の宝石店やアクセサリーショップを何軒も回る。

 アメジストのペンダントなんてそんなに数がない上に元の世界であげたものに少しでも似たものを探さないとダメだ。


 あった……奇跡みたいにも思えるけどやっぱりデザインは少し違う。でもそれでも俺が選んだ新しいアメジストのペンダントを陽菜に渡したい。

 アクセサリーショップでの会計が終わると包んで貰うのももどかしく、そのままペンダントを握りしめて陽菜の家に走る。4年遅れの退院祝いを陽菜に送るために。


 まあ、ドアをノックしなかったせいで着替え中の陽菜にエッチって叫ばれちゃったんだけどな。

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 最終回まであと4話

 明日の6,9,12,15時の更新4回となります

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