第234話 私のファーストキス(陽菜視点)

 ぐしゃぐしゃに泣いてしまった私が泣き止むまで恭ちゃんは……恭介くんはずっと抱きしめてくれていた。

 もう夜と言っていい時間になっている。恭介くんは私のことを抱きしめたままずっと頭を撫で続けてくれている。


 気付くと私の涙と鼻水で恭介くんの服がドロドロになっちゃっているし、そもそも私は二日間もお風呂に入っていなくて……髪だってぼさぼさだし、汗だってかいちゃっていたし、パジャマは着替えたけど女の子としてアウトなんじゃ……

 恭介くんに誰よりも好きになって貰って告白して貰うつもりだったのに全然可愛くない姿ばっかり見られちゃってる……ダメだ、今までと別の意味で泣きそう。


 恭ちゃんならどんな姿でも許してくれると思うしそれはそれで嬉しいけどそれは幼馴染だからだもんね……恭介くん好きな人の前では綺麗でいたいって女心があるんだよ。

 こっそりボックスティッシュからティッシュを抜いて鼻をかむ。全然こっそりできてないけど恭介くんは抱きしめる力を緩めて優しく頭を撫でてくれる。

 えへへ……恭ちゃんに頭を撫でて貰えてると思うと幸せで力抜けちゃいそう。だ、ダメだよ! 恭介くんの前でイイ女でいないと。

 わたしがグルグルしていると落ち着いたと思ってくれたのか恭介くんが抱きしめていた手をほどいて正面から私の顔を覗き込む。


「だ、ダメ! 今可愛くないから見ちゃダメ」

 恭ちゃんが、恭介くんが私の手を握って顔を覗き込むので抵抗しようとする。

「何言ってるの? 陽菜はすごく可愛いよ」

 真正面から可愛いって言われて私の頭がボンッて言った気がする、顔が熱くて死んじゃいそう。今の私の顔メチャクチャ赤くなっちゃってるよね。

 ぎゅっ……手を強く握られる。恭介くんの真剣な顔、正面からまっすぐに私の瞳を見つめている。


「陽菜、ずっと好きだった。俺と付き合って欲しい」

「ひゃっ……は、はい。私も恭介くんが大好き。恭ちゃんよりも好き。でも恭ちゃんも恭介くんも大好き。ずっと一緒にいて下さい。」

「うん、ずっと一緒にいよう。愛してるよ陽菜」

 そう言って恭介くんの顔が近づいてくる。恭介くんが目を閉じる。えっ! うそ!? これって。慌てて目を閉じる。


 ちゅっ


 唇が触れあう。一瞬で離れちゃったけど恭介くんにキスされた。私のファーストキス。

 恭ちゃんともしたことなくて、恭介くんのほっぺたにこっそりキスしたことがあったけど、恭介くんからして貰った私の本当のファーストキスだった。

「ゴメン、我慢できなかった……本気のキスはまた今度準備が出来てからね」


 ほ、本気のキス……!? キスに本気のやつがあるの? 今のキスだけで幸せすぎて心臓のドキドキが生まれて一番早いくらいなのに私大丈夫なのかな? 本当に私が貰った心臓が健康な心臓でよかった。私の生まれた時に持っていた心臓だったら今のキスで死んじゃっていたかも。


 またギュゥって抱きしめられる。

「このままずっと抱きしめていたいけど、陽菜はご飯を食べてないでしょ。何か食べられる? 食べられなくても免疫抑制剤だけは飲んでおかないと」

 こんな時でも私の体を最優先してくれるのはやっぱり恭ちゃんで恭介くんだった。こんな人が世界に、いや、二つの世界にだって一人しかいるはずないのになんで別人だなんて思っていたんだろう。


「うん、お腹すいちゃったから一緒になにか食べよう」

「ああ、母さんがさちえさんからお世話を頼まれてたから何か食べるものを作ってくれてると思う。歩けるならうちの家に行こう」

 そう言って私の手を掴んで歩き出そうとする。ちょ、ちょっと待って。

「きょ、恭介くん……着替えさせて。私まだパジャマだし髪もぐちゃぐちゃだし、顔も洗いたいしちょっと待って」

 いつもあんなに気が利くのになんでこういう時は鈍感さんになっちゃうんだろう。


「母さん相手に気にすることなんてないのに。えっと……それだったら食べるものをこっちに持ってくる?」

「ううん、久しぶりに日奈子さんにも会いたいし。それに……」

「それに?」

「日奈子さんに、恭介くんのお母さんに付き合うようになった報告しないと」

 今度は恭介くんが赤くなる番だった。

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 彼氏彼女になりました。


 最終回まであと3話

 9,12,15時の残り更新3回となります

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