第232話  アメジストは病気平癒の石だから(陽菜視点)

 ぎゅぅぅ!

 恭介くんに強く強く抱きしめられている。

 汗だくでちょっとムワッってするけど…恭介くんの臭いだと思うと全然イヤじゃない。むしろクンクンしたいくらい。


 って……何が一体どうなってるの?

「陽菜……陽菜……待たせてごめん」

 恭介くんに謝られる。何も待たされてなんてないよ……恭介くんはいつも私にすごく良くしてくれてるもん。


 グィッ……

 両方の肩を掴まれて恭介くんが両手を伸ばす。恭介くんと見つめ合う。泣き出しそうな瞳……

「陽菜、手術成功おめでとう。約束……もう四年以上遅れちゃったけど。俺約束のこと一瞬も忘れたことなんてなかったから……」


 恭介くんが何を言っているのか分からない……手術の約束……そんなの恭ちゃんとした約束しか私にはないのに。


 チャリッ……


 恭介くんが私の右手を掴んで開かせる。右手の平を上にして……そこに紫色のペンダントトップのついたペンダントを載せてくれる。

 紫色のペンダント……? アメジストが先についていて……アメジストは病気平癒の石だからって……手術が終わったら私につけてくれるって……


 ダメだ……何も考えがまとまらない。恭ちゃんとの約束と恭介くんの私を見つめる瞳にこもった熱で頭が溶けちゃったみたい。もう涙が止まらなくってペンダントもよく見えない。


「陽菜、おかえり。待たせてごめん……これ、もう一回受け取って欲しい。そしたらもう二度と離れないから」

 恭介くんが手を首の後ろに回して私にペンダントを付けてくれる。胸元に輝いているのはアメジストのペンダント。


 今の私は目が覚めてるんだろうか……まだ寝てて夢を見ているのかもしれない。

 ギュゥッ! ペンダントをした私を恭介くんが抱きしめる。

「俺が恭ちゃんだから! 陽菜が元いた世界の多々良恭介、陽菜と一緒に育って陽菜にネックレスを送った……それが俺だから……信じられないかもしれないけど、川で溺れたあの日、こっちの世界の多々良恭介と入れ替わって、だから陽菜と幼馴染の恭ちゃんで恭介くんが俺だから」

 恭介くん今私が好きな人恭ちゃん大好きな幼馴染だった!? そんなことってあるの?

 でも、いつも恭介くんからは恭ちゃんと同じ雰囲気がしたし恭ちゃんといるみたいに落ち着いた。恭ちゃんと一緒にいた時よりドキドキしたし、恭ちゃんよりももっと好きになった。


 その恭介くんが恭ちゃんだった!? このペンダントは多分あの時のペンダントとは違うものだ。石の形とチェーンの太さがちょっと違う……でも、この世界で偶然こんなに似たアメジストのペンダントを選ぶ可能性なんてほとんどないはず……この世界のお母さんだってこのペンダントについては何も知らなかったんだ……だから、だから……恭介くんは本当に恭ちゃんなんだ。


 そう思った瞬間私はこの世界に生まれたばかりの赤ちゃんみたいに恭介くんにしがみついていた。

「恭ちゃん、恭ちゃん、恭ちゃん、恭ちゃん、恭ちゃん……恭介くん、恭介く……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ」

 私は泣き続けて恭ちゃんは……いや、恭介くん最愛の人は私のことを抱きしめ続けてくれた。

 -----------------------------------------------

 最終回まであと5話

 6,9,12,15,18時の1日5話更新となります

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る