第215話 だってしずくちゃんは優しいから(陽菜視点)

 恭介くんの膝枕のおかげでだいぶ落ち着いたので今の私は見学中。

 正直言うと上から優しく見つめられながら膝枕されていると全然落ち着かなくて顔が赤くなっちゃうから体調不良のフリをしたらいつまででも恭介くんを独り占めできそうだったけど、深刻な体調不良だと思われても困るからほどほどの所で恭介くんにも練習に戻って貰った。

 恭介くんに膝枕して貰うのなんて初めてのはずなのに前にもして貰ったことがあるような安心感があるのが不思議だった。


 今は恭介くんも練習に参加していてるけど、めんの向こうの真剣な表情は本当にカッコいい。

 それに私が応援したら頑張れるって言って貰えて嬉しかった。でも恭介くんは元々幼馴染の私には甘々だからこのぐらいじゃ好きになってもらうために攻めたうちに入らないかも。


 今はみんなが防具を付けた恭介くんに打ち込みしてみんなのセンスというか、剣道に対する勘のようなものを見ているらしい。

 今回は試合まで一ヵ月しかないので本当に時間がない。なので選手だけを集中して育成、それも技は一つか二つだけ覚えて後は捨てるという方針と恭介くんに聞かされた。

 初めて出る大会でこちらが素人であればこちらの情報は全くないから不意打ちで決まるかどうかくらいしかチャンスはないというのが恭介くんの判断。

 なので剣道で有効打突となる、面、胴、小手、突きについて型だけを教えた後で実際に打ってもらって向いているかどうかを判定するということだった。


 結果は意外だけど一番ダメなのがしずくちゃんだった。運動神経が良く体力のあるしずくちゃんが全く正しく打ち込めないのは恭介くんもひよりちゃんも想定外だったようで何度か試させている。

「しずくちゃんには無理だよ。だってしずくちゃんは優しいから。人が痛いことなんて競技でだって出来ないよ」

 はたから見ていて分かったから私がストップをかけさせて貰った。これはしずくちゃんが優しすぎるのが問題だから解決のしようがないと思う。だって竹刀で打ち込む瞬間しずくちゃんの顔は叩かれてるよりも痛そうだったから。


「そうか、無理させて悪かったなしずく」

「すまない、しずくちゃん。そんなことにも気付かないで私は友達がいのない女だ」

「そんな風に言わないで二人とも。

 本当はおばあさまから言われてるの。時には人を傷つける強さが必要な時もあるからそういう強さを身につけろって。身につけきらないなら他の人間を頼れって。

 みずからの身を傷つけても責任もって他人を切れる人間と一緒になれって言われてるの」


 そう言ってちらりと恭介くんを見るしずくちゃんの目は今でも恭介くんを諦めきれていないのが私にはよく分かった。

 しずくちゃんの強さは他人を守るために発揮されるから経営者には向かないって言われてるみたい。難しいんだね。


 みおちゃんは意外と闘争心をむき出しにするタイプなので剣道に向いているそうだ。上背もそれなりにあるから面と胴の筋がいいみたい。

 逆にまるちゃんは小さすぎて面が上手に打ててないけど全体的に動き自体は凄く良くて即戦力になりそう。

 意外な所ではゆうきくんは動体視力がすごく良いらしくて相手の動き出しとかが良く見えるから小手を打つのが得意になりそう。


 この三人にひよりちゃんと恭介くんの5人でチーム申請することになった。一応補欠にしずくちゃん。

 私は最後まで戦力外だけど全力でみんなのサポートをしたいと思う。

 あと一ヵ月、ひよりちゃんのために恭介くんと頑張ろう!

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