第202話 素直に祝福できるだろうか(陽菜視点)
しずくちゃんが告白した! すごい……私が躊躇している間にしずくちゃんは勇気を出して告白しちゃった。
今の私たちは自分の方から告白することはクラスのルール違反だから、アウトかセーフかはギリギリのラインだけど、恭介くんから告白したらOKするって言い方はつまりそういうことだよね。
責任感がいくら強くてもしずくちゃんは好きでもない人の告白なんて受けたりしない。
この世界の女の子たちにはわりかしそういうところがあって、好きでもない男子からでも告白されちゃったら付き合っちゃうようなところがあるけどしずくちゃんの場合は違うのだ。本当に好きな人以外目もくれない。
恭介くんがしずくちゃんを促してちょっと離れた大きな桜の木の下に移動している。もちろんもう桜の時期は終わっているので青々と茂っていてその木が桜の木だって知ってないと何の木か分からないくらい。
多分伝説の桜の木とかじゃないと思うけどこの公園で一番大きな桜の木だ。
ふたりの会話は私のところまで聞こえない。だけど私の方から見えている恭介くんとしずくちゃんの横顔はものすごく真剣な表情をしている。
恭介くんの真剣な表情ってカッコいいな。あんな表情で見つめられたら好きになっちゃうよね。しずくちゃんは今回の風評被害についてある意味では恭介くんに救われている。恭介くんも常日頃からしずくちゃんへの感謝を口にする。
凄くお似合いな二人……あの二人がくっついたら私は素直に祝福できるだろうか。胸がギュッと苦しくなる。
ダメだ、誰ともくっついて欲しくない。この気持ちがクラスのみんなが「みんなの恭介くん協定」を結んだ理由だっていうことが凄くよく分かる。私が恭介くんと恋人のフリなんてしちゃったからみんなの気持ちに火をつけちゃったのだ。
それでも私は譲れない。恭介くんへの思いはもう止められない。恭介くんに誰よりも私を好きになって私に告白して貰うのだ。
でも恭介くんが今しずくちゃんを選んじゃったら……そしたら私はどうしたらいいの?
二人の話し合いが終わってこっちに歩いてくる。恭介くんはちょっとつらそうな表情、しずくちゃんは笑ってる。
「陽菜ちゃん、私ここからなら家が近いからこのまま帰るね。自転車に積んで貰っていたカバンの中に陽菜ちゃんちに持って来てた着替えとかも全部入ってるから心配しないで」
ニコニコと笑顔で私に告げるしずくちゃん。ランニングを始める前に私の自転車に積んだしずくちゃんのスポーツバッグ。確かにパンパンに膨れてて量が多いと思ったけど着替えとかまで全部入っていたんだ。
「しずくちゃん……」
顔が笑っているのに泣いてる様にも見えるしずくちゃんにどういう言葉をかければいいのか分からない。しずくちゃんは大事な友達、親友なのに。
「しずくちゃん……っ、ううっ……」
多分悲しいのはしずくちゃんなのに泣きだしてしまうのは私の方……慰めてあげなくちゃいけないのに……
「もう陽菜ちゃんは……」
ぎゅぅ。陽菜ちゃんが抱きしめてくれる。恭介くんは私たちのことを黙ってみてくれてる。
「私じゃ無理だってずっと前から分かっていたから……だから私は大丈夫。それにね、陽菜ちゃんも知ってると思うけど私諦め悪いんだよ。チャンスがゼロじゃないって言わせることは出来たから……だからまだ諦めてないから……だか、ひ、陽菜ちゃん!?」
もうっ、しずくちゃんそれ以上言わないで!
背の低い私がするのは無理難しかったけどしずくちゃんの抱擁を振りほどいてしずくちゃんの頭を掴んで無理矢理抱きしめるようにする。しずくちゃんはちょっとかがんだみたいになってしまう。
「本当の気持ち、見せていいんだよ。私に、私たちに嘘なんてつかないで」
「陽菜ちゃん。陽菜ちゃんっ! うわあぁぁぁぁぁあ……」
しずくちゃんが私の胸の中で泣いてる。ギュっとしたまましずくちゃんの背中をトントン叩いてあげる。
「一緒に私のうちまで帰ろう。私でよければ今日は一日そばにいてあげる」
こくん。しずくちゃんが頷いてくれたので帰りは泣いているしずくちゃんの手を繋いで歩いて帰った。
恭介くんは私の自転車を押しながらついて来てくれた。
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