第46話 桜島先輩、今週の日曜日空いてますか?

「アハハ……ゴメンね。多々良くんがフィルムカメラ始める気になったのか思って興奮しちゃって。今は幽霊部員も含めて部員が全部で7人いるけど、私しかフィルムカメラ使ってる人いないから多々良くんが一緒にフィルムやってくれたら嬉しいのにな」

 迫ってくるときはとうとうこっちの世界で女子に無理矢理犯されるのかと心配するほどの勢いだったのに、一転して先輩は真っ赤になってしまった。


 自分の言い方がエッチなお誘いに聞こえたことに気付いたらしい。

 その後はチラチラこっちを伺いながらも、俺にフィルムカメラ転向をイエスと言わせようとプレッシャーをかけてくる。


 こっちの世界にいた多々良恭介がカメラに対してどういう主義でどういうスタンスだったかは知らないが、俺はズブの素人どころかほぼスマホのカメラしか使ったことがない。

 家にある親が使っているカメラも生まれた時からデジタルのちっちゃくて四角いカメラだった。


 俺自身は写真にあんまり興味がないから知らなかったが、「光画部こうがぶ」というのは写真部の古い呼び名で、この学校ではずいぶん歴史の長い部活なのだそうだ。

 何十年も前のマンガに高校の光画部を舞台にしていたものがあったらしく、その影響なのかマンガが9冊ほど写真雑誌などに混ざって本棚の端でほこりをかぶっていた。


「冬の川に溺れた影響か、記憶の中にちょっと思い出せないところとかもあって……カメラのことももう一回教えてもらえたら助かります、桜島先輩」

 最近分からないことがあった時に使う鉄板の言い訳をここでも使う。騙しているようで心苦しいがというわけにもいかない。


 先輩は桜島みつこという名前で……「みつこ」は何と「」と書くらしいのだ。

 おじいちゃんが付けた名前で、桜島先輩は名前の中にある「みつ」の音はカメラのとかって感じで気に入ってはいるのだが「三五」だと人名として読めないので学校ではひらがなで「みつこ」と通しているのだそう。

 元いた世界では会ったことのない先輩だけど、きっと向こうでもフィルムカメラでいろんなものを撮りまくっていたんだろう。


 ふと思いついて「桜島先輩ってひょっとして3月5日生まれですか?」と聞いてみると「ノーコメント」と能面のような笑みアルカイックスマイルが浮かんでいたので正解かもしれない。よっぽど三五って書く名前がイヤなんだな。


 俺の初登校日の今日が3月1日だから3月5日は4日後か。

 これからなにかと光画部関係でお世話になりそうなこの先輩に的な意味で誕生日のプレゼントくらい考えてみてもいいんだろうか?


 まあカメラのことはおいおい習うとして、ある程度カメラが使えるようにならないとゆうきと約束した「水着の撮影旅行」なんて出来ないもんな。


 元の世界の村上への恩返しをこっちの世界の村上にすると誓った以上、村上(ゴリマッチョ)がいなくてもゆうきに恩返ししたい。

 それに、こっちの世界の多々良恭介のせいで永久脱毛までしちゃったみたいだし。


 そうだ、カメラの道具を買いに行くついでに桜島先輩に「水着の撮影旅行」について相談しよう。

 今日はもうちさと先生との待ち合わせ時間が来るから時間がないけど、先輩のスケジュールを確認しておくか。

「桜島先輩、今週の日曜日空いてますか?」

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