第43話 あなたの多々良恭介くんは優しかったよ(陽菜視点)
多々良くんはすごい。
私じゃないこの世界の私が小さい頃に多々良くんのおちんちんの写真をいっぱい撮ったりしたから、こうやって一緒にいるのも恥ずかしいかもしれないのに。
「あ、あの……ゴメンね。小さい頃とはいえ嫌がってる多々良くんのおちんちんの写真をいっぱい撮っちゃって」
自分がしたことじゃないけど、関係ないかもしれないけど多々良くんのためにも謝りたいって思った。
「え!?……ああ、昔の話? 気にしてないからイイよ」
ちょっと恥ずかしそうに許してくれる。
「あ、あのね……あの時の写真まだうちにあるの。イヤだよね? 捨てた方がいい?」
多々良くんの名誉のためには捨てた方がいいと思う。いや捨てるべきだろう。
「う~ん、でもそれも姫川さんの思い出の品でしょ? 今のおちんちんを撮らせてくれって言われたら躊躇するけど姫川さんにとっては宝物でしょ? 捨てなくていいよ」
そう、あの写真は私のものではない。私が撮ったものじゃないしアルバムを大切にしてたのはここにはいないこの世界の姫川陽菜だ。勝手に捨てるのは違うと思う……本当に多々良くんは優しい。
「ありがとう、ずっと大切にするね」
優しさにちょっと涙が出た。
多々良くんは親指の腹で私の目元をそっとなでるようにして涙をぬぐってくれて
「そんなに大切にしてくれてるんだ……きっと喜ぶと思うよ」
とちょっとだけ不思議なことを言った。
でも涙をぬぐってくれる彼の指がとても優しくて……私は小さい頃泣いている私を慰めてくれた大好きな恭ちゃんの指を思い出していた。
昼休みの終わりの鐘がなる。二人の時間も終わりだ。シンデレラは鐘の音が鳴るなか、王子様にガラスの靴を残せたけど、今の私たちはまたねと挨拶だけを交わしてそれぞれのクラスへ向かった。
夜になっていつものように日記を書こうと思ったが恭ちゃんに何を伝えたらいいのかよく分からなくなってしまった。こんなことは初めてだった。
だから「もう一人の私へ……宝物のアルバム、ずっと持っていていいって。あなたの多々良恭介くんは凄く優しかったよ。よかったね」と書いて日記を閉じた。
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