第16話 自分で捨てるから大丈夫

 岩清水とのやりとりや不躾な視線を感じながら少しづつ実感として理解してきたことある。

 この世界と元の世界では男女の貞操観念に大きな差があるということだ。差というよりはもはや男女の貞操観念が逆転しているといっても過言ではない。

 とでもいうべき世界だった。


 どうして元の世界にいた俺と貞操逆転世界の俺の中身が入れ替わったのかは分からないが、肉体はそのままで精神だけが入れ替わっているのだと思う。

 泳げなかったというこの世界の多々良恭介の体は元の世界の俺に比べて日焼けもしておらずひょろっとした感じで筋肉量が足りないし体幹もグラグラだ。

 この世界の多々良恭介は写真部だったらしいが、俺は退院したら水泳部に入部して夏になったら思いっきり泳げるように病室内で出来る筋トレを始めている。


 貞操逆転世界というべきこの世界では男性の看護師の方が圧倒的に多い。男性の患者さんは女性の看護師さんに裸を見られるのを嫌ったり不安がったりするらしい。

 女性の看護師さんに関しては適材適所で採血やが受けるセクハラを防止するという大切な仕事があったりする。


 俺に関しては元の世界の感覚のため男性の看護師さんも女性の看護師さんもどっちに看護されても特に何も思わないので、女性の看護師さんから結構ちやほやされるようになっていた。


「えっ!? 多々良くん、女性の看護師さんに体を拭かれたんですか? それって恥ずかしくなかったんですか?」

 テストのプリントを受け取った後、岩清水が差し入れてくれたペットボトルの紅茶を飲みながら雑談していた。

 え~と……この場合、元の世界の感覚に置き換えると女子高生が成人男性の看護師さんに全身を清拭されたってことか……ヤバイ、意識してなかったけどかなりエロい絵面だった。


「そんなのただの医療行為だろ、そんな風に意識する委員長がイヤらしいんだよ」

 華麗に切り返した……と思いたいが、医療行為だったら体中を男性に拭かせて平気な女子高生。変態なのか羞恥心が欠如しているのかどっちかだろう。


 この貞操逆転世界ではそんなエロい男子高生が俺だった……俺を見る岩清水の目が血走っているように見える、と岩清水が鼻血を出して大騒ぎになってしまった。


 帰りに俺が飲んでいた紅茶のペットボトルを捨てて来てあげるといって受け取ろうとする岩清水になんとなく怖いものを感じて自分で捨てるから大丈夫と断ってしまった。

 -----------------------------------------------

 本日1日3話公開

 毎日朝6時と昼12時夕方18時に最新話公開中

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る