第9話 どうして助けてしまうんだろう

「ほら、ヒナもこう言ってるんだ。お前の出番はもうないから帰れよ」

 フリーズしていた西田がニヤニヤしながらヒナに近づいてくる。


「それじゃあこれはもういらないよな……なぁヒナ?」

 そう言うとヒナの首のペンダントをチャラチャラと指で持ち上げる。それはおもちゃみたいな安物のペンダント。ペンダントトップは手術の成功を祈って病気平癒の願いを込めたアメジスト。

 手術が怖いって泣いていた陽菜に俺がお小遣いとお年玉を前借りしてプレゼントしたものだった。


「1学期に付き合ってた時からこの安物はヒナには似合わないって思ってたんだよ。もっといいやつ買ってやるからこんなの捨てちまえ」

 そういうと西田がヒナのペンダントを引きちぎるように外す。


「やめっ」

 ヒナが何か言いかけるがそれよりも早く西田がそのペンダントを車道に放り投げる。ホテルダイヤモンドの前には大きな車道が通っていて冬の夕方のこの時間、薄暗い中をライトをつけた車が行きかっていた。


「ああっ! 私の!」

 ヒナがそういうと西田の手を振り払って車道へ飛び出す。

 まさか俺のあげたペンダントのためにヒナが車道に飛び出すとなんて思っていなかった俺は完全に反応が遅れる。


「ヒナッ」

 だけど次の瞬間、俺はヒナを追って一緒に車道に飛び出していた。

 ヒナはペンダントを拾おうと薄暗い車道にしゃがみこんでいる。大型トラックがクラクションを鳴らしながら急ブレーキをかけるがその質量は簡単には止まらない。

 ヒナだけでも突き飛ばす!? イヤ間に合わない!


 ヒナを抱きしめるようにして押し倒す。運が良ければ奇跡的にトラックの下をくぐれるかも……頭で考えたわけじゃないが体が動いていた。


 ガシッ!体のどこかがトラックにひっかっかる。引きずられるようにして体がもみくちゃにされるが必死にヒナを抱きしめる。


 ガシャンと大きな音がして次の瞬間、路側帯のブロックがものすごい勢いで近づいてくるのが見える。最後の力を振り絞るように必死にヒナを掻き抱き、抱きしめたまま俺の頭はブロックに激突してそこで意識が途絶えた。

 自分の命が失われるって分かっていてもどうして助けてしまうんだろうな。


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 次回は本日18時更新


 序章最終話となります

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