第8話 女として見てくれない男なんていらない

「ヒナ……なんで?」

 西田のことは死ぬほど殴ってやりたいが今はヒナのことだ。なんでヒナはこんな風になってしまった?


「なんで?……なんでってどういうこと? アタシがこういうことをするのがおかしいってこと? 恭の言うヒナは……アンタが求めてるヒナは幼馴染だった姫川陽菜であってアタシのことじゃないよね? アンタがアタシのことを手術以降変わってしまったって考えていて、ずっと元に戻って欲しいって思っていたのは知ってるんだよ。

 いや、アンタだけじゃないうちの親も、アンタの親も、昔の友達もみんなそう思ってる。

 だからアタシは高校で出会って今のアタシだけを見てくれる西田先輩と付き合ったし処女も貰ってもらったんだよ」

 ヒナは本当のことを言っている……付き合いの長い俺にはそのぐらいは分かった。

 蚊帳の外に置かれた西田はヒナの胸を揉む手も止めて俺たちの顔を見つめている。


「アンタが臓器移植による記憶転移について本を読んだり人に話を聞きに言っていたのも知ってるし、両親が私に内緒でお祓いに言っていたのも全部分かってるんだよ。

 でもね……アタシは小さい頃からの記憶が全部ある。姫川陽菜として生きてきた記憶が。アンタたちの記憶と食い違ってるけど手術までの13年間はアタシにとっては本当にあった時間なんだ。

 アタシから見たら……アンタも友達も両親もみんな人が変わったみたいになっちゃったけどそれでもアタシは生きてるんだよ。なんでアタシを見てくれないんだよ……」

 ヒナが泣きだす。西田の手を振り切って俺に駆け寄ってきた。両手で抱きしめるように受け止める。


 受けとめた状態でヒナがドスッ、ドスッと鈍く腹を殴ってくる。腹筋は水泳と筋トレで鍛えてる方だと思うが地味に痛い。

 感情の行き場がなくなったヒナの意思表示。俺が受け止めるのが遅過ぎたのか。

 ぎゅぅ……ヒナを強く抱きしめる。思いが伝わるように強く強く。


 ドンッ……ヒナが俺を突き飛ばす。

「もう手遅れだから。アンタの顔なんてもう見たくない。西田先輩はアタシを気持ちよくしてくれる。それにいろんな男がアタシのことを女として見て欲情してくれるんだ。

 アンタみたいな女として見てくれない男なんていらないからどっか行け」

 心が抉られたように痛む……浮気されて浮気を咎めるためにこの場に来たはずだったのに、ヒナを取り戻すために来たはずだったのに完全に何かが壊れてしまった。


 いや、ずっと前から壊れていたのかもしれない。


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次回更新は本日15時

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