とりとめもない僕の日記
水沢かい
第1夜
どこか遠いところに行きたい思う。眼前に連なる数々の建物をただ無関心なままに見ていると、ふとそんな阿保みたいな感情が沸き起こってきた。
どこか遠いところとはいったいどころだろう。たとえその答えが見つかったとしても、僕はきっとその場所にいかないのだと思う。なぜならそれを実行するまでにかかるお金や時間を数える現実的な計算力は持ち合わせていなかったし、頭を使って考えなくてはいけないほど、僕は遠いところに行くことを渇望してはいなかった。
ただ偶然にも魂が身体から抜けてどこか遠いところに行ってくれたらいいのになと、ファンタジーほどの可愛らしさもない間抜けな考えが頭をよぎる。
漠然とした半端な欲望は人を幾つにも怠惰にさせる。旅をしたい、刺激が欲しい、出会いが欲しい、結婚したい、安らかに死にたい、楽に生きたい。
そして人はほとんど確実にその欲望とは反対の方向へ日常の舵を切る。頭や口で描いていることと、手足や臓器がやっていることは本人の意思とはまるで違う。
死にたいと言っている人に限って心臓が丈夫だったりする。体が全くもって壊れなかったりする。逆に、本当に死を目の前にしている人は心の底から死にたいとは思っていないだろう。ある意味で、恋愛と同じだ。自分が持っていないものを持っている人に惹かれる。
だから我々は一生かけても自分の身の上に満足することはできない。隣の家の庭は常に青いままで、自分の家の庭に死ぬまで不満を垂らし続ける。
でもほんとに些細なことで、人生のどこからしらで僕たちは自分の目の前に広がるちっぽけな庭さえも愛することができる。
それを僕は幸せと呼びたい。
とりとめもない僕の日記 水沢かい @kai_mizusawa54
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