選択肢if

僕、橘侑人には2人の幼馴染がいる。

白上結衣と、白銀遥。

僕は結衣のことが好きだ。


結衣は小学生の頃、僕をいじめから助けてくれた。それだけじゃなくて、結衣はよく周りを見ていて、細かいところに気を使ってくれる。一緒にいて居心地がいいのだ。向こうも僕に好意をしてしてくれている。もう一歩、関係を進めたい。恋人になりたい。


それを邪魔するのが、


もう1人の幼馴染の遥だ。僕は彼女のことが苦手だ。小学生の頃、僕をいじめた主犯は彼女である。結衣が助けてくれたから良かったけど、精神的にかなり辛かった。僕の気をひきたかったらしいが、幼稚で悪質で、その時からずっと許せていない。正直、幼馴染と呼びたくは無い。


彼女の見た目はとても綺麗で、世渡りが上手いので、いつもクラスの中心にいる。結衣は反対に人見知りで、見た目も人並みなので、クラスにおけるカーストは下に近い。


結衣の心はとても綺麗だ。見た目なんて関係ない。僕は結衣が大好きだ。だからいつも一緒にいる。


遥はそれが気に食わないのだろう。仲間に噂を流すよう仕向けている。


曰く、「白上結衣は橘侑人を脅している」、「橘侑人は白銀遥のことが好き」であると。


その噂に対するクラス、学校の反応も、やれ白上はクズでブスだの、橘と白銀がくっつけば学校一の美男美女だの、言いたい放題である。


ただ、直接的ないじめは僕本人が悲しむので、一応それは避けたい遥が止めてくれている。その辺の手綱引きが上手いのはさすがと言ったところではある。





そんなある日、僕は遥から相談という名の朗報を持ちかけられた。


なんと、遥に僕以外の好きな人が出来たというのだ!

それは隣のクラスの櫻井くん。僕と同じバスケ部のエースである。見た目もいいので、彼はモテる。だからこそ、繋がりのある僕に紹介をお願いしたいのだそうだ。


僕は二つ返事で了承した。

彼女の、成功させたいから綿密な計画を立てたい、誰にも知られたくない。と言った要望から、僕は彼女の家に呼ばれ、そこで話し合うことになった。





「いらっしゃい」


「おじゃましまーす」


何気に初訪問である。僕と結衣の家は隣同士だが、遥の家はほんの数分だが歩く距離にあるのだ。


話し合うのが彼女の家で良かった。もし僕の家に遥が入る所を結衣に見られていたら、誤解されていたかもしれない。


「上に上がって右が私の部屋よ。先に行ってて。お茶を用意するわ」


「うん」


何となく13段じゃないことを確認しつつ階段を登っていく。自分の知らない家の階段を登ることに抵抗を感じるの、分かるだろうか。未知の領域に進むソワソワ感を感じる。


上がって右のドアには"はるかのへや"と書かれた板がぶら下がっている。結衣の部屋にはよく行くので女の子の部屋にはビビらない。


中に入ると、思ったより女子女子した部屋だった。カーテン、クッション、シーツ、机、椅子、棚。あらゆるものがピンクを基調とした可愛らしいもので、なんだか甘い匂いもする。

前言撤回、割とビビりながら部屋中央に進む。座ろうとしたり立ったままでいようとしたりひょこひょこ変な動きになっていた。


しばらくすると、遥が部屋に入ってきた。手ぶらで。


「あれ、お茶をいれてくるって」

「侑人」


遥が早足でこちらに向かってくる。


「は、はるむぐっ・・・ん・・・・・・」


急にキスをしてきた。驚いて止められなかったが、急いで身体を引き離す。


「な、なにをっ」


「私はっ!侑人が好きだっ!」


そう言ってボスッと、ベッドに押し倒される。向かい合った遥の目には、黒い炎が燃えている。


「僕は、結衣が好きだ」


「そんなの知ってるよ!だから、結衣のことが好きなら、私のことを受け入れなさい!」


「なにを言ってるんだよ。話が分からない」


「今日、今、侑人が私を受け入れなかったら、結衣は学校で酷い目に逢うでしょうね」


「なっ・・・!」


つまり、ここで遥を受け入れないと、結衣に直接的な危害を加えると、今までしていた防波堤を辞めると、そう言っているのか。


「今までそれはしなかったじゃないか。その一線は越えなかった。なのにどうして」


「もう我慢できないの!侑人があの子の心が好きなことくらい分かってる。私が今までどんなに外見を磨いてもあなたは見向きもしてくれなかった。もうこうするしかないの。」


「・・・・・・」


「いいから答えて!いいわ。あなたが私を受け入れても、あの子には黙っていてあげる。だから、早く答えなさい!頷きなさい!!」


「・・・・・・断る」


「は?正気?結衣がどうなってもいいのね?!」


「結衣のことは、僕が守るよ」


「っっ。後悔するわよ」






次の日結衣と学校に行くと、結衣の机がびしょびしょだった。

昨日の今日で・・・仕事が早いことである。


「あいつ・・・!」


「侑人・・・?」


「結衣。今度は僕が結衣を助ける。待っていてくれ」


雑巾で机を拭きながら結衣に宣言する。


「え?侑人?」


結衣の戸惑う声を聞かずに。




その日から僕は結衣のいじめを止めるために動いた。 下駄箱に入った雑巾、机に入っていたゴミを処理し、隠された体育着も見つけた。

放課後こっそり残り、現行犯の動画を撮ろうとした。


しかし、収穫は無い。


そんなある日、いつものように放課後張り込んでいると、


「侑人?何をしているの?」


急に話しかけられ、ビクッと体が強ばってしまった。

振り返ると結衣であった。


「結衣か。何って、待っているんだよ。現行犯を。」


「っ。ここにいるじゃない。現行犯」


「え?」


「だからそれ。あなたが手に持っているのは?」


視線を下に下げると体育着袋が。記名欄にある名前は


"白上結衣"


「え、あ、いや、これは違くて」


結衣の席にカモフラージュで僕の体育着袋を置いたから。


「やっぱりあなただったのね」


「え?やっぱり?」


「そんな演技には騙されない。もう、私に、関わらないで。」


「え」


「ほら、それ寄越しなさい」


呆然とする僕を置いて、結衣は行ってしまった。


なんで、こうなってしまったのか



§


ある日私たちが学校にいくと、私の机がびしょびしょになっていた。


「あいつ・・・!」


「侑人・・・?」


あいつ?あいつって誰?


「結衣。今度は僕が結衣を助ける。待っていてくれ」


待って。あなたは何を知っているの?

それに待っていてくれ?私は何もしてはいけないの?


そんなに弱くないのに。


感じたのは申し訳なさか屈辱か。まだ分からない。


「え?侑人?」


少なくとも、自分の声を聞かずに動く幼馴染に、想い人に、この時から疑念が湧き始めた。



それから彼は、私への嫌がらせに、真っ先に、"私よりも早く"気づき、対応した。感謝より、怖さが勝っていた。


彼に対する疑念が膨らむ中、ある噂を聞いた。白上結衣に対するいじめは、橘侑人によるものである、と。


それを聞いた時、腑に落ちた。心当たりがありすぎる。

彼がすぐに嫌がらせに気づくのも、対応出来るのも、何より、彼は昔、私にいじめから救ってもらった時、凄く嬉しかったと語ったことがある。


私は1つの仮説をたてた


この嫌がらせは、彼による、私の好感度をあげるための"マッチポンプ"なのではないか。


杞憂だったらそれでいい。しかし・・・


そうして私は放課後を待った。


そして。


「侑人、何をしているの?」





彼が、こんな人だったとは。私が好きなら、こんなことをして欲しくはなかった。


彼のことが嫌いになった訳では無い。自分のことを好いている人を、そう簡単に嫌いにはなれない。

しかし失望はした。

もう、そういう目では見られないだろう。




§


「ね、侑人。だから言ったでしょ。後悔するって。」


「・・・・・・」


「なんでここに、って顔してるね。おばさんに家に入れてもらったんだ。」


ああ、侑人。私の侑人。私だけの侑人。

あの馬鹿は簡単に騙されてくれた。

侑人に好かれた癖に、それを棒に振る馬鹿女。

彼は、私が貰うよ?


「ああ、侑人、ほら、ぎゅー」


「っっ、やめ、」


「大丈夫。おばさんも出かけてるし、今この家には2人のだけだよ。泣いても、叫んでもいい。私が受け止めて、受け入れてあげるから。ほら。」


そう。受け入れる。私なら。私に対してしたことならどんな事でも。


「・・・うっ、ひっ、あぁ・・・うぅぅぅぅぅぅぅぅ」


「よしよし、君には私が着いているよ」


ああ、可愛い侑人。

傷心中に漬け込むのはやっぱり効果抜群ね。

頭では私が元凶だってわかってるのに、こころでは誰かに縋りたい。


いいよ、頭でもこころでも、私を見て。


「侑人、慰めてあげる」


あと、身体でも。

そして、全てを私で染めて、あいつを忘れて。





ふふっいい顔。

これで侑人は私のもの。


あいつをどん底に落としてあげましょう。




§


翌日私は生徒指導室に呼ばれた。


十中八九あのことで、侑人も呼ばれているのでしょうね。


しかし私が指導室に入るとそこに居たのは、担任と、生徒指導主任、そして・・・他クラスの女子生徒2人。


「「白上さん、ごめんなさい!!」」


「え?」


「まぁ、座ってくれ。目の前の2人が、白上に嫌がらせをしていた。他の生徒から証拠の映像が届いて判明した。まずは白上、解決が遅れてすまなかった。色々話を聞きたいんだが、・・・白上?おい、大丈夫か?おい」


え?この2人が犯人?侑人は?


「そ、その、侑人、橘侑人は」


「橘?」


「橘くんは白上さんのクラスメイトで、今回の件の解決について大きく協力してくれました。私に最初に嫌がらせについて報告してくれたのは彼です」


担任が答える。


じゃあ、侑人は本当に。





そのあとのことはあまり覚えていない。

気づいたら放課後になっていた。

ただ、侑人に会いたくて、謝りたくて。


担任から侑人の欠席を聞いた時は後悔に押しつぶされそうになった。

遥ちゃんも欠席なのは気になったけど・・・遥?


そういえば真っ先に私をいじめそうな彼女が今回の件で何もしてこなかった。

しかし、何も関与していないとは考えられない。


今回の件で1番損をしたのは私か侑人。

では1番得をしたのは・・・?


私の勘が正しければ・・・まずい。凄く良くない。



侑人の家のインターホンを鳴らす。

するとおばさんが出てきた。


「あら、結衣ちゃんどうしたの?」


「あ、その侑人が、休みだったからその、お見舞いに」


「あらありがとうね。今部屋にいるわ。遥ちゃんが昨日からずっと看病してくれているのよ」


ああああああああぁぁぁ

何を笑っているのだこいつは。

まずいまずいまずいまずいまずいまずい


「失礼します!」


礼儀など知らず侑人の部屋を目指す。

ああ、お願いします神様。


「侑人!」


乱暴にドアを開く。


「あら、病人が起きちゃうじゃない。まぁ、私がほとんど治したけどね」


その女は唇の周りをペロリと舐める。


「お前が・・・やっぱり・・・」


「逆恨みはやめてちょうだいね。あなたが勝手に勘違いして勝手に侑人を捨てたの。私はそれを拾っただけ」


「でもどうせあなたが「だから何?」」


「証拠を寄越せとかそんな事言わない。侑人が欲しかったから全部を、あなたも侑人も利用した。小学生の頃とは違う。あんなヘマはしない」


「っっっ・・・。そう、ね。今回はあなたの勝ち。でも」


「今回は?勘違いしないで。あなたは彼を裏切ったの。彼の厚意を、好意を否定して絶望させた。私が来る前はほんとに酷かった。彼はあなたに会うことを望んでいない。彼はあなたを必要としていない。それ以前に、お前は彼の前に立つ資格がない。彼はもう私のなの。消えて。」


「え、あ・・・」


裏切った・・・

資格がない・・・


私はもう、侑人にとって必要でない・・・


「あ、ああ・・・」


「消えなさい」


「うわぁぁぉぁぁぁぁぁぁあ!」



駆け出していた。すぐ隣の家に入り、自分の部屋に閉じこもる。


「うぅ、侑人、ゆうと、ごめんなさい、ごめんなさい・・・ぁああ・・・うっうぁ」


枕に顔を埋めながら相手に届かない謝罪を漏らす。

せめて相手の方を向こうと顔を上げると、カーテンにあの女の影が映る。


「あいつ・・・侑人を・・・許さない・・・。侑人は私が・・・」


『彼はあなたを必要としていない』


「あぁぁぁっ!うぅぅぅぅ・・・」


そのあとも終わらない謝罪と呻き声と泣き声が続いた。



§


その後の学校では、美男美女カップルがうまれ、教室に1つの空席が出来ただけの、特に変わらない光景があったという。




「侑人、大好き」


「遥、俺も大好きだ。愛してるよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

好きな人をいじめると脅されて pleedoll @pleedoll

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ