3

1月後


「にいちゃ、にいちゃ。」


「なんだい、フィーネ。」


「おはなし。おはなし。」


「そうか、何か面白い話をするか。」


フィーネは布団から起きられないので、外の話を聞きたがる。

早く栄養のあるものたくさん食べさせてあげないと。


「おそと、いきたい。」


「そうだな。いつか母さんに内緒で外に連れてってやるよ。」


「ほんとに?」


「本当だよ。約束だ。」


「うん、やくそく。」


フィーネは体調の悪そうな顔をしながら笑顔をこぼす。


フィーネと母さんの持病は『瘴気病』と呼ばれている。魔物に襲われて死んだ人間は死体から瘴気を振りまいて、新しい魔物を生み出す。

生まれながらにして、体内に瘴気を溜め込みやすい人達がいるらしく、それが母さんとフィーネだ。

体調が万全ならそれほど大袈裟な病気ではないのだが、栄養失調が酷いのだろう。体内の抵抗力が低くなっていて、病気に対抗できていないのだ。


俺はフィーネと別れて、ボロボロのサンダルを履いてから外に出る。


「ステータス」


レベル 1


力    :28

身の守り :27

素早さ  :40

器用さ  :31

魔法力  :32


ステータスの数字が頭の中に流れ込む。


「いい感じに伸びてるな。意識して筋トレしたのと最近の食事が良かったからな。それにこのナイフも使えるようになった。」


母さんから渡された黒いナイフ。

これに魔力と思われるものを流し込んでいたら気絶したので、毎晩寝る前に魔力込めるようにしていたら、魔力の感覚を掴めるようになった。

この黒いナイフに魔力を一定込めると、形を操れるようになった。

俺の魔力は少ないので、形を維持できるのも少しの時間だけだ。


「それでも、すぐに行動に移らないとな。」


フィーネの容態がいつ急に悪化するか分からないからな。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


数多くの露店が集まっている、通りに出た。

俺の身長は小さいので店主からはまず見えない。店主が他の客の相手をしているときに主に野菜を盗む。今は、肉はまだ重すぎて変形させた黒のナイフでは盗めない。


「おい、これいくらだ?」


「銅貨3枚だ。追加でもう二つ買えば、銅貨8枚になる。」


「そうか、じゃあ3つ買おう。」


「毎度あり。」


店の店主が品物を紙袋に詰め込んでいる時を狙って、黒のナイフを変形させて一番近くにあるトマトみたいな野菜をとる。

とった後は、とにかく人混みに紛れてすぐ離れる。


「よし。成功だ。これを繰り返していけばいいんだな。」


無茶苦茶ドキドキした。バレて捕まったら何されるか分からないしな。


「とにかく、この野菜は一回家に持ち帰ろう。」


家と露店通りを行き来して今日は合計3つの野菜を盗めた。


「よく頑張ったねレックス。」


「明日からは、もっと盗んでくるよ。」


「気をつけてね。あんたはまだ子供なんだから。」


「分かってるよ。」


盗んできた野菜は日本の野菜たちと近い味だったので、美味しかった。

フィーネにたくさん食べさせて元気にさせないとな。


それから小さい水筒と小さい布の袋を作ってもらい、盗みの効率が上がっていった。

盗みにも慣れていき、黒のナイフの扱いも慣れていって

一日に野菜5つ、パン2つ、お肉100gほどは盗めるようになっていった。

これだけあれば、俺の家族の一日を養えるようになる。お腹一杯にはならないが。


「にいちゃ。そと。」


「少しだけだぞ。」


顔色の良くなったフィーネをおんぶして、外に出る。

外と言っても、ボロボロの石造りのアパートみたいなものの出てすぐに生えてる木の近くだ。


「あるきたい。」


「まだ早いだろ。もう少ししてからだ。」


「や!あるきたい!」


「う〜ん。まあいいか。」


フィーネが駄々をこねるので、歩かせる。

靴を持ってきてないので、俺の手を握らせながら、砂の場所を歩かせる。


「一歩ずつだぞ。」


「うん!!」


フィーネはうまく歩けなかったが、それはそれは楽しそうに歩いていた。

外に出るのが楽しいのだろう。すぐに歩き疲れたので俺がおんぶすると、すぐに寝入ってしまった。


「頑張って稼がないとな。まあ、盗みだけどな。」


母親が働きに行くには体力が心配だし、フィーネの世話も見れない。

だから、今は俺が頑張らないといけないな。


「にいちゃ。」


フィーネが寝言で俺の名前を読んでくれる。可愛いやつだ。

死んだ娘と同じ年齢だったからだろうか、親目線でこの子を見てしまう。


「お兄ちゃん頑張るから、待っとけよ。」











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