2

俺みたいな4歳が働けるはずもない。

それは異世界だろうが変わらない。なので、食い扶持を稼ぐためには盗みしかない。

昼に盗みをすると、当たり前だが、逃げきれない。

なので、夜、盗みを働く。

といっても、基本野菜売り場も、肉売り場も露店で売っているから、日が暗くなる前には店じまいする。


「とりあえず、今日は様子見するか。」


ボロボロのサンダルみたいな靴で街を闊歩する。

レックス君の記憶通りの道を確認した後、それ以外の場所も入念に調べる。

歩き回って、腹も減ったし、喉も渇いたが、金がない。

水は水飲み場で飲むことができたが、クソ不味かった。これ、飲んで大丈夫なやつか?

水筒欲しいな。そしたら、家の近くの井戸から汲んで持ち運べるのに。


「一回、家に帰って遅くなること伝えとこ。」


ボロボロの石造りの家に帰って、母親に今夜遅くなる事を相談した。


「ダメよ。夜は危ないもの。」


「なんで?」


「酔っ払いが多いし、夜は怖い人がたくさんいるもの。」


「怖い人?」


「夜は暗いから、泥棒がたくさん出るの。それにいろんな場所で喧嘩が起こるしね。」



「でも、今のままだとご飯足りないよ。」


「それは大丈夫よ。レックスは元気だからね。」


「でも、フィーネに野菜を食べさせないと死んじゃうよ。」


フィーネとは病気でベッドから起きあげられない妹だ。

母親と同じで銀色の髪をしている。俺も銀色の髪らしい。


「どうしたの今日はおかしいわよ。」


「気づいたんだよ。兄として家族を守らないといけないって。」


母親は今日1驚いた。


「本当にどうしたの?何かあったの?」


「何もないよ。それよりこのままだったらフィーネが死んじゃうんだよ。」


母親は俺の目を真剣に覗き込んだ。

それから少し悩み、狭い部屋の奥にある木の小箱から小さい黒いナイフを取り出してきた。


「これを使って強くなりなさい。そしたら、冒険者でもして稼げばいいのよ。」


「これは?」


「父さんがレックスのために勝ったものよ。どこかの遺跡の掘り出し物らしくてね、これを使ったらレックスは強くなれるって。あの人は自分が弱くて苦労したから、レックスには強くなって欲しかったのよ。」


俺の父親。

母親の話からすると、行商人から商人になった人で、一儲けした時に盗賊に殺され、全て奪われたらしい。もしかしたら、商人仲間に恨まれたからかもしれない。

母さんも昔は行商人だったらしく、その関係で父親と知り合ったが、元々体が弱かったのをフィーネを産んでからどんどん悪くなっていったらしい。

だから、うちには金がない。


「どうやって使うの?」


「魔力を込めればいいらしいわよ。」


「魔力?」


「体の中に温かいものがあるでしょ。それが魔力よ。」


全然分からない。どうしよ。


「何かコツはある?」


「感覚だからね。いずれ分かるわよ。」


これを待っていたら、フィーネの容態が間に合わなくなるかもしれない。

少しでも、速くしないと。

でも、夜が危険なのはそうなんだろうな。日本の夜は平和なだけで、海外の夜は出歩いたらいけないらしいからな。それと同じだろう。

それなら、逃げ足を鍛えないと。これで、盗みを鍛えよう。


「それまでは僕のご飯をフィーネに食べさせてよ。」


「それはダメよ。」


「じゃあ、半分はフィーネにあげてよ。それならいいでしょ。」


「私の分を食べさせるわよ。」


「母さんが体調崩したら、それこそどうしようもないからね。僕と母さんの分を少しづつ分けようよ。」


「そうね。それがいいわ。」


「それじゃあ、外で走り込んでくるね!!」


「気をつけてね。いってらっしゃい。」


「いってきます!!」


俺は逃げ足を鍛えるために人混みの中を速い速度で走る抜ける。

これで、日中の盗みをしないと。

スリは怖いからやめとこ。いかつい冒険者みたいな奴ら多そうだし。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

レックスが出ていった後、、


「あの子急にどうしたのかしら?」


つい、昨日まで泣き虫だったレックスが急に家族を守ると言い出した。

まるで別人になったみたいだ。


「でも、少しあの人に似てるのよね。」


夫が死んで2年。体を壊した自分には到底二人を育てる事はできない。

フィーネも自分に似て体が弱い。私よりも弱い。

レックスは体が丈夫だから、私とフィーネが生きていけなくても、あの子は教会が拾ってくれるだろうと思っていたが、


「どうせ選択肢はないんだしね。あの子の頑張りに賭けますか。」


教会にレックスを引き取ってもらうために残していた、数少ないお金を使って、食事の量を増やすことにした。

3月もあれば、お金は尽きると思うけどね。


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