13.ハル笑顔


 泥まみれな靴の下 地面から春の産声

 ふわりと漂う 花のかおり

 かすかに火照った 指先つかみ

 あなたはわたしの冷たい顔 触れて大きく深呼吸

 はにかんだ空 追いかけている


 遠く霞む青空に 自由なキャンパス 雲が躍る絵

 わたしもあんなふうに 描けたらいいのにね

 手をつなぐ先 風の通り道

 桜の花びら ひらひら 舞い落ちる


「1つだけ言いたいことがあるよ」

 素直な言葉は喉の奥 押し込んだまま

 あなたの手を離す

 こわばった頬 小さく笑う 不思議そうな顔

 尊い笑顔は わたしだけが見ている

 心の奥にしまったまま 歩き出す


 あなたの心に やわらかな春を伝えたい

 ふわふわと桃色の風 雪がとける その前に



 軽く汗ばんだ手のひら 残る優しいぬくもりは

 わたしの鼓動か あなたの想い

 やがて落ち着いた 手を差し伸べて

 わたしはあなたの斜め横 歩き小さくふくれっ面

 いつの間にか そっぽ向いている


「あれ、どうしたの?」「疲れたの?」

 あなたの言葉は春の前 芽吹かないまま

 わたしをからかうの

「いつまでもさ、子供扱いしないでほしいよ」

 膨らむ桃の頬 あなただけが見ている

 花の声は咲かないまま あまのじゃく

 

 想う心を 勇気に変えて伝えたい

 ひらひらと桃色の羽 背中を押す その時に



 同じ道を歩んでく

 あふれる想い 桃色に染まり導いていく

 どうか散らないで 言の葉よ

 永遠に あなたとこの景色を見たいから

 永遠に あなたがわたしの隣にいますように



「1つだけ言いたいことがあるよ」

 大事な言葉は目の前に 芽吹き出していく

 あなたは黙ったまま 手を握り返す

 羽根は想い 風は言の葉

 満開の花 瞳に咲き誇るは

 わたしたちの未来をかざす 約束のトロフィー



 桜の花びら はらり はらり


 零れ落ちる涙は 恋の先

 握りしめる掌に あなたとわたし


 温かな ハル

 咲いて 笑う


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