12.缶ビール


ツツジが咲いたら 衣替え

母の言葉を思い出す 柔らかな風の匂い


「おかえり」と

靴を揃える手のひらに

重なる笑顔

「ただいま」の声


背伸びして ネクタイ締めた

時を知る母の残り香 残月ざんげつと散る


冷蔵庫の缶ビール

開けて注ぐは いつもの夏

好きな味は ずっと変わらなくて

ほっと溜息をつく


わたしもいつか

あなたの黄金こがねに沈んだ

泡の苦みを知るのかな




ひまわり伸びたら キッチンの

母の姿が重なるよ 温かな夜の香り


ポケットの

雀の涙とりだして

買って来いと言う

寂し気な声


はぜる火が 猫の背中には

影を射す緋色と染まる 白月はくげつに似る


生ぬるい缶ビールに

唇舐める 初めての夏

苦手な味と ずっと思ってたけど

やっぱり舌を出す


わたしもいつか

あなたの白くにじんだ

長い孤独がわかるかな




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