第2話 リレー

 とある日本の山の奥地、鬱蒼と茂る青々とした植物に隠れ、そこにある。

 所謂いわゆる秘密基地、ヒーローというものには総じて隠れた活動拠点があるものだ。

 コト…

 虎氏こうじは飲み切ったコーヒーカップをテーブルに置くと、「さて」と一言、そして次の行動に移った。去った後に自律のマシンがピーピー言いながらカップを回収してまた別の方へと運んで行った。


 向かった先は格納ハンガーとは打って変わって天井の低い研究所チックな白い空間。

「ドクター…居るかい?」

「お、どうしたのかね?」

「あのロボット…アンゼルはパワーがありすぎる。もう少し抑えられないだろうか、あと遠距離で叩く武器が欲しい。」

「リミッター…ねぇ 分かった検討しよう、で…飛び道具なら持っているが?」

「あぁ…ハンドバスター、でいいのか? ちょっと恥ずかしくないか名前言うのコレ…で、これも火力がオカシイ。街に被害は出したくない」

「なるほど…名前はカッコイイと思うがなぁ、まぁいいか、幾つか武器も作ろう。だが…名前は叫んで貰うからねっ♪」

 大人びた声、そして雰囲気からは想像できない様な元気な感じの声色で最後そう言うと「もういいね?」と奥に消えていった。

 虎氏は部屋を出て、シャワールームでシャワーを浴びると自室のベッドで眠りに着いた。




 ────三年前


 待っていた。

 血塗れで右の二の腕の半分から下が無いまま、出血部をただひたすらに抑えたまま。

 下半身は動かない、一体どんなカタチになってしまったかは想像したくなかった。

 そんな状態で…

 待っていた。


 何を待っていたか


 憧れのライダーだった父が煽り運転を受けて末にトラックに潰されて死に、母はテロメアが足りずに志半ばで死んだ、二人が居る空の上の何処かに、天使に連れて行って貰うのを…


 本来待つべき救助なんてのは来ないだろう。ここはヒトの居ない森の中、誰にも知られず落石に潰されているのだから。

 もっとやりたいことあっただろうな…そうしたくもない後悔が次々と脳を行き来する。


 最後なんだ、ゆっくり…


 そう決め込んでいた時だった。


 ピ──────ッ!


 機械音が響いた。その時は耳鳴りかと思った。


「〜!」

 直ぐに何か声が聞こえた、霞みゆく意識をそれに凝らした。ふつふつと、もっと生きたいと…そうした意志が湧いてきた。

 右腕を抑えていた左手を放すと落ちていた石ころを巨大な下半身を押し潰した岩にぶつけた。

 今思えば愚策だった、血も止まらない、だが止めなかった。


 そして


 ピピピピッ!

『おや…』

 湿気も酷い泥も跳ねるであろうこんな場所に純白の服を着て現れた。天使が来てしまったのだと思った。

 そこからは覚えていない。


 再び記憶が繋がったのは無機質な白い空間だった。そこで自身は頭が痛くなる程驚いたのを今でも覚えている。

 腕があったのだ!

 それもちぎれたはずの右腕…本当に天国に来てしまったのだろうか。身体を起き上がらせようとすると痛む、そういえば脚もカタチを留めている。何事か?

「お目覚めかな?」

 ゴーグルを掛けた長身の白衣を着た女性がいた。そしてその女性はゴーグル越しにベッドの上で動けない自分の顔を舐めるように眺めた。すると不意にゴーグルを外した。

「うん、大丈夫そうだね!」

 そう付け加えると去ろうとしたので

「待ってくれッ! グ───ッ!」

「あまり声を出すな…痛むぞ? で、どうしたのかな?」

「どうしたも何も…ここは? 貴女は? 腕は? 足は?!」

「ひとつひとつ答えて上げよう…、ここは私のスィークレットなラヴォラトリー、そして私は井門 大王いど たいよう、大層な名前だが…実際、名前負けはしてないと思う。で、腕は人体に極限まで寄せた人工皮膚アシュームド・シェル人工筋肉アシュームド・ブラゥンで作られた、超スゴイ義手だ。足も同様……。御解おわかりいただけたかな?」

 淡々と若干早口でそう告げると、

「後1時間ちょっと大人しくしていてくれ…神経同期が少し遅れていてな、なんかマズったのかもしれないが…。そう、私もそこまで君に構ってられないから…もう一度言う。また来るまで大人しくしておいてくれよ?」

 そう言うと去っていった…。「なんかマズった」がかなり気になるところだが、言われた通りに大人しくする事にした。


 ピピピピピピピ!

「ッ!」

 また寝ていたらしい…頭痛が直ぐに襲いかかってくる。

 頭痛を提供したのは1台の箱型のロボットで、蓋の様な部分から覗くカメラがこちらを見据える。と、ドアを器用にアームで開けると停止、再びこちらを見る。

「ついて行けってことか?」

 恐る恐る起き上がる、痛みは無い。ゆっくり足を床に付け、足が無くなる迄の感覚を思い出しつつ立ち上がる…足の裏から床との接触の刺激が返ってくる。

「…凄いけど、頭がおかしくなりそうだ」

 無くなったハズの部位が無くなった感触だけ残しつつ、だが存在している…それが気持ち悪かった。

 膝や右肘を曲げる度に、肉体を通じて内側からヒュイ…と軽い磁場の波の音が聴こえる。この手の音は心地良いと感じるクチではあったのでそこだけは少し楽しかった。

 そして進んだ先、とても広かった。まるで総合体育館と言えるような高さと広さである。ぐるりと一瞥すると、気になるモノがあった。

「これはッ!?」

「おや、32号…彼を連れて来たのかい? ふむ十分か…よし、君? 名前は? 間だ聞いていなかった」

「えっ? あ、コウジ……次須田じすだ 虎氏こうじだ」

「よし、次須田君…君に親は?」

「もう、とうの昔にいません…」

「おっと、すまない…君を悲しませるつもりではなかった。でだ」

 ”でだ”の二文字に一瞬降ろしてしまった視線を再び大王たいように戻す。


「君、私と世界を救わんかね?」



 ────現在


 ピピピピピピッ!

「ほっ!」

 虎氏はベッドから跳ね起きる。

「35号! 来たのか?」

 ピピッ!

 機械音で返事をする。ようだ

「こちらコウジだ! 怪獣の発生で間違いないな?」

 35号と呼ばれた箱型でカメラだけ蓋から見せるロボットに向けてそう話しかけると

[あぁ、そうだ…出撃用意!]

 無線によってぼやけた声がスピーカから秘密基地全体に答えが返ってくる。


 ウィィィィィッ! がしゃっ!

 いつの間にか巨大なドアのついた地に対し垂直のパイプの中に収まっている巨躯の天使のコクピットに、飛び乗ったリフトにより直送される。

 かちっかちっ! 

 と手際よくレバーとスイッチを操作。右と左に突き出た操縦桿を握りしめると…

「準備できたよ」

[りょうかーい… INDCT:UN-GELインダクトアンゼル発進どうぞ~]

「アンゼルいきます」



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