第10話 できたちゃったよ.......

 コンコンッ


「父さん、入っていい?」


 ノックをしてドアの向こうにいる父さんへと声をかける。


「入れ」


 ガチャッ


「どうした?」


「大した用事じゃないよ、秘書庫に入る許可を貰いに来たんだ」


「ん?何故秘書庫に?」


「闇魔法について記された魔法書を読みたいんだ」


「お前はまだ3歳だろ、魔法が使えない上に適性だってまだ授かってないじゃないか。それになんで闇魔法なんだ?」


「あー、いや、今から闇魔法について詳しく知っておけば、もしかしたら闇属性が俺の適性になるんじゃないかなぁって思って」


「なるわけないだろ。それでなれるなら世界中の人間がお前みたいに魔法書に釘付けになっとるわ」


「......入っちゃダメですかね?」


「いや入ってもいい、重要な書物や危険な書物があるってわけでもないしな」


「あ、本当に?じゃあ早速行ってくるよ」


「待て、入ってもいいが一つ条件がある」


「何?」


「次のお茶会も出席しなさい」


「..................」


「出ないというなら秘書庫に入るのを禁ずる」


「..................」


「..................」


「..................」













◇◇◇◇◇


「あ、あったあった闇魔法専用魔法書」


 結局俺は、父さんの条件を飲んだ。


 あんな条件飲まない方が良かったんじゃないかと思うような気もするが、これが間違った選択ではなかったということを信じて、秘書庫から自室へと魔法書を持っていく。 


「さてと、それじゃあまずは分身を作る魔法から練習しますかね〜」


 ペラペラと魔法書をめくる。


「お?『シャドウクローン』うん、これだ」


 目当ての魔法が書かれたページを見つける。


「ふむふむ、おけおけ、理解理解。そんじゃやりますか」


 一通り理解したので、魔法を発動する。


「すぅーーーふぅーーー」


(ゲイ様!どうかできますように.....!)


『シャドウクローン!』


 ............


「何も起こらない.......やっぱりダメか?」


 と思ったその時


 .......スゥ


「お.....おぉ......ッ!」


 目の前にシルエットのような、人間の形をした真っ黒なものが床から出てきたかと思えば、それが俺と全く同じ姿へと変貌する。


「で、できた.....!できたできた!分身できた!!」


 発動が成功して嬉しいあまり、ぴょんぴょんと跳ねる。


「まじか.......え、普通にできちゃったよ.......うわまじか」


(そりゃ、できて欲しいとは思ったけどさまさか本当にできるとは............俺って天才なのかな?)


 自分で魔法を発動しておいてなんだが、成功したことが普通に信じられない。


「とりあえずこれで母さんたちの目は誤魔化せるな。あとは容姿か」


(容姿を変える魔法は---これだな。できればこれも成功してほしいなぁ)


『シェードガイス!』


「うわッ!?な、なんだ急に目の前が真っ暗になったぞ?」


 魔法を唱えた瞬間、あたり一面が真っ暗になった。まるで黒の絵の具にでも塗りつぶされたかのような感覚だ。


「あ、戻った」


 すぐさま、視界が晴れる。


「ん?なんかすごく高くね?」


 自分の目線がさっきよりもグンと上がったことに気づく。


「か、鏡。鏡、鏡。」


 慌てて、壁に掛かった鏡に自分の姿を映す。


「お....おぉぉぉ、誰だよこいつ」


 俺の知らない男が鏡に映る。


「せ、成功ってことでいいんだよな?」


 なんだか不安になる。


「..........わぁ、全く別人だぁ、さっきまでの俺とは思えないなぁ。20歳前後ってとこか?」


 自分と全く違う姿を見て驚嘆する。


「すげぇ、これなら俺のこと俺だって気づける人は絶対にいない!周りの目を欺けられる!!」


(これならカナサス大森林にいってもバレる心配はない!)


「念の為、ウィンドウカッターをもう一段階レベルアップさせてから、森に行こう」


 俺が使える魔法の中では、風魔法のウィンドウカッターが1番殺傷能力が高い。ゴブリンやスライムくらいなら今の俺の強さでも充分殺せるだろう。


「奥に行かなければ死ぬ危険性は少ないって言っても、何があるか分からないしな。にしても、なんか普通に闇魔法使えたな」


 冷静になって考えれば、適性すら持ってない人間が特異属性を使えるのは異常だ。


(俺に適性があるのか?いやでも、適性は6歳になってから神から与えられるもので、それまではみんな持ってないんだったよな?なら、特異属性は案外扱いやすい魔法だったり?いやそれはないな、もしそうならほとんどの人間が使ってるだろうし......うーん、分からん)


 何で自分が闇魔法を使えたのか、その理由が分からない。


「うーーん.........ダメだ、分からん!いくら考えても答えが出ない!何でか知らないけど使えたってことでいいや」


 分からないものは分からないそう考えることにした。


 とその時、


 コンコンッ


「ッ!?」


「レオノア様、ご夕食の時間です」


 専属メイドのカルモアだ。


「あ、ちょ、ちょっと待って!」


(やばい!早く魔法解除しないと!)


 知らない男(俺)が公爵家の息子(分身の俺)の部屋に忍び込んでいたなんてことが知れ渡ったら大変だ。


「解除!」


 魔法を発動した時同様、視界が真っ暗になる。かと思えば視界が晴れ、目線が低くなっていることから元の姿に戻ったのだと理解する。


(分身も消えてるな)


「レオノア様、どうかいたしましたか?」


「だ、大丈夫!何ともない、今行くよ」


 ガチャッ


「何かなさっていたんですか?」


「え、あ、うん。魔法書を読んでて」


「飽きませんね」


「えへへ」


(危なかった、容姿を変える時は外でやるようにしよう)


 身体強化を初めて使った時といい、うちの者はタイミングが悪いなぁと考えるレオノアだった。












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