第8話 だから来たくなかったんだ。

「良かった、他の家の者はまだ来てないわね」


「1番乗りだね」


 馬車から降りてまだ誰も来ていないことを認知する。


「レオ、彼方にいらっしゃる方がレティシア王妃よ」


(うわッ綺麗すぎるだろ)


 母さんが見る方向に視線を合わすと、コーヒーブラウンのパーティドレスに身を包んだ綺麗な女性がお茶会の準備をしているであろうメイドと話していた。


(モデルかよ)


 そう思いながら、母さんの後に続いて王妃の元へと歩いてゆく。


「レティシア!」


「あ、セリア!」


「久しぶり」


「前回のお茶会ぶりね、今回も参加してくれてありがとう」


「こちらこそ、招待してくれてありがとう」


(噂で耳にはしていたけど、本当に仲良しなんだな)


 王妃と母さんは学生の頃からの付き合いで、今では王妃と公爵夫人という地位にいるが、元は同じ侯爵家の令嬢で幼馴染ということもあり、ものすごく仲が良いで有名なのだ。立場上、公の場ではタメ口で接することはできないが、2人の時はどちらも敬語を使っていない。


 今回、俺達が他家の貴族よりも一足早く来た理由も、こうして友人として2人で話すためだ。


「もしかして、隣にいるその子が?」


「えぇ、私の息子のレオノアよ。レオ、レティシア様にご挨拶なさい」


「お初にお目にかかります。レティシア様。フォーデン公爵が第二子、レオノア・フォーデンと申します。よろしくお願い致します」


 母さんに促されて俺も挨拶をする。


「まぁ!3歳とは思えないくらい丁寧な挨拶ね、驚いたわ」


 3歳の子供らしからぬ振る舞いにレティシア様が驚嘆する。


「時々私も思うわ、本当にこの子は子供なのかしら?って」


「............ッ」


(え、バレてんの?バレてないの?中身がもうすぐ30歳だなんて何があってもバレたくないんですけど?)


「手のかかる子供よりかはいいじゃない」


「いや、かかるわよ?」


「あら?そうなの?レオ君」


「え、あ、いや、ちょっと母さん冗談はやめてよ」


「冗談じゃないわよ。あなたいつもいつも魔法書ばかり読んで碌に他人ひとの話聞かないじゃない」


「フフフ、そうなの?」


「いえ、聞いてます!確かにいつも魔法書を読んではいますが、他人の話もしっかりと聞いてます!まったく、自分の子供をいじめるのもいい加減にしなさいよ貴女!」


 レティシア様に否定をしつつ、俺が母さんに対して目を向けながらそう注意すると、ドッと笑いが起きた。


「「アハハハハッ」」


「「フフフフフッ」」


 母さんとレティシア様はもちろん、お茶会の準備をしていたメイド達までもが笑っている。


(そんなに笑わなくてもいいやん)


 と思いつつも自分が起こした笑いの渦に俺自身も呑まれて少しばかり笑ってしまった。



◇◇◇◇◇


 あれから40分ほどが経ち、そこには目にも美しく盛られた小さなサンドウィッチや、ペストリーを少しずつつまんで、たっぷりの紅茶で喉を潤せば、優雅なひとときを過ごす夫人達の姿があった。


(呑気にアフタヌーンティー活動しやがって)


「これで終わりよ!!」


 それとは裏腹に俺は粗末なひとときを過ごしていた。


「うわーやられたーぐへっ(棒読み)」


 俺は現在、母さん達のいる場所から少し離れた場所にてというありきたりな役を演じていた。


「何それ?もっとうまく演技してよ!」


 そう、俺がこのお茶会を嫌がっていた理由はこれだ。


 他家の子供との交流。


 今回のお茶会の目的は、夫人同士での会話ではなく他家の子供との交流にある。


 なぜそのような(めんどくさい)ことをするのかと発案者であるレティシア様に聞けば、


 ---今のうちに交流を深めておけば、将来の自分にとって大きなメリット生むことができるからよ---とのこと。


「もう一回やり直し!」


(デメリットを生む気配しかありませんよ?レティシア様)


 俺だってただの子供が相手ならいいさ。けど、相手はただの子供じゃない。レティシア様の実の娘にして、この国の王女、ソフィア・マーヴィング王女なのだ。


 見れば、レティシア様の血をしっかり受け継いでることが分かる。その証拠に、髪の毛は銀髪で目の色はスカイブルーとどちらもレティシア様と同じ。レティシア様がタレ目なのに対してソフィア王女はつり目、それがレティシア様との違う点だ。透き通るような声、病的なまでに白い肌はまるで雪のようだ。


 これで性格が良かったのなら完璧だったのだが、残念なことにこの王女、性格が破綻している。


 我儘で勝気な性格。それだけでもめんどくさいというのにそこに王女という地位が拍車をかけ、もう手の施しようがなくなっている。王城でもレティシア様以外誰も彼女を注意できずにいるみたいだ。


 国王!あんた父親だろ?頑張れや!!


「これじゃあ民を救った感がないじゃない!もっと悪になりきりなさい!」


 今もこうして俺の演技に文句しか言ってこない。


(さっきからアンタのタックル受けてやってるんだぞ?まずそこを褒め称えろや?粗末な扱いをされる役を演じてるだけありがたいと思えよ!!)


 なんてことは絶対口にできない。


「悪の親玉!これで終わりよ!ライトニングアロー!(タックル)」


「うわーやられたーぐへっ(棒読み)」


「もう!!だから、うまく演技してってさっきから言ってるじゃん!何でそんな下手クソなの!?」


「やってあげてるだけありがたいと思ってくださいよソフィア王女」


「何あんた、私にはむかうの?」


「いや別にそういうわけじゃないですけど、そんな風に言うなら、俺以外の子にやらせればいいじゃないですか?」


 といって、俺が他の子へ目をやると嫌そうな顔でぶんぶんッと首を左右に振っていた。


(俺1人に背負わせる気かよお前ら)


「そもそも何で俺にこの役をやらせるんですか?」


「なんか、粗末に扱っても大丈夫そうな顔だから」


(なんなんだこの純粋なクソガキは?ほんとに子供か?いや子供だからこそこんなに残酷なのか?)


「はぁ、もういいや」


(お?諦めてくれたか?)


「悪魔ごっこする!」


「悪魔ごっこ?」


(まだ何がやるのかよ.......もう充分付き合ってやったろ........早くティーを飲み終えてくれ夫人達!!泣)


「悪魔ごっこ知らないの?」


「知らないですね」


「演技もできない遊びも知らない、一体何ならできるの?」


(このクソガキッ!)


「申し訳ございません、ソフィア王女。よろしければ教えてくださいませんか?」


「無知の家臣を持つと苦労するわ〜」


(あんたの家臣なったつもりはねぇよ!)


「悪魔ごっこっていうのは、悪魔を1人決めてその人から逃げるっていう遊び。逃げきれずにタッチされた人は悪魔役交代。簡単でしょ?」


(鬼ごっこじゃん)


「分かりました。それで悪魔はだれがやるんです?」


「あんた」


(少しくらい悩めよ)


「分かりました。それじゃあいくつか数えるので逃げてください」


(身体強化使って即捕まえてやる)


 そう思うレオノアであったが、ソフィアを捕まえることはできないのであった。




 _______________

 あとがき


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