第10話
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「ちょ、ちょちょちょっと待てって」
無数のゴキブリに囲まれてる恐怖を堪えて、俺はマリーにそう言い返す。それにしてもこいつはなんでこんなにも怒っているのだろうか。
「……なによ?」
その声を聞いたマリーの返答にはやたらとドスが効いていて、俺は思わず唾を飲み込んでしまう。
「……いや、その、な、何、な……」
どうしてだろう。「何をそんなに怒ってるの?」それわ聞いてはいけないみたいにそれを言おうとすると舌がもつれてしまう。
「ーーーーふーん、なるほど」
そんな風に口篭る俺に対するマリーの声は酷く冷たい。ダメだ、何か言わないと。
「えっと、その……」
けれど、そんな絞り出した俺の言葉は途中でマリーに遮られてしまう。
「……何をそんなに怒ってるのかって?」
そして遮ったその言葉はまさに真実で、俺は思わずコクコクと頷いてしまう。
「………………じゃあ、教えてあげる」
そう、重く答えるマリーの声に、俺は頷くことしか出来ない。それはのせいでも恐怖でも、ゴキブリ達のキモさのせいでもない。なんだか、そうしなきゃいけないような気がしたから。それくらい思いなにかがあるという予感がしたからなのだろう。
「ーーーージェシカ、ちょっと来て?」
マリーに呼ばれて出てきたのは1匹のゴキブリ(チャバネ)。ジェシカと呼ばれたゴキブリは、仁王立ちするマリーの横にカサカサとやってきて、寄り添うようにそこに止まった。
「この子はジェシカ、この地球でアタシに出来た、初めての友達よ」
そっか、いくらマリーが勝気だと言ったって、異世界にやってきて、話し相手が俺だけで、一日中ネット見てるだけじゃ寂しいよな。
「そっか、それはよかっ……」
「……昨日アンタに踏まれて腸が破裂したわ」
「……あっ」
俺の無責任な相槌に被せられた思い声で、全てを察した。あの時だ。朝起きたらマリーの声がして、目を開けたら手にゴキブリが乗ってて、取り乱して大暴れしてしまったんだ。あの時は無我夢中でわかんなかったけど、マリーの友達のゴキブリを踏んづけてしまってたんだな。
「そ、その、……ご、ごめん」
そりゃあ、怒る。いくらゴキブリっていってもマリーからすりゃ友達を傷つけられたんだ。
「…………によ」
余程怒っているのだろう。謝罪に対してのマリーの声色には、許容の色は全く含まれてはいなかった。だけど声が小さくて聞き取れない。
「え?」
「ごめんって何よーーーー!」
聞き返す俺に、マリーは弾けるような割れた声で叫びながら両手を前に突き出した。瞬間、マリーの両手の先は強く光り、そこから黄色いエネルギー弾みたいのが発射される。
「うわっ!」
咄嗟に避ける俺の顔のすぐ横を掠めたそのエネルギー弾はそのままマンションの壁にぶち当たりドーンという破裂音。恐る恐るその壁の方を見ると、その壁があった場所にはしっかりと穴が空いていて、そこからは街の景色が見えていた。
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