第2話「隠せられない人」

「ご協力感謝します。」

そういうと女性はこちらへと近づき俺の前でしゃがみ込み挨拶を始めた。

「改めまして、虹奈蘭舞です。よろしくね。」

俺はその時初めて女性の顔を認識した。

前髪は見たことの無いカラフルで虹のようなメッシュ。顔が良く見えるように水色の長い髪を耳にかけ、透き通るような薄い灰色の瞳でこちらをじっと見つめている。

外見的にまだ若い。恐らく20代前半の女性だ。

「…はい。」

俺は喉の奥から声を絞り出すように返事をした。

もう、言葉を発する元気も、気力も。そんなものはなかった。


「さぁ、部屋を出ようか。私はおしゃべりだから沢山話しかけるだろうけど、別に返事をしなくたって構わないよ。」

彼女が監視官に合図を送ると部屋のドアが開かれた。廊下をせっせと歩く彼女の背中を追うように歩き出した。冷たい大人の視線、張り詰めた空気感がチクチクと針が刺されるような感覚。


「君は人を信じるのが苦手だよね?あってる?」

「私の趣味はツーリングでさ〜愛車のバイクがあるんだけどデカくてかっこいいよ〜!」

「あ、喉乾いた!そこの自販機でコーヒー買わせて!」

監視官の人がいないからだろうか。彼女は先程の仕事人のような振る舞いからかけ離れた姿で無邪気に話し出した。よく言えばコミュ力高い系、悪く言えばノンデリ距離感バグり人間。

彼女への第一印象は正直最悪だ。

「綴くんコーヒー飲める?あ、お医者さんから止められてるんだった…えーっと、とりあえず水で。あ、オレンジ味あるじゃん!これにしよう!」

俺が返事をする間も無く、彼女はオレンジ味の水を買い差し出してきた。

喉が渇いているわけでは無かったが、後々面倒くさそうなのでとりあえずキャップを回す。

オレンジの香りが鼻を突く。

俺は水を、味がしない液体を飲み込んだ。


自分で言うのも変かもしれないが、俺はあの後から精神状態が良くなかった。

何を食べても、飲んでも味がしない。わからない。何をしても、そこにある感情は憎しみだけ。そしてその感情の後ろに


「会いたい。」

蘭舞の口がそう動く。


「......勝手に言わないでください。」

「ごめんね。でも、その小さな感情を表に出してあげたり、理解してあげる事は大切だと思うんだ。今の君には必要だよ。」

あぁ、この人には何もかもお見通しだ。

嘘も、本当も、俺の隠していたいもの、自分自身を騙したいもの、何もかもを。

この人には敵わない。俺はこの時から彼女をそう思うようになった。



《蘭舞side》

𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄


信条 綴

嘘を見抜く・真実にする力。

彼には現在精神的な問題あり。

恐らく味覚が感じられておらず、食欲も減っている。食事データはp17

元々彼は笑顔が多く明るい性格で―


「なるほど。彼は"こういう子"なんだ。」

彼のデータを見た時、私はそう感じた。


・恐らく、小さい頃から嘘まみれの世界を知っていた彼はどこかで無理をしていた可能性が高い。

→その為、誰かに甘える事をしたことが無い。(ご両親からの事情聴取で確認済み)

もしかしたら精神的な問題はこの前の事件より以前からあるのでは...?

・彼の幼なじみへの執着は正直異常とも捉えられる。それが傷つけられた今、彼は?

→恐らく憎しみの感情でいっぱいだろう。


彼と接触する時はもしかしたら子供扱いをしてあげた方が良いのかも。まぁ、いつもの感じでいいと思うけど。

もしかしたら...彼を新たな環境に連れていくことによって変化を見せるかも?


𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄

「彼をこの部署に連れてこようと思う。意義のある人は挙手!」

まだまだ人数の少ない私の部署。他にいる頼りになるメンバー2人に意見を求めてみる。

「え、新入り?どんな子?」

「...僕はどちらでも。」

きっとこの環境は彼に新たな道を作り出せるはずだ。

「にしてもどうしていきなり?その子まだ未成年だよね?」

「え...マジすか。それって色々どうなんですかね。」

「んー。バイトみたいな感覚なのかなぁ?」

「えぇ...」

彼気に入ってくれるだろうか。



「ようこそ、OZ警察所属能力管理課へ!」

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