第3話

四方から炎が迫ってくる。

逃げ道は無い。

俺は今から来る熱さに目を瞑り身構えた。


「ハルファス!」


背後から聞いたことのない声が聞こえる。

それと同時に床が少し揺れた。

驚いて目を開くと、自分の周りに壁ができていた。


「なんだ、これ?」


戸惑っていると、後ろの壁が壊れて誰かに引っ張られる。

振り返ると、葵が俺を引っ張っていた。


「あ、葵⁈」

「説明は後!すいちゃん!」

「分かってる!」


葵の後ろに見覚えのない女がいた。

毛先が薄緑のウェーブがかかった髪。

そして、右目が灰色で瞳の部分に大きなマークが描かれている。


「ハルファス、送って!」


その瞬間、視界が真っ白に染まった。

視界に色が戻ってくると、そこはさっき昼飯を食べていた食堂だった。


「…夢?」

「馬鹿なこと言ってないで、逃げるよ!」


葵に頭を引っ叩かれ、正気に戻る。


「そうだ、貴一はどうした?」

「もう逃した!」


その言葉を聞いて安心した。

急いであの化け物と女がいた方向とは別の方向に逃げる。


「てか、そこの子誰?」

「翠ちゃん!私の友達!」

「た、小鳥遊たかなし、翠、!」

「既に息切れてるなおい!」


とにかく走る。

大学内を走って走って走りまくる。

大学の出入り口が見えて来たが、ここでもまた幻覚、未来が見えた。

出入り口から炎がこっちに飛んでくる未来。


「横に散れ!」


こう叫ぶと同時に横に飛ぶ。

後ろの2人も少し驚きながら横に飛んだ。

すると、俺たちがいた所に炎が飛んでくる。


「え、魁斗なんで分かったの⁈」

「なんか未来見えた!」

「未来…もしかして契約者?」

「契約者って何?」

「私たちみたいな者のことよ。」


炎が飛んできた方向を見ると、あの女がいた。


「アンタ、粘着質だな…」

「えぇ、私狙った獲物は逃がさない主義なの。それにラッキーね。素質持ちだけじゃなくて、契約者が2人もついてくるなんて。」

「2人?」


俺は思わず後ろの2人を見る。

葵は驚き、小鳥遊と言う女はバレたかと言う顔をしていた。


「…何、お前らもあんな化け物連れてるの?」

「…うん、驚いた?怖い?」


葵はどこか悲しい顔をして俺を見る。


「いや、全く。」

「え?」

「まぁ驚きはしたが、怖くはない。てか、怖がる要素が無いし。」


そう言って、女の方に向き直る。

女は拳銃持ち。

あの化け物は松明を使って炎を操る。

こっちには…何がある?


「なぁ、2人って何ができる?」

「私は転送と建設、それと補充。」

「あ、ウチはちょっとした増援とデバフみたいなことはできるけど。」

「そうか。因みに俺は未来予知。」


転送と建設、さっきの場面から逃げれたのはこの力のお陰か?


「…その転送で逃げることは?」

「条件が揃わないから無理。」

「逃す訳ないでしょ。」


化け物が松明を振ると、出入り口と後ろの道に炎の壁ができた。

今回の炎は予知できなかったから、この力には何か法則があるのだろうか。


「…翠ちゃん、後10分耐えたらなんとかなりそう。」

「ん、分かった。」

「10分って、増援でも来るのか?」

「うん、さっき使い魔を送ったらリーダーがこっちに来てくれるって。あ、リーダーって言ってもサークルのリーダーじゃないよ!」


そのリーダーが誰かは分からないが、取り敢えず10分耐えれば良いらしい。

相手も聞こえたのか、急に攻撃をしてきた。

飛んでくる炎と銃弾を予知で避けたり、小鳥遊が出した壁に隠れてやり過ごす。

すると、小鳥遊が俺に何かを投げて来た。

それは黒く光る拳銃とマガジンだった。


「おま、これどこらか出した?!」

「補充の応用。」


これも能力の一種らしい。

貰ったからには、銃刀法なんて気にせず化け物狙って撃ち始める。

思ったよりも反動は少なく、連射も苦なくやれた。

化け物に数発当たったが、効いている様子は無い。


「魁斗、悪魔に現代兵器は効かないよ?」

「先に言えよ!」


悪魔とは恐らくあの化け物だろう。

ゲームやドラマの知識を基に、見様見真似でリロードをする。

撃つ準備が整うと同時に、女を狙って引き金を引く。

しかし、化け物と人では当たる範囲が小さいため外しまくる。


「こっちだよ!」


葵が化け物に向かって手を振ると、化け物の目線は葵に固定された。


「どうなってんだあれ?」

「葵の能力。デバフみたいなのできるって言ってたでしょ?」

「注意を逸らすってことか。」


直ぐにリロードをして女にまた撃ち込む。


「後何分だ?!」

「もう到着しても良い頃合い!」

「…チッ、これ以上の増援はキツそうね。」


女は指を鳴らすと、化け物に出入り口の炎を消させる。


「流石にキツくなって来たから逃げるわね。」

「は?おいこら!」


化け物の肩に乗ると、そのまま外に逃げ出していく。


「当たれ!」


逃げる背中に向けて全弾撃つ。

女に直接当たりはしなかったが、壁に当たった弾が跳弾となり、首を掠めていった。


「へぇ…やるわね。」


その言葉と同時に、予知を見た。

目の前の女ごと、ここにいる全員が炎の渦に巻き込まれる予知を。


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