第2話

「高岡くん遅いね。」

「そうだな。」


20分近く経っているが、一向に来る気配が無い。

あの女を呼びに行っただけの筈だが、男の方にボコられたか?

心配になり、電話をかけてみる。

すると、2コール目と意外と早く出た。


「貴一、お前今どこにいるんだ?」

「せ、先輩、助けてください…」

「助けて?てかなんでお前そんか声小さいんだよ?それに、なんかバチバチ鳴ってないか?」

「見つかったら2人に殺されるからですよ!マジで助け」


突如ブツッと、電話が切れる。

もう一度かけてみるが、繋がらない。


「高岡くんなんだって?」

「助けて、2人に殺されるって。それに、なんかバチバチって何かが燃えてる音がした。」


不思議に思っていると、放送が流れる。


〔火災発生、火災発生。〇〇室から火が出ています。皆さん、速やかに避難して下さい。これは訓練ではありません。速やかに避難して下さい。〕

「〇〇って、ウチらのサークル部屋じゃん!」

「もしかして、貴一そこにいるんじゃ…俺行ってくる!」

「ちょ、魁斗!」


走って部屋まで行く。

近付くにつれて、気温が上がり、煙っぽくなっていく。

部屋の前に着き、ドアノブに手をかける。


「あっつ!」


ドアノブは金属だったため高温になっており、鍵もかかっている。

仕方がないので、少し後ろに下がり扉を蹴る。

3回目で留め具から緩まった音が聞こえたので、渾身の一撃を打ち込む。

すると、扉は少しひしゃげながらも空いた。

中に入ると機材は全て燃え、煙が充満。

火で足場もなかった。


「貴一!何処だ⁈」


俺は部屋を見渡す。

そこに人の姿は無かった。

代わりに化け物がいた。

顔や体は人だが、猫と蛇の顔があり、額には星、そして大蛇に跨っている。

手には辺りの火と同じ色の炎を灯した松明がある。


「なんだ、コイツ…」


俺が呆気に取られていると横から何かが飛び出し、俺ごと部屋の外に出た。

よく見ると、探していた貴一だった。

顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。


「先輩!早く逃げましょう!」

「おま、一回落ち着け!」


貴一の頭を一回引っ叩くと、直ぐに立たせて食堂方面に逃げる。

手に松明を持っていたことから、あの化け物が火を付けたのだろうか。


「おい貴一!あの化け物なんだよ!」

「あの男ですよ!あの女の人誘ってたら男が急に燃え出して、あの化け物になったんですよ!」

「はぁ⁈ここは異世界じゃねぇんだぞ!」

「嘘じゃないっすよー!」


走りながら喋っていると、俺たちの頭が炎に包まれた…様な何かが見えた。


「っ!今のは一体?」


怖くなり後ろを振り向く。

すると、炎がレーザーの様に俺たちの頭目掛けて伸びてきた。


「伏せろ!」


俺は咄嗟に貴一に飛びついて炎を交わす。

伏せたままもう一度後ろを見ると、先程の化け物が追ってきているのが分かった。

このまま這いずりながら逃げようとする。


『…次は前から炎が来るぞ。』


誰かがそう囁く。

すると、次は前から炎が来て俺たちを燃やす幻覚を見る。

俺は貴一を右側の壁に押し出し、自分は左側の壁に転がって炎を回避する。


「貴一!食堂に逃げろ!」

「は、はい!」


貴一の声が聞こえると同時に走る足音も聞こえた為、俺も立ち上がり走り出す。

しかし、炎が天井を伝い、俺の前に火柱として立ち塞がる。


「クッソ、今度は俺が標的かよ。」

「貴方、思ったよりもしぶといのね。」


後ろから聞いたこと無い声が聞こえる。

振り返ると、化け物とその隣にはあの女がいた。

女は獲物を見つけた肉食獣の様な目をしていた。

俺はゲームで得た知識を基に虚勢を張り、相手の思う壺にならない様にする。


「…そいつがペットとは、悪趣味だな。」

「慣れれば可愛いわよ。」


女は化け物の頭を撫でながらそう答える。


「あのチャラ男君を狙って正解ね。」

「正解?その言い方とこの状況だと、狙いは俺ってこと?」

「えぇ、貴方は気に入られてるみたいだから、早めに潰しておきたかったのよ。」

「気に入られてる?」

「貴方、変な体験をしたことは無い?例えば、未来が見えたとか。」


未来が見えた。

さっきの炎が見えたのは、未来を見たからなのだろうか。

そう考えていると、今度は女が俺の右足を撃つ幻覚を見た。

俺はその場から飛び避ける。

すると、女は俺が立っていた所に拳銃の弾を打ち込んでいた。


「見えてるようね。」

「銃刀法どうなってんだよ…」


化け物に拳銃。

正直、虚勢を張るのにも限界だ。

今直ぐ逃げたいし、泣きたいし、漏らしそう。


「それじゃあアイム、お願い。」


化け物は松明を一振りする。

次に見えたのは俺が火だるまになる姿。

回避できる方法は、思いつかなかった。


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