第1話

目の前の大きな扉を壊す勢いで開ける。


「セーフ!」

「アウトだ黒瀬くろせ!」


部屋に入ると同時に先輩から怒りの言葉を貰う。

時計を見ると6分遅刻していた。


「いや、道が混んでて。」

「後ろの寝癖がまだ立ってるぞ。どうせ寝坊したんだろ。」

「ばれてーら。」

「さっさと作業しろ。」


先輩に急かされ、いつもの席に座る。

ここは俺が入ってるゲームサークルの部屋。

ゲームサークルといっても、ゲームをプレイするのではなく制作をしている。

俺は主にシナリオや世界観、キャラ設定など、物語の基礎を作ったりすることが多い。

前のリーダーがコネを使ってここの設備を整えたらしく、部屋にはかなりの数のパソコンやその他色々な機材が置いてある。


「昨日どこまでやったんだっけ?」

「3体目のボスの設定を決めたあたりっすね。」


声をかけてきたのは隣の席の後輩、高岡たかおか貴一きいち

明るく、人柄も良いがどこか犬っぽい陽キャ。

スポーツ万能だが、稀に見ぬ機械音痴で最近何故かスマホのデータ全削除したらしい。

それとかなりの女好き。


「このゲーム、後何体ボス追加するんすか?」

「中ボス等も含めると、22だな。」

「22⁈クソゲーかよ…」

「製作者がそれ言っちゃダメだろ。」

「お前ら、口より手を動かせ!」

「シナリオ考えてんだからいいだろクソ野郎!」

「そーだそーだ!」


先輩に口を出されたので、2人で罵声を浴びせる。

あの先輩はシナリオライターは物語考えるだけだから楽だよな〜と煽ってきたことがあるので絶対に許さない。

またあのムカつく顔面ぶん殴ってやる。


「ちょっと男子〜、ふざけないでくださ〜い。」

「中学女子かよあおい。」


この変な絡み方してくるのは正面の席に座っている柘川つげかわあおい

暗めの茶髪に青のインナーカラー。

派手な服装にピアスに指輪。

誰とでも話せる、所謂陰キャにも優しいギャルだ。

見た目とは裏腹に頭がよく、機械もめっぽう強いし、ノリもよい。

最近の悩みは近くに機械トラブルの権化がいることらしい。

一体誰のことやら。


「そんなこと言うならあの人黙らせてくださいよ〜。」

「え〜、ウチもアレ嫌いだし臭いから近づきたくない。」

「一応先輩だからアレはやめとけ。」

「臭いはいいんすね。」

「臭いのは事実だからいいだろ。」


そんな感じで無駄話をしながら作業をする。

基本的に俺と貴一、葵の3人で作業しており、サークル以外でも一緒にいることが多い。

4体目のボスを考えていると、このサークルのリーダーが手を叩きながら部屋に入ってくる。


「お前ら、今日は見学者がいるぞ。」


リーダーがそう言うと、後ろから2人入ってくる。

出るとこが出て、締まるとこが締まっている美女と、一見ヤクザかマフィアに見える筋骨隆々な男だ。


「…美人局か?」

「遊び慣れてそうだね。」

「お前ら失礼だな。」


臭い先輩からツッコミをもらう。

男の方は分からないが、女の方は確かに遊び慣れてそうだ。

貴一も女好きが炸裂して、女を舐め回す様に見ている。


「貴一?ダメだこりゃ。」

「高岡くん、節操ないね。」


いい奴ではあるんだが、下に正直すぎるな。

そう思いながら2人に目を向けると、女と目が合った。

少しニヤッとすると、すぐさま俺から目を離し、葵を見つめる。

貴一には目を向けないことから、興味のかけらもないことが分かる。

見学の為か、2人は俺たちとは反対側の位置で作業するリーダーたちの席に案内されていった。


「綺麗だな〜、あの人。」

「何、高岡くんの好みドストライク?」

「はい!」

「正直だね〜、魁斗は?」

「俺はゆーてだな。綺麗だとは思うが、好みではない。」

「ふ〜ん。」


そうだべっていると、昼を教えるチャイムがなった。

行きはコンビニに寄る時間が無かったので、食堂に行こう。


「食堂行ってくるわ。」

「あ、ウチも行く〜。」

「お供します!」

「奢らんぞ。」

「ケチ!彼女いない歴=年齢!」

「くたばれ。」


久々に言われたわ、そのイコールいじり。


「あ、さっきの女の人誘ってもいいですか?」

「えぇ、メンド…お前絶対あの男も付いてくるぞ。」

「大丈夫っすよ!先に行っててください!」


貴一は女を誘いに行った。


「…行くか。」

「ウチ、コロッケとパフェ食べたい!」

「だから奢らないって言ったよな?後食堂にパフェないだろ。」

「先週からあるよ。」

「マジで?」

「いちごとチョコとカフェオレ味。」

「じゃあカフェオレ味たのも。」


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