第20話 エコー

6月12日

タマのサイズはなんと11㎝を越え。もはやエイリアンの卵のような異物感を毎日感じているほどになっていた。今度こそ最後であってほしい。そう願いながら紹介状を握りしめる。

新しい病院へと足を運ぶと、昭和の時代くらいからありそうな重厚な建物が見えた。


経緯は全て書類に書いてあり、担当の医師が確認している間に尿検査を行う。

この辺りはすでに何度も行っていたため、慣れたものだった。

40分ほど待っていると、自分の番が回ってくる。

(あと何回、これを繰り返すんだろうな…)

正直、気が滅入っていた。

診察室に入り、担当の医師と軽く話す。


「陰嚢水腫……とのことですけどね。一旦触診をします」

「はい」

ガバァ!

「あ、まだカーテン引いてないので大丈夫ですよ」


もはやズボンを下すことに1ミリも躊躇がなくなっており。

触診というキーワードを聞くだけで、ベルトに手をかけるくらいには……反射で対応するようになっていた。


「なるほど、固いですね……うーん。痛みもないんですよね。……ちょっとエコーやりましょうか。隣の部屋に来てください。」

「エコーですか」

エコー調査というキーワードは聞いたことがあったが、実際にやるのは覚えている限り初めてだった。


隣の部屋に入ると、4畳ほどのスペースにベッドとゴテゴテとした機械が置いてあった。ズボンを下ろして待機していると、先生が椅子に腰をかける。

「緊張していると思うので、少しリラックスしましょうか。もう少ししたらエコー用のジェルを陰嚢に塗ります」

「ゴクリ……」

狭い部屋。ベッド。ズボンを下ろし。男が二人。局部にジェル。

何か起きないわけもなく……。

(いや、何を考えているんだ僕は……)

大変失礼ではあるのだが、シチュエーションだけ考えると、アレ系のお店だった。


ヒンヤリとするぬるぬるのジェルを塗られ、エコー器具が作動する。

残念ながら画面は確認できなかったが、結構長い時間念入りに調べられる。


「…………キツネさん。発症したのは4月でしたっけ?」

「そ、そうなりますね。自覚している限りは……」

「うーん……なるほど。水じゃないみたいなんですよね」

「……なるほど?」

となると、いったい何なのか。

僕のタマには、いったい何が潜んでいるというのか?

本当にエイリアンの卵でも入っているのではないか? そんなくだらない考えが浮かぶ。

3分ほどさらにエコーを行い、先生はティッシュを3枚ほど手に取った。

「終わりました。……これで、ジェルを拭いてください」

「あ、はい」

最後までアレの店っぽい流れだった。


明確な結果は、あらゆる角度から確認する必要がある。

その為予測で話すことはないらしく、その日はさらにレントゲン、MRI、血液検査、心電図を追加でとって終わりとなった。

お値段が万額を越え、軽く悲鳴を上げたのはいうまでもない。

ちなみにMRIの体験も人生初だったが、長くなりすぎるので割愛する。

色々と凄かったとだけ記載する。



―――そして、1週間後。


僕は再び診察を受けていた。

その日はやたら心臓がドキドキし、少し熱っぽい感じがしていた。

半面、タマの圧迫感はなぜか落ち着いており、かえって違和感を感じる。

外は小雨が降って入るが、不思議と過ごしやすかった。


病院に着くなり、早々に診察室に通されると、シリアスな顔をした先生が座っている。

前回の結果がついに出たのだろう。

「……キツネさん、大事なお話しがあります」

ドクンと、心臓がはねた。

「……診察の結果、であることが分かりました」







「…………………え?」

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