第2章 かくて睾丸の死を禁ズ

第18話 帰国


「本当ですか…?」

「ええ、残念ながら…」


今までの検査と、MRI検査をしようと言われた時点で、こうなることは半分自覚していた。

僕は、最悪のカードを引いた。

いや、引いたことにすら気づかなかった。


―――6月19日。運命は決まった。



話しは帰国した日に戻る。


2023年4月23日午前8時

とんでもない1週間を過ごして帰国した僕は、泥のような疲労感を纏いながらゲートを潜っていた。正直、どこでもドアが欲しかった。


上司Xとは互いに言葉も少なく、じゃ休み明けに…! と早々に分かれる。

電車に揺られ外に出ると、かなり寒いな…と体を震わせた。まだ4月ということもあってか、日本の気温は23℃くらいだった。

歩くたびに重みで揺れるタマを気にしつつも、寒いおかげで縮んでいるのか…存外歩きやすくなっていた。

2時間半、力を振り絞りながら家に着く。鞄を置き、わずか3秒で全裸になると、バスルームへ直行した。


「あ”あ”あ”あ”ーーーーーーーーー今最高に生き返ってるわーーーー!!!!」


少し熱めのシャワーを浴びながら、全身をくまなく洗う。

けだるげな頭のモヤも晴れて良き、脳がシャッキリとするのが感じられた。


(やっぱ軟水なんだよなぁ……)


やはり、生まれ育った水というのは魂に浸透する。

ゆっくりと上がった後、新品のシャツを着るとスマホを取り出し循環器内科の診療所を探す。

(循環器系の医者って、日曜日は大体休みなんだよな・・・)

残念なことに、住んでいる街で日曜日もやっている循環器系の医者は2件だけだった。が、この時点でたまの腫れ具合は結構なものだったため、あまり歩きたくなかった。

幸い、旅行バッグを持つ必要がなくなったので、自転車で行ける。今後のことを考えると、少しでも近い所にした方が良いと判断する。


これが間違いだった。



「あーうんうん本当だ。あー腫れてますねぇ」


開口一番、医者Bは玉を揉みしだくと実に率直な感想を告げる。


「たぶんねーうーん。ウイルスかなぁ。マレーシア? へぇずいぶん珍しいねぇ…こんな患者さんは初めてですよアハハハ! 流石に向こうの薬の種類はちょっとわからないなぁ…向こうで病気貰っちゃった?」

「いえ、多分時期的に考えて出国前にかかったんじゃないかって思いまして」

「へぇ・・・熱も引いたってことだし、じゃあ抗生物質出しておきますね。」


以上だった。


驚くくらい簡素で、かつ雑に抗生物質が処方される。

抗生物質と言っても、通常種類があるわけで、尿検査や血液検査もなしにわかるものだろうか? と、不安になる。

が、マレーシアの病院では抗生物質を飲み始めてから多少は改善したのだ。時間がかかるものなのだろう。そう思うしかなかった。


それはともかく、支払の際に保険証が出せることの安心感が凄かった。

薬代込みで3000円もいかないというのは、ここ最近の懐事情から考えるとありがたい。


帰りに住んでいる街で一番良くいくラーメン屋に入ると、僕は一番トッピングが多いスペシャルな豚骨ラーメンを頼んでいた。

行きつけのラーメン屋というのは魂に効く。それがちょっと肌寒い春の日であれば、うまさ三倍マシというものだろう。

もちろん、涙がにじむほどうまかった。



―――1週間後。


「あの、全然変わらないんですけど」

「そうかぁ…」


そうかぁ…ではない。こっちはマジで困っていた。

あれから1種間。6センチまで膨れ上がった左の玉は、未だ変わることなくその存在を主張していた。

何より困ったのは、右側の玉だ。

こう言っては何だが、元々玉というのは1つ3~4cmが平均サイズだ。

これが片方だけ倍になっているとしたら、当然正常な方が圧迫される。

タマの袋サイズは有限なのだ! また下がゆるいズボンでないと妙に当たって気持ち悪くなるし、座っていると内と外から圧迫されて長時間デスクワークができない。

日常生活に支障をきたす案件になっていたため、たまったもんじゃなかった。


「痛みがないんですよねぇ‥‥じゃあもう1週間経過観察しましょう」

「経過……つまり抗生物質を?」

「そうです。一応痛み止めのカロナールも出しておくので。ははは」


マジかよという気持ちになる。なぜヘラヘラ笑っているのだろうか。

こういうものなんだろうか?

不安と疑問が尽きない。


「えっとその……辛くなったりしたらどうしましょう?」

「あーうちね。ゴールデンウィークは休みなんでね。えっと、その場合は別の病院に行けば見てもらえると思いますよ!」


……あー。


「なるほど分かりましたありがとうございますさようなら」


流石にないな。という結論が出た。

無責任な医者もいるものだなぁと。

早々にもう一つの少し遠い医者の方へ行こう。

そう、決意した。

というか話すだけ無駄だな…と思った。


後日の視点から語ると、タマが腫れた場合。たとえウィルス性の腫れであった場合でも、普通は早々に尿検査か血液検査をするのが普通だ。ウィルスの種類に合った抗生物質を投与しなければいけないし、痛みがあった場合はさらにエコー調査をする必要がある。自分の診療所に施設がない場合、通常は適切な医者を紹介したり、紹介状や取次をするのが普通なので、あまりにもこの対応はサボり過ぎだろうという感想だ。


さておき、こうして僕は帰国して早々に、2つ目の病院へ行くことになったのである。

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