第17話 祭りの後
チャンギ国際空港は屈指のハブ空港だということは前に記載したが、裕福層が多い関係もあってか、ラウンジの数も多く、その規模とクオリティはかなりのものである。
その中で小~中規模のラウンジとして、JALが運営している
「ここですね。早速入りましょう」
上司Xに促されるまま、僕はえっちらおっちら後へ続く。
ちなみに、JALのプライオリティ・パスは年間34,100円だ。1回のラウンジ利用で最長3時間まで楽しむことができる。
「おお……」
中に入ると、とにかく設備がとにかくすごかった。
部屋が広く、ゆったりとしたソファーが数多くあり。すべてのテーブルにはワイヤレス受電スポットが完備。5Gつよつよ無料Wi-Fiもあり、まさにVIPルームと言わんばかりの佇まいだ。部屋全体はシックな黒を強調した気品が感じられる作りになっており、部屋の中央にはバーカウンターが設置されている。
なんと、バーカウンターでは自分でいくらでも酒を飲んで良く。ラム、ウィスキー、ジン、ウォッカなどベースとなるものから。炭酸やジュース関係も充実していた。好きに混ぜ、好きに飲め。ということなのだろう。
驚くべきことに、冷蔵庫の中には
全て、無料で飲み放題だった。
「え……なんか罠とかあります!?」
「そんな昭和のキャバクラじゃないので大丈夫ですよ」
「でもほら、追加の料金とか…あ、チップとか置かないといけないヤツだったりします!?」
「いいリアクションですねぇ……なしで大丈夫ですよ」
「3時間とはいえ、ラウンジってホントすごいですね……」
「本来のラウンジってこれが普通なんですけどね……」
さらに奥に行くと、色とりどりのバイキングルームがあった。
米、カレー、サテー(マレーシア風ヤキトリ)、焼き立てのパン、フルーツ、生チョコレート、各種チーズ盛り合わせ、サラダ、中華などなど……正直、ちょっとした高級ホテルのランチルームと全く変わらない充実さだった。
これも、食べ放題だ。
「噓でしょ……」
トイレの近くにはシャワールームも完備しており。水質の良いシャワーを無料で使うことができる。旅の疲れを癒す場としては、もう文句のつけようがないほど最高の空間だった。これでシンガポール空港のなかでは小規模のラウンジだというのだから、トップクラスはどんなに凄いのだ……と震える。
ちなみに、シンガポール空港で最高級ラウンジとして有名なのは「ザ・プライベートルーム」だ。ファーストクラス限定で、大理石の部屋で高級シャンパンやロブスターのフルコースなどが楽しめるらしい。この辺りはレベルがおかしいので調べてみると面白いと思う。
「しんがぽーる……すごい!!」
「キツネさん、この出張で一番感動していませんか?」
図星だった。
正直、飲みまくりたかったが、タマと薬の関係もあるので、せめて一杯だけ…とタイガービールを手に取る。チーズやサテーなどこれでもかと皿に盛り合わせ、乾杯もそこそこに胃に詰め込む。
ビールを喉に入れた瞬間、ドッと力が抜けた。正直、色々としんどかった。
上司も連日連夜休む暇がなかったのか、疲労困憊と言った感じでぐったりする。
その後交代でシャワーを浴び、すっきりした状態でフライトへと備えた。
*
帰りの機内は、初日よりも快適だった。
薬を飲んでいるという安心感もあるが、何より良かったのはほとんど人がいない点に尽きる。
3席一組で設置されているシートは、なんとほとんどが1名しか座っていないくらいのガラガラ感だったのだ。
(なるほど……ラッシュ時でなければこんなものか)
おかげでシートベルトさえしていれば、3つのシートに行儀悪く横になることもでき、ほとんどの搭乗客が同じように寝始める。
日本からシンガポールの場合、ジェット気流に乗れるため6時間半で済むが、逆にシンガポールから日本へは8時間ほどかかる。つまり、ぐっすり寝て起きてもお釣りが来るくらいには暇を持て余すのだ。照明も落とされ、窓から見える景色も黒一色。特に面白みもなく、聞こえるのは乗客の寝声とジェットエンジンの音ぐらいである。
(…………寝るか)
股間に手を触れると、やはり大きいままの
調子は悪いが、それでも帰国できることを喜んでいるのだろう。びっくりするくらい、自己主張が治まっている。
恐らく、隣に客がおらず。騒ぎ立てるテキサス系の男もいないおかげでもあるのだろう。
日本に帰れる。それだけで心が弾んだ。
(酷い出張だったが、得るものもあったかな……今度来るときはもう少し楽しめるように努力したいところだが……まぁそれも、帰国して病院に行って……仕事が落ち付いたら考えることにしようか……)
僕は、寝た。
夢を見る暇もないぐらいに、ぐったりと横たわりながら。
*
最も、これは序章にすぎない。
本当に大変になったのは、むしろこの先。
辛く厳しい出来事の連続は、日本に帰国した後の方が凄かった。
次回、第2章『かくて睾丸の死を禁ズ』
―――僕たちの、別れの物語が始まる。
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