第16話 シンガポールチャンギ空港
せっかく最後なら、せめて観光客っぽいことをしようじゃないか。
そう思い、シンガポールチャンギ空港のすぐ傍に直通している複合商業施設「ジュエル チャンギ エアポート」に来た。
ドーナツ状に様々な施設が揃っており、その中心には屋内庭園が設置されている。
起筆すべきは、その屋内庭園の中心にある高さ 40 m の人工滝だ。それもただの滝ではない。超巨大な人工滝だ。
(気になる人はぜひ「レイン・ボルテックス」とYoutubeなどで検索してみて欲しい)
「マイナスイオンむっちゃ出てるわぁ……」
多分、今回の出張で2番目に癒された瞬間かもしれない。
なお1番目は滞在3日目に出会った野良猫との戯れだったが、ここではその思い出は割愛する。
さておき、何もかもが綺麗だった。
物価は高く、日本の約1.5倍~2倍の値段設定になっており、日本では割とポピュラーな特上カツどんが3600円。…かなりお高めである。
場所代というのもあるのだろう。こればかりは仕方がない。
シンガポールでも、日本食はかなり人気ジャンルだ。
古今東西あらゆる物品が通過すると言われているこのシンガポールだが、その中でも「日本食」というのは一定の裕福層に大人気であり、特に「お好み焼き」「居酒屋」「カツ」「和牛」「天ぷら」「高級寿司」「割烹風和食」「焼き鳥」「(日本の)ラーメン」などなど。もうみんなが知っている日本食は大体シンガポールにもある。
というか、日本でもちょっと高めのショッピングモールの最上階にある、1000円以上かかるちょっとリッチな飲食店エリアがあると思うが、もうまんまその外観と内装が同じ感じだった。
もちろんマレーシアと同じく、「ユニクロ」「GU」「無印食品」などなど、いつもの雑貨店も多く存在し、道行く人の格好も明るい色を好む人が多い。
横浜のみなとみらいか、お台場に来たような錯覚が起こる。
そして何より。施設にはかなりの数の給水スポットが設置されていた。
液や市役所や体育館に行ったときに見かける、あの給水機だ。
しかも、直接飲んでも大丈夫なくらい綺麗であり、軟水に近い飲み心地である。
トイレは逐一スタッフに清掃され、常に綺麗。
水洗式の日本と同じ…というより日本のTOTO製トイレで完備されており、トイレ前には案内用の電光掲示板とタッチパネル式のFAQもある。
しかも、5GWi-Fiが無料だった
正直、病気さえなければここで5日間過ごしたかった。
初めての海外で、ちょっと遠い旅行へ行きたい人は、間違いなくシンガポールをおすすめする。
(物価は高いけど……物価は高いけど!!!)
しかし、残念ながらショッピングを堪能するにも、僕の懐事情は少々心許なかった。
というのもリンギットはまだ少しあったが、シンガポールの場合はシンガポールドルしか利用できない。クレジットカードという手も(JCBが使える!)あったが、物価が高すぎたので、もう日本でいいやという気になっていたのである。
そもそも、旅行バッグにも空きがあまりなかった。仕方がないのでこれも資料と思いつつ写真を多く撮影する。
40分ほど歩いたり休んだりを繰り返し、もういいかと入港ゲート近くへ移動する。
運よく電源を無料で借りられるスペースで一人分確保でき、実に優雅にTwitterをたしなむ。
(やってること、日本と変わらないなこれ)
「我ながらもったいないことをしているのでは?」と思ってしまう。
その後、上司Xと合流し、ドッと来た疲労感をバーガーキングで癒す。
ボロボロになったいかにもファーストフード店という感じの硬めの椅子に座り、1パインドのコーラを啜る。
「疲れましたね」
「疲れましたねぇ…」
その後はほとんど無言である。
*
マレーシアは11時に出たというのに、フライト時間は22時だ。
これは上司Xの経験則だが、マレーシアでもしものアクシデントがあった場合でも対処できるようにという、彼なりの計画だった。
(それはやっぱり1日単位で余白がないと対処できないってことでは?)
ニヒルな笑いが出てしまう。
やはり、ここでもマレーシア式なのだ。
19時を過ぎてチェックインを済ませ、簡単な検査と手続きをして空港内へ入る。
照明が落ち、ややシックな雰囲気になったチャンギ空港は、横に恋人でもいればいい雰囲気になること間違いなしのシチュエーションだった。
まぁ、もっとも。隣にいるのは40を超えた上司Xなのだが。
「で、ですね。今回も色々と疲れ果てたので。ラウンジへ行こうと思うんですよ」
「おお……」
思い出すのは日本の時のKALラウンジ。あれは…正直に言おう。微妙だった。
あの時はまだ玉腫れのストレスでいっぱいいっぱいだったが、今回ばかりはOh…と悩ましい声が漏れる。
とはいえ
「あ、キツネさん。その顔はKALを思い出してますね?」
どうやら顔に出ていたらしい。バレバレだった。
「で、あれば驚くと思いますよ。間違いなく最高の場所です」
「最高の場所……?」
「ついでに、そこで夕飯にしましょう。本当のラウンジが体験できますよ」
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