第13話 病院②
2023年4月19日午前11時
そして、ついに
物語はプロローグの状況へと戻る。
(回想に時間がかかったが、リアルタイムで執筆している7月末日現在。ぶっちゃけ執筆どころではない状態に陥っていたため、ご了承願いたい。)
さておき、僕はようやく病院へと到達した。
ふるえる足を隠すように。大げさに座り直したり体を揺らす。
「大丈夫 大丈夫...」
呪文のように心の中で呟く。いや、実際声に出ていたかもしれない。
とにかく余裕は限界突破をしており、診察を待つ時間が体感100倍といった感じだった。
手汗が酷いのは、多分暑いせいだけじゃないだろう。
なんせこの病院、わりとクーラーが利いて快適だし…。
部屋の奥からは、「GYAAAAAA」と若い男の切ない悲鳴が定期的に聞こえ、右には病院内にもかかわらず、スマホでガンガン音楽を鳴らして待っている男が一人。
通路には検診に来たであろう子供がキャッキャ走り回り、日本では考えられないような阿鼻叫喚とした世界が広がっていた。
「というかあの切なそうな悲鳴はマジでなんなんだよ」
ツッコミどころが凄かった。
約5分おきに発せられる切ない悲鳴は、聞く感じ成人男性でまだ若いっぽい感じだ。
「ウアアアアア……アッ……(すすり泣く声)」
ワッ…泣いちゃった…。
まさかここは海外ドラマであるような、野戦病院みたいな診察をされるんじゃないのか? 止まらない心拍数は180BPMを越えていると思う。音ゲーでも難易度が高い曲が刻めそうな感じだ。
しかし、隣で付き添ってくれているKの顔を見ると、ゆっくりと首を振った。
「あ、これ。マレーシアのデフォじゃないんですね」
ちょっと安心した。これがマレーシア式の町医者なのかと思ってしまった。
*
マレーシアの病院は、思った以上に綺麗だった。
内装は日本とそう変わらない、白を中心とした建物で、椅子の硬さやインテリアなども見覚えのある形だ。
受付の女性スタッフだけはイスラム教の方っぽく、フード(ブルカというらしい)で顔を覆っており、忙しそうに行き来している。
するとKが受付へ行き、色々と話していた。
聞き取れる範囲で翻訳すると、どうやら僕の診察について、手続きはどうすればいいのか。パスポートで大丈夫か?などの話をしてくれているようだった。
ひとしきり話すと、「キツネさーん、ダイジョウブ!問題ナカッタヨ!」とあえて日本語で話してくれる。
やっぱ女神だこの人。
僕は心底感謝した。
「どれくらいかかりそうですかね?」
「もうすぐみたいですよ。10分かからないって」
「それは嬉しい…」
待ち時間の間、声を抑えめにしながら、僕らは他愛のない話を翻訳ツールで話し合った。
「ここ、日本の福島の方が立てた病院なんですよ」
「えっ!? 福島!?」
受付の中を見たら、マジで創設者が福島出身の人だった。
協力した人々の名前がずらりと書かれたプレートが飾ってあり、○○大学の誰々さんと並んでいる。
日本とマレーシアって、結構密接な関係なのかな…?
これは意外だった。
聞くところによると、このジョホールバルでも日本語対応ができる病院が2つもあり。クアラルンプールの方まで行けば、15件以上日本語対応ができる病院があるのだという。
「ミスター・・・ミスターキツネ?」
僕の名前が呼ばれた。ついにその時が来たのである。
*
部屋に入ると、初老の男性がどっかりを椅子に座っていた。
あまり慣れていなさそうな手つきでPCをいじりつつ、僕のカルテらしきものを用意し始める。
「What happened today?」
「あ、日本語で…OK?」
「ああ、日本の方なんでしたっけね?」
「え、あ、はい。日本人です。昨日こちらの国に来まして」
「で、すぐ
「お恥ずかしながら、昨日左の睾丸が機内中に腫れまして。どんどん「GYAAAAAA」大きくなってきたんですよ」
「まずは触診から行きましょうか」
案外、普通の日本の診察と何一つ変わらなかった。
あの震えや不安は何だったのか?
もしかしたら、いつの間にか僕は日本に帰ってきたのだろうか?
妙な錯覚に陥る。
ズボンを下ろし、先生に割と容赦なくマタをモミモミされる。
男性諸君であればわかると思うが、これはかなり辛いのだ。
(ウウ…)
「少し硬いね」
「ですよね」
「膨れていて右よりも熱さを感じる…なるほど」
もういいよ、と言われる。
カーテンの裏に控えていたスタッフに声をかけると、聞いたことのない言葉で何かを指示する。恐らく治療の方針が決まったのだろう。
何というか、手慣れた感じで早かった。
「熱があるのでウィルスだと思います。菌が繁殖していると思うので。今日は抗生物質を打ちましょう。解熱と抗菌。4種類ほど薬を出します。5日分飲んでもらって、飲み切ったらまた来てください。」
「あ、すいません。丁度その日には日本に帰国する予定でして」
「あれ? そうなんだ。じゃあ薬はそのまま飲み切ってもらって、帰ったらすぐに「GYAAAAAA」日本の病院に行くようにしてください。あと汗いっぱいかくので水だけはしっかり飲んでね」
「ありがとうございます!」
こうして、抗生物質の入った注射を打ってもらい。構えていた割にはあっさりと終わった。
*
「GYAAAAAA」
ドア越しの例の隣の部屋がうるせぇ!
そして、気になるのは次のステップ。
そう、お値段である。
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