第22話 CT(1)
先週はMRIだったが、今回はCTスキャンである。
どっちも、人体構造を輪切りで調査し、腫瘍があるかどうかや、体の詳細を調べていく器具だが、CTスキャンも映画や海外ドラマぐらいでしか見たことがなかったので、やたらテンションが上がっていた。
恐らく、癌通告で上がりに上がったアドレナリンが、精神を高揚させていたのだと思う。
診察表を持って地下に行くと、前回MRIを担当してくれた若いスタッフが、さわやかな笑顔で迎えてくれた。
「あ、キツネさん…!」
「お世話になります、今回はCTとレントゲンで…」
「はい、存じています…お辛いですよね…」
「あ、いえ!敵がわかったので逆にすっきりしました!」
「てき……すっきり……なるほど!」
思い返すと、やはり僕のような反応は珍しいようだ。
普通に申告されて数分しかたっていない場合、みんな暗い顔をするものだろう。
が、個人的にはやはりタスク処理なのだ。
問題が起きた! どう解決する? 何をすれば良い? いつまでに? 終わったらどうなる?
みたいな、5W1Hのような思考だ。
というか、メニエールやコロナウイルスで倒れたときよりかは、まだ体が動く状態なのだ。
動けるなら、動け。考えられるなら、考えろ。感情で立ち止まる前に、タスクを終わらせて安心するようになれ。
そういった考え方を、僕は良く日常生活でしていた。
病気になるのは、誰にでもある。
そして、癌なんてものは、誰でもなる可能性がある病気なのだ。
癌になりにくいように対処するという心がけはできても、癌になる時はなるなるものなのだ。
こう考えると、やれることが明確化していたので、かえって分かりやすい。
問題なのはプロジェクトがとん挫すること。つまり、治療費問題や対処のしようがない状態に陥ることだ。
「というか、ご存じだったんですね」
「ええ、その…MRIでモニターはして、逐一カルテに状況を書きますので」
なるほど、と思った。
後々教えてもらったが、こういった情報はナイーブなうえに、あくまでモニタリング中は予測としてカルテ記載してから、先生が後日判断するもののようだ。
なので、前もって患者には伝えられないとのことだ。(そりゃそうか)
※もしこのエッセイを読んで、似たような状況におちいった方がいたら、どうか根掘り葉掘り聞かず、診断を待つようにしていただきたい。
「というわけでキツネさん。今日は色々と大変ですが、もうちょっとお付き合いください」
「全然オッケーですよ」
まだ二回しか話していないというのに、僕はこのスタッフさんにかなりの信頼をおいていた。
色々な病院や医者に関わってきたが、その場の雰囲気を汲んで患者を安心させる空気を作り出せる人は、本当に貴重だ。
そして間違いなくこの人は良い医者になるな…と、確信する。
その後、胸部を含めた通常のレントゲン、睾丸周辺のレントゲン、横向きのレントゲンを撮り。
いよいよCTスキャン室へと入る。
扉に大きく、核のあのマークがついており、物々しい雰囲気を感じる。
扉を開くと、MRIと似たドーナツ型の機械がどっしりと設置されていた。
「おお、こっちも大きいですね」
「でしょう!? これ、実はCT機の中でも最新のモデルなんですよ!!」
やはり、器具の話をすると、このスタッフさんもテンションが上がるようだ。
残念ながら録音などはしていなかった為に内容のほとんどが流れてしまったが、とにかく自分の取り扱っている器具が凄いかを、熱意が籠った感じで解説してくれる。やはり、このお兄さんは、
純粋にこれ系の医療器具が大好きなんだろうな…と思う。
さておき、機械に横たわり、僕は固定されていく。
今回も当然、動いてはいけない。
MRIは開始から30分ほどかかったが、今回は3セット×2回を終わらせれば終了ということだった。
「まず、キツネさんの素の状態を確認する為に、そのままスキャンします」
「素の状態ですか」
「CTスキャンはつまるところ、輪切りで撮影するレントゲンなんです。その為、スキャン中は肺に空気をためた状態と、抜いた状態で1枚ずつ取る感じです」
なるほど、通常のレントゲンとやることは同じか。
だが、ふと疑問が生じる。
「ちなみにどれくらい息を止めるんですか?」
「………………キツネさんは、潜水とか得意でしょうか?」
「あ、あー…普通だと思いますね」
「33秒ほど、息を吐いた状態で止めていただきます」
「……33秒」
固定された状態で…息を吐いた後に33秒。
……まぁ、多分いけるでしょ。
そう、感じるくらいには、判断に困る絶妙な秒数だった。
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