第11話 悪夢
それは爆発とも言えた。
解熱鎮痛剤と睡眠薬を使用しているにもかかわらず、高熱による大量の発汗。震え。
意識は浮上しては消え、自分の唸り声が部屋に響いてから自覚するような
視界はぼやけ、心臓の鼓動よりも呼吸音のほうが耳に響く。
頭の中に断片的に浮かぶのは、明日のこと。仕事のこと。帰国のこと。そして家族のことだった。
走馬灯かよと思われるかもしれないが、その時は正気ではなかった。
自覚するだけで3回目くらいの目覚めを意識したとき、2ℓの水が入ったペットボトルがほとんど残っていなかったことを覚えている。
朦朧としている中でも、水分だけは取ろうと努力したらしい。
らしいというのは、記憶がここでも朧気で覚えていない為である。
精神的にも限界だったのだろう。
僕は悪夢を見た。
内容は覚えていないが、とにかく押しつぶされ、消えていく夢だった気がする。
それは俗っぽい表現をするのなら、死のイメージだった。
◆
2023年4月19日 8時00分
目が覚めて、最初に感じたのは、まだ生きているという安心感だった。
身体は鉛のように重く、思考もおぼろげだったが、まだ行動できると安心する。
汗の不快感はすごかったが、熱は落ち着きを取り戻していた。
僕はすぐに、上司に連絡した。
まだ寝ているであろう上司をたたき起こすために、通話ボタンを連打した。3回目のトライでようやく通話がつながる。
「h…はい!Xで……す!」
「本当に申し訳ないです……キツネです……ダメでした」
「……あー!お世話になっております!(!?)そうですか!あー!少々お待ちください!!」
上司は寝ぼけていた。
本当にスマンと思った。
「すいませんキツネさん、寝ぼけていました……」
「いえ、ごめんなさい。僕の方もこんな朝早くに…それで、昨晩高熱も出てしまいまして…」
「わかりました。昨日の時点でCEOの『J』にキツネさんのことは伝えていますので、すぐ連絡します」
「本当に助かります」
「いえいえ、私も昔似たような問題で苦しんだ経験があるので…彼が迎えに来るまで、安静にしてください」
もう、四の五の言ってる暇はなかった。
医者に行ける。その事実だけで僕は少し安心していた。
そしてこうも思った。
(金とかもう考えるのは後にしよう。最悪会社とかに借金しようが、帰国が長引いてしまおうが、もう知ったことじゃない。パスポートと飯があれば、あとはどうにでもなる)
マレーシアに来て2日目。
仕事をしに来たはずなのに、なぜか悟りを開いている僕がいた。
◆
少しでも清潔にしておこうと、気合でシャワーを浴び。
身支度だけは何とかして連絡を待つこと数時間。
マレーシア側の技術統括兼CEOの通常『J』から急に日本語で連絡が来た。
「大丈夫ですか? マッサージは必要ですか?」
…………?
多分、自動翻訳だったのかもしれない。または、普段から腰を悪くしている僕に、マレーシア式のマッサージが必要かどうか、気をきかせてくれたのかもしれない。
だから、僕はDeepl翻訳を駆使して、正直に返答する。
「実は、
「OMG(涙)」
本当に、おお神よ…と叫びたくなる状態だった。
僕は続けて詳細を書き込む。
「
まさかこん
「
「YES」
イエスと答えよ。されば救われん。
そんな無駄なコピーが思い浮かぶ。
ちなみにこのJとの会話の内容は、一字一句実際に話した内容を記載している。
伝わるものである。
数分チャットで会話すると、Jは親身に状況を聞いてくれ、病院を提案してくれた。
お金の方も、そんなにひどい料金は頼まれることはないから大丈夫さ!OKOKというニュアンスで心強い返答が来る。数分後スタッフをつけてくれ、迎えに行くとのことだった。
正直、神かよと思った。
神はマレーシアにいたのだ。
◆
そして30分後、再度Jから連絡が来る。
「ごめんキツネさん。キツネさんを病院に送るのをお願いしようと思っていたスタッフなんですが、彼は車を持っていないので迎えに行けない状態です」
再び、僕に試練がやってきた。
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