第八話 あの子を守れ!
アイスケは走った。息せき切って走った。くたびれた体に鞭を打って走った。足の痛みが麻痺するくらい走り続けた。
『ちょっと、どこ行くのアイスケ!』
『あめんぼっていう駄菓子屋! そこにあの子が一人でいるかもしれない! 早くこの翡翠を返さなきゃ!』
『一人で行くつもり?』
『ラム兄ちゃんは仕事中だからいいよ! 一応みんなには連絡しといて! じゃあ行くからっ!!』
『アイスケ!!』
兄の声にも振り返らず、駆け出した。学園を出て、坂を上って、商店街の通りを走る。
「うわっ!」
ちょうどスーパーの半額セールが始まる頃で、主婦たちの群れに押し潰されそうになり、しゃがんで足の隙間から脱出した。
「ぎゃあっ!」
魚屋の生きたエビが跳ねてきて、ジャンプしながら回避し、バレリーナのように一回転してから走った。
「わぁっ! すみませんっ」
クーポン配りの女性にぶつかり、ひらひらと舞い散る紙切れも無視して走った。
スプレーで落書きされた古い看板が見えてきた。あそこの角を左に曲がってまっすぐ行けば、駄菓子屋あめんぼがある。
もしかしたら、もうあの子は世話係に保護され、安全な場所にいるかもしれない。あの階段側の出会いから、もう三時間以上は経っている。駄菓子屋に行こうが、行くまいが、これほどの時間の中、世話係が少女一人を見つけることは難しくもないはずだ。
彼女自身も逃げ出すことはいつものことと言っていた。つまり、見つかることもいつものこと、のはずだ。
だけど、ほんの一%でも、最悪の可能性があったとしたら?
絶対に、見過ごすわけにはいかない。
依頼でなくても、一人の女の子に危機が迫っていることを知っておきながら、見過ごすなんてヒーロー失格だ。
「頼む………! 間に合ってくれ!!」
翡翠をギュッと握りしめて、看板の角を曲がった。
駄菓子屋あめんぼの看板が見えた。幼稚園の頃からよく行っていた店だ。百年以上の歴史を持つ老舗で、店主一人で営業している。
見えた。小太りのおっちゃん。あの人だ。
「!」
そのおっちゃんの前にいる亜麻色の髪の女の子。
間違いない。あの子だ。
「ハァ、ハァ、ハァ…………見つけた!」
女の子が振り返る。目を大きく見開いて驚愕したような顔していた。
「あなたは…………!」
「ずっと、探してたよ………無事でよかった」
息が切れそうなので、大きく酸素を吸い込んで、必死に呼吸を整える。
階段側で会った時と、何も変わっていない。女の子の白い肌には傷一つついていなくて、とても元気そうだ。間に合った。無理してでも走った甲斐があったみたいだ。
「………もしかして………私を助けに?」
女の子は目をぱちぱちと瞬きさせた。
「そうだよ、きみを助けにきた」
「あ、ありがとうございます!」
「いいから。それより返さなきゃいけないものが………」
「こちらのおじさんを説得してください!!」
「はぁ………?」
アイスケはぐにゃりと眉間にシワを寄せた。
う~っ! と、女の子の今にも泣き出しそうな幼子のような顔。
おっちゃんの重いため息。
ものすごく、面倒くさい予感がする。
「店の商品全部くださいって言ってるのに、これだと買えないっていうんです!!」
女の子が差し出したのは、黒く光る一枚のカード。
それは、選ばれた人間しか入手できない、クレジットカードの最高峰。
こんな小さな女の子が当たり前のように手に持っていることに、少し違和感がするが、それほど、彼女が只者でははないということがよく伝わってくる。
「うちは現金しか使えないからねぇ………そんな黒いカード出されたの初めてでおじさんもイマイチ反応に困ってるよ」
「カードもお金です! たくさん道に迷って、やっと辿り着いたところなのに! 飴玉一つも買えないなんて!! これが世間の荒波というものですか………」
「ちょっと違うんじゃないかなぁ………」
「ううううううっ! 分かりました! ではこのお店の権利を一千万で買い取ります!!」
「なななななっ、何だって!?」
「そうしたらこのカラフルなチョコレートや、音の出るラムネ、風船が作れるガム、毎日みーんなに囲まれて幸せいっぱいですぅ~」
「やめてくれぇぇっ! うちの先祖代々百年続く伝統を絶対権力を使って潰そうって言うのかぁっ!! なんて恐ろしい子なんだぁああああっ!」
ダメだ。ツッコみたいけど、今日一日あらゆる狂人にツッコみまくっていたせいで、精も根も尽き果ててしまっている。
スマートウォッチから「脈が速いです。深呼吸をしてください」の通知まで来ているし。
時計画面に切り替わると、午後五時二十分。家を出てから、四時間以上も経ったようだ。家を出てすぐこの子に会ったから、あの出会いからももう四時間。
その間、ずっとこの子が一人だったことに疑問が湧いた。
「ねぇ、もしかしてきみ、携帯とか持ってないの?」
「いえ、あります」
女の子は小さなポシェットからスマホを取り出した。超広角レンズのついた最新の機種だ。
「でも、あなたがGPSを使って血眼になって探しに来るって教えてくださったので、電源を切りました!」
「余計なこと教えちまったああああああああっ!」
「おかげで自由時間最高記録を更新しました! ありがとうごさいます!」
「どんだけ一人になりたいんだ!! 反抗期かっ!!」
女の子のにっこり笑顔は、相変わらず無自覚に煽ってくるけど、自分はこの笑顔を見るためにここまで走ってきたのだなぁ、と改めて実感できた。
「きみさ、翡翠のネックレス、つけてなかった?」
「翡翠……………ああっ!! ない!!」
「今気付いたのかよ………」
どれほど夢中になって自由時間を満喫していたのか。
アイスケは力なく笑って、ポケットから翡翠のネックレスをつかみ取り────
「え………」
目を瞠った。
美しかった薄緑色の翡翠が、黒ずんでいたのだ。泥沼のように濁った色と化して、透明感はおろか、一閃の光も失っている。
「なに、これ………?」
放心状態の自分とは反対に、女の子の方は意外にも落ち着いている。翡翠を観察するようにまじまじと凝視していた。
「これは……………聖魔力が、瘴気に蝕まれています」
「そ、そんなことって! むしろ瘴気を浄化するものだろ!」
「そうです。でもあくまで魔除けなので、例外もあるとパパが言っていました………」
「れ、例外って?」
「例えば、強力な瘴気…………天性血統の悪魔が触れたとしたら、おそらく勝てません。力を失います」
ギクリ、と背筋に氷を当てられたように身震いした。
あの時。
兄は苦い顔をしていたが、無意識に聖魔力を打ち消すほどの瘴気を放っていたとしたら。
あの時から、翡翠の力は蝕まれていた。
つまり、これは今何の効果ももたらしていない単なる飾り物。
「で、でもおかしいですよね。天性血統の悪魔なんて、この人界にいるはずが………!」
大地が左右に揺れる。
コロンコロンと、飴玉が床に跳ねて散らばる。
棚が前に倒れ、看板が斜めを向いて落下した。
「じ、地震か………!?」
揺れは波のように激しくなる。
アスファルトの地面に、ピリッと蜘蛛の巣のような形のひび割れができた。
ピリッ、ピリッ、と、卵の殻が割れるような音がして、割れ目が裂ける。
刹那、地中から真っ黒い巨体が荒々しく突き出た。
「うあぁッ!」
地面が飛散し、痛みと共に視界が回る。アスファルトの上で空き缶のように転げ回り、さらに重く柔らかい人肌がぎゅぎゅっ! と密着した。
「いでぇ~~~!」
「す、すみません!」
「ごごごめんねっ!」
女の子とおっちゃんのクッション代わりになったみたいで、またデジャヴ。
だが目を見開くと、痛みを忘れるくらい現実を疑った。
黒い、禍々しい、全身に紅い目玉を嵌め込ませた、首のない巨獣が、こちらを見下ろしていた。
「なん、だ、こいつ…………」
ギョロギョロと焦点の合ってない無数の目玉。
見入られたら、世界の終わりかと思うくらいの恐怖。
「いやああああああああああっ!!」
「あ、あ、悪魔だああああああああっ!!」
男女の悲鳴が響き渡る。
その声の方へ向くと、商店街の通路口に黒い犬が群れていた。
大型犬よりも一回り大きい、燃えるような紅い目。
「あ、あれは………ヘルハウンド!」
女の子の声は微小に震えていた。
そう、犬なんかじゃない、この巨体も含めて、ここにいるのは瘴気を撒き散らす獣型の悪魔、魔獣。
人や、悪魔でさえも食らう害獣だ。
どうやら、翡翠の効果は発揮されないまま、最悪の可能性に直面してしまったようだ。
「ガルルルッ!」
長い舌から唾液を飛ばしながら唸ると、ヘルハウンドの視線はこちらにロックオンされる。
「ひっ!」
群れは津波の如く勢いで襲いかかった。
「ほら! これあげるからあっち行って!」
駄菓子屋のおっちゃんが、開封したビーフジャーキーを遠くへと投げた。
すると先頭のヘルハウンドがジャンプして、飛んでくるフリスビーをキャッチする犬のように口に咥えて、噛み砕いた。
肉を飲み込んだヘルハウンドは勢いを増して襲い来る。
「いやむしろ攻撃力アップした感じなんですけど!?」
「ごごごめん!」
標的とされた三人はがむしゃらに駆け出した。
巨獣の影の中、どこへ逃げたら正解なんて分からない。ただ背後から来る怒涛のような群れから無我夢中に逃げた。
「っ!」
巨獣は大足を振り上げたかと思うと、こちらに振り下ろすことはなく、商店街の離れの方へと方向転換した。
(逃げた………?)
「うわぁっ!」
「おっちゃん!!」
「おじさん!!」
おっちゃんが派手にすっ転ぶ。
二人が急いで支えようとするが、足を捻らせたみたいで、起き上がれないようだ。小さな少年少女が持ち上げられるほどの力量はない。
「!」
牙を向けて飛びかかるヘルハウンドの群れが、口の中の血色がはっきり見えるほど目前に迫った。
「ウィンデーネ・ドラゴン!!」
大量の水を掌握した一本の筋が横切って、ヘルハウンドの群れを飲み込んだ。
透明な鱗に水になびく髭、波打つようにうねる長い胴体。
水竜だ。
大口に飲まれたあと、ちゅるりと細い尾から通り抜けたヘルハウンドは、次々と力なく横たわった。瘴気が完全に滅している。
ウィンデーネ──聖水使いと知られる水属性の
「魔王の子が聞いて呆れるな。所詮ヒーローも子供遊びにすぎないか」
ボディスーツと鎧を纏った青髪の男が片手をかざすと、水竜がその掌に吸い込まれた。
「
魔法騎士団警備部隊隊長、
「随分と問題を起こしているそうじゃないか。家族揃ってこれ以上恥をさらしたくないのなら、ヒーロー遊びなど辞退するべきじゃないのか」
「遊びじゃねーよ! 俺は本気だ」
「口先だけならいくらでも言える。本気で正義を語りたいなら、もっと騎士を見習うべきじゃないのか? ハッ、ディアボロスに言える言葉とは思えないが」
「………………」
「第一お前たちは自分勝手すぎる。いくら王族だろうが、ここは人界。郷に入れば郷に従え、と言うだろうに…………」
「……………守さん、またミント兄ちゃんのことで上の人に怒られたの?」
「ぐっ!」
矢が刺さったみたいに呻く守。
(図星かな…………)
彼は兄ミントの上司でもある。ディアボロスの力を有する悪魔を、騎士団の管理下におくことが、おそらく組織の最大のノルマだ。
ベリーとバニラはこの上ない戦力を発揮しているものの、警備部隊のミントだけが自ら戦力外通告。守にとっては、頭を抱えるほどの案件だろう。
「いいか!! あの怠け者に言っておけ!! 来週の騎士会議には絶対参加しろとな!!」
やはり苛立っていたようだ。
目を光らせて決死の表情を見たら言えないが、おそらく兄の返事はNOの一択だろう。家のことも何一つできない甘ったれなのだから。
「魔王の子に、ディアボロス………? どうしてそんな話が今?」
女の子が不安そうな目つきで、後ろから問うた。
おや? と駄菓子屋のおっちゃんが声を上げる。
「お嬢ちゃん、知らないのかい? アイスケくんはね………」
「っ! 危ない!!」
女の子の背後に食いかかる獣の影に、咄嗟に押し倒して低く伏せた。
「………………!」
水竜が頭上を走り、べちゃ、と生肉を落ちる音がした。
地面に仰向けになる女の子に怪我はない。少し顔が赤く染まっているが。
「大丈夫?」
「ひゃいっ!」
女の子の肩が魚みたいに跳ねた。
立ち上がって、周囲を見渡すと悪夢のような光景に言葉を失った。
飢えた目つきで喉を鳴らすヘルハウンドが、ざっと五十は超えるほどの数で辺りを囲んでいる。
【警告。はなまる商店街にて中級魔獣ヘルハウンドが大量発生。超大型魔獣の存在も確認。全部隊を配置。近隣地域の住民は騎士の指示に従い直ちに避難せよ。繰り返し警告──】
守の肩にかけた無線機が鳴った。
『海凪隊長!! かなりの数です!!
「負傷者は!?」
『男女四名が重軽傷! 現在回復部隊が治癒しています! いずれも命に別状はありません! 隊長、そちらに増援を送りますか!?』
「第四班を頼む。三人の住民を避難させたい。そちらも住民の避難を優先させろ。のちに突撃部隊と落ち合う」
『はっ!』
守は無線を切ったあとに、腰に携えた剣を抜く。
総毛立つような白刃が閃いた。
握る掌から神聖なる水が、迫るような潮の音を立てて剣を纏う。
「ウィンデーネ・ソーディア!!」
守は地を蹴って空中に舞い上がり、水の剣を振るった。胴体を斬り落としては左に
聖騎士の隙のない剣術は、滔々と流れる川の如く爽快な動きで、五十匹も超える一群をいとも容易く撲滅させたのだ。
「すげぇ………」
聖騎士の圧倒的な魔法と剣捌きを前に、三人とも口をあんぐりと開けた。
だが、呪いのような唸り声が這いよる。
ヘルハウンドの群れは次々と湧くように現れた。
「ちっ、埒があかないな………おい! こっちへ来るんだ!! もう時期増援が来る! 避難準備を………」
「おとうさぁん、おかあさぁん、どこぉ?」
「パパァ! ママァ!」
商店街に繋がる倉庫の細い通路から、二人の子供がすすり泣きながら、おぼつかない足取りで出てきた。
その傍らでヘルハウンドが咆哮する。
「うわああああああんっ!」
「ママあああああぉっ!」
「ウィンデーネ!!」
危機一髪に水竜が駆けて窮地を救う。
だが倉庫の屋根にもヘルハウンドが舌なめずりして、小さな獲物を睥睨していた。
その光景を見た女の子は、怯えたように瞳を揺らし、ゆっくりと生唾を飲み、キュッと瞼を閉じる。
そして救いの手を差し伸べる騎士に背中を向けて、反対方向へと駆け出して行った。
「ちょっ! どこ行くの!?」
アイスケの言葉にも振り返らず、女の子の背中が遠ざかってゆく。
くっ、とアイスケは歯を食いしばった。
「守さん!! 俺あの子を追うから!! おっちゃんとガキんちょのこと頼んだぜ!!」
そう言い放って、アイスケも駆けた。
「おい待て!!」
守は目を瞠る。
遠ざかる少女の亜麻色の髪と、月光のような瞳の光が目に映った。
「まさか………あの方は!」
「おい!! おいってば!!」
女の子の背中に向かって叱咤するような大声を飛ばす。
「どっ、どうしてついてくるんですか!?」
「ついて行くに決まってんだろーが!! そっちこそ何であんな優秀な騎士様から離れんだよ!? パニック起こしちゃってんの!?」
「私は冷静です!!」
女の子はきっぱりと言い張った。
「全部、私のせいなんです。私は生まれつき、魔獣を寄せ付ける特殊体質だから…………私があのままあそこにいたら、たくさんの被害が出てしまう。ほら、周りを見てください」
「!」
土手の上に、疾走する二人を追い詰める勢いでヘルハウンドの群れが走っている。
だがよく見ると、ヤツらの獲物を狙う紅い目つきは女の子の方へと向けられていた。
「だから、あんな
「だったら、魔除けを壊しちまった俺にも責任があるわけだ。はいそうですかって放っておけるわけねーよ! 未来のスターとして!!」
すたぁ? 女の子は呆けたように反復した。
「それに、未来の騎士ってことは戦力にそこそこ自信があるってことだな!」
「………………」
「火? 水? 風? も、もしかして天性血統の生まれだったりする?」
「………………」
「秘められた力があるんだったら、そーゆーのは惜しまずじゃんじゃん出した方がいいよ! むしろ出してくれ!」
「使えません」
「は?」
「私、魔法が使えません………」
アイスケの期待に満ちた笑顔がフリーズする。
女の子はえへへ、と、恥ずかしそうに掌をほっぺたに添えた。
(あ、そのポーズ可愛いなぁ演技の勉強になるかもぉこれまじリスペクト……………じゃ、なくて!!)
「えっ、じゃあ何でこんなとこまで走ってんの!? 死にたいの!? 自殺行為!? それとも頭より体が先に動いちゃったおバカさんなの!? 」
「ば、バカじゃないですぅ!! こちらにも考えがあって…………そ、そういうあなたはどうなんですか!? こんなところまでついてきて………何か策があるんですか?」
アイスケは眉を寄せて、目に角を立て、神妙な顔つきになる。
女の子は走りながら、ごくん、と固唾を飲んだ。
アイスケはすっ、と、顔を上げると、
「俺も、魔法使えません………」
えへへ、と、恥ずかしそうに掌をほっぺたに添える。
ガーン、という効果音が聞こえそうなくらい、女の子は衝撃的に口を大きく開けた。
「ひ、人のこと言えないじゃないですかぁ!!」
「いや、マジでどうしよ。俺らアホじゃね? タイムスリップできるならあの時走ったきみと俺を殴りたい」
「私まで殴られるんですかぁ!!」
魔法が使えない子供が二人。対するは人食い犬の魔獣の大群。場所は、
最悪の展開に繋ぐ条件が整ってしまった。
「大丈夫です」
女の子はそう言って、スマホを見せた。
「電源を入れて、お世話係の凛さんにSOSを送りました。おそらくGPS機能を使って、駆けつけてくれます。そうしたらこの人のいない場所で、魔獣を全滅させることができます」
スマホに映る「魔獣に追われています」のメッセージには、すでに既読がついていた。
「その凛さんっていう人、強いの?」
「すっごく強いです。リンゴを小指で潰せるほど怪力です」
「例えが地味に怖い………」
「聖魔法の使い手でもあります」
「えっ」
アイスケは面食らってぽかんとした。
悪魔祓いに優れた世界でも希少な聖魔法の使い手が、騎士団に属さず、お嬢様の世話係をしているとは、少し奇妙な話だった。
この女の子の正体がますます怪しげな靄に包まれる。
「きみって、一体………」
ガルルッ! 身の毛もすくむような嫌な鳴き声に、二人は足を止めた。
前、横、後ろ、隙間も生まないほどに囲まれてしまった。
「そ、そんな………!」
全方位からヘルハウンドの総攻撃が襲いかかった。
もう、迷っている余地はない。
アイスケは頷いて、悲鳴を上げる女の子を丸め込むように抱きしめる。
少女は少年の温かい胸の中で、息も詰まるほど身震いした。
ぐちゃ! と、肉が千切れる生々しい音が耳をつんざく。
「へ………?」
鼻をつく血の匂いが充満した。
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