第五話 凸凹コンビとトルコアイス

「あ、諦めてたまるか! 次だ次!」


 ぱん! と気迫を込めて己の頬を叩く。


 まだ兄は五人もいる。こうのんびりしているうちに、また我が家の財布の紐を緩めるような行為をしているかもしれない。それだけは絶対に阻止しないと。


 だがアイスケは、次の計画を考えると少し気が引けそうだった。

 血の気が引くくらい多額の出費を伴った三男のミントと、四男のバニラのことだ。

 おそらく凸凹コンビの名で知られる二人が一緒にいることは間違いないだろうが、どう接近するべきか。

 特に「鬼畜王子きちくおうじ」という異名で恐れられるバニラは、下手に近づくと兄弟でさえ命取りになる。

 ミントはそれほど危険の匂いはしないが、先ほどのベリーのように、一言で釣れるほど衝動的に動く男ではない。

 そもそも、アレが自分から動くことすら、あり得ないのだ。


「あ~~~! 居場所さえ分かれば……」


 メッセージだよ、と透間の美声な通知音が鳴る。


 ココロからだった。『マジウケたんだけど(笑)』のメッセージの下に、URLが貼り付けられていた。


「……………なっ!」


  開いてみると、SNSサイトのページに飛び、衝撃の写真が投稿されていた。


『鬼畜王子がトルコアイスをアレンジしていた件 (笑)』


 一人の男が、上半身と同じくらいの長さの渦巻き状のトルコアイスを持って歩いている。

 あろうことか伝統的なアイスに、板チョコ、クッキー、キャンディーなどの甘いお菓子を、クリスマスツリーの飾りみたく容赦なくぶっ刺しているというシュールな光景。


(トルコ人に怒られるよこれ!)


  その男。鈍く光る銀髪に、紫水晶のように透き通った瞳。絶世の美少年と言っても過言ではないほど恐ろしい美貌を放つその男こそが、鬼畜王子こと四男のバニラである。


「お?」


 画面の左上を拡大すると、アイスケは目を光らせた。


 「神樹ヶ咲広場」と書かれた駅名標が、小さくとも写っていたのだ。


「トルコアイスナイス!!」


 目的地に向けて、アイスケは再び猛ダッシュ。


(そういやトルコアイスっていくらするんだろう)





 駅前はにぎわっていた。ワイワイと大声ではしゃぐ学生たち、噴水のそばであ~んと互いにお菓子を食べさせるカップル、体を揺さぶって熱唱するストリートミュージシャン。


 そんな晴れ晴れとした声が飛び交う中、一人薄暗い日陰の中に寝そべる美少女──とも見間違えそうな、華奢な男がいた。

 白い髪、白い肌、何より特色なのは、ガラス玉のような無色透明な双眸。何色にも染まらない瞳は、感情も凍りついたようにいきいきとした光はない。頭からつま先まで、全体の色素が薄い。まるでガラスで造形した人形がひっそりと息づいたような、今にも壊れそうな儚さを全身に纏う美男だ。


「ふわぁ」


 アーケード越しに見える網模様な青空を眺めて、男は小さくあくびをした。



「こんな通路のど真ん中で居眠りたぁ、はた迷惑なヒーローだな」


 

 ぬっと、視界に入ったしかめっ面の子供。


「アイちゃん……」


 その無色の瞳に、ようやくかすかな光が見えた。





 駅に着いてから、兄を探す必要はなかった。バス停の付近で、ひそひそと囁き合って佇んでいる人が多かったので、行ってみたら、案の定兄だった。相変わらず、見た目だけは超絶美少女。おやすみシロクマちゃんのパーカーをすっぽり被って、白い衣服に砂利を擦らせて寝っ転がってやがる。


 三男の兄ミントは、弟に気づいても起き上がることなく、顔だけ振り返った。


「ごめんねアイちゃん。お兄ちゃん眠くて………今は遊んであげられないや………ふわぁぁ、ん、すー、すー………」


「こんなとこで寝るなっ!! てかよく寝れるな!! 周りの冷ややかな視線感じねーの!? 俺まで恥ずかしいんだけど!?」


「他人にどう思われるかは気にしない。それが俺のポリシーだよ」


「いい感じなこと言ってるけど最低限の常識は守ろうな! ほら! どいて! 起きて! 立って!」


「ん~~、やだ~~」


  とにかくここから離れようとミントの体を揺すりまくったが、ぐずった子供のように寝返りを打ってそっぽを向けられてしまった。


「やだじゃない! ったくも~!」


 言いながら、アイスケは兄の顔の方へ回った。すると、また寝返りを打たれる。


「あっ、くそ!」


 Uターンして戻るが、またごろん。めげずに走っても、ごろん。その無意義な攻防戦を、十回くらいは繰り返した。


「ハァ、ハァ、無駄な労力使わせんな」


「はぁ、俺も背中痛い」


 二人は激しく肩で息をした。


 何度も地面に擦れて痛いくせに、ミントはまだ起き上がろうとしない。しぶといやつだ。


「ていうか、朝からミント兄ちゃんが家にいない事実にみんなビックリだったんだけど」


  ミントは、この醜態を見て分かるほど動くことを嫌うめんどくさがり屋で、普段はずっと家に引きこもっている。肩書きでは騎士団の警備部隊一員だが、ほぼほぼ本部に顔を出さないので、現在は休職扱い。 

 本来ならばクビにされてもおかしくないものだが、何の因縁なのか騎士団はディアボロスの力を手放すのは惜しいようで、ミントが出した退職届も即座に破り捨てられたとか。


「俺も家にいたかったんだけど、駅前にオープンした限定品の黒蜜プリン買うからって、バニちゃんに無理やり引きずり出された」


 そう愚痴を零しながら、ミントは二つのプリンが入ったビニール袋をぶらぶらさせる。


 バニちゃん、というのは四男のバニラ。どうやら予想通り、凸凹コンビの二人が行動を共にしていたようだ。だとしたら、好都合。二人まとめて説教ができる。


「で? バニラ兄ちゃんはどこだよ?」


「あー、何かトルコアイス買いに行った」


「え! またぁ!? さっきスーパーで売ってるようなお菓子ぶっ刺しまくったアレンジバージョン食ってなかったか?」


「何で知ってるの?」


「ネットで晒されてたんだよ!! 軽く炎上してたわ!!」


 ちなみに黒野家がSNSに上げられるのは芸能人並みの頻度だったりする。主に、悪い意味で。


「実はアレ俺も食べようとしたんだけどね、アロハシャツと短パン姿でフォークダンス踊ってるバカップルがぶつかってきて落っこちちゃって。そしたらバニちゃんがバカップルからアイス代巻き上げて今買い直してるところなの」


「カオスだなおい」


「あ、アイちゃんもいる? だったらバニちゃんにメッセで……」


「いらん!! 俺はトルコアイスを食いにきたんじゃねぇ!」


 興味はあるけど、と小声でつけ足す。


 初めて鏡を前にした赤ん坊みたいにポカンとする兄に、地面に垂れるほど長い請求書の束を突きつけた。


「ミント兄ちゃんはカードで爆買いしすぎだアホ!! 特にこれ!! キャッシュ一括で百万って一体何買ったんだよ!? 家具一式揃える気ですか!?」


 鬼気迫るアイスケの顔を、ミントは眠そうな目で見上げていた。


 予想通り、この程度では全く動じていない。


「アイちゃん、よく見てよ。これ俺じゃないよ」


 不機嫌そうに、請求書に指を差す。


「名義人に、ベリーって書いてるじゃん」


「そうだな。確かにこれはベリー兄ちゃんのカードだな」


「そうだよ。俺カード持ってないし」


「引きこもりだしな」


「加えてニートだし。収入ゼロだよ?」



「そう。だから今回はベリー兄ちゃんを選んだって、ワケだな」



 アイスケの打ち据えるような言葉に、ミントの無表情が崩れ、ふっ、と妖しげな冷笑が口元を掠めた。悪魔の本性をチラつかせた瞬間だった。


「人のカードで合計三百万以上の買い物。普通だったら立派な懲役モンだぜ?」


 本来なら然るべき処分を受ける犯罪行為を、家族という厳格さが欠けたぬくぬくとした愛情を利用して、この男は悪行を重ねている。


 能面のような化けの皮を被ったこの三男こそが、兄弟の中でも最も性根の悪い悪魔なのかもしれない。


「さぁ白状してもらおうか。何買った?」


「書いてるじゃん、そこに」


「アクアリングストームって、んな会社名だけじゃ分からねーわ! ってか怪しいなあおい何か怖くなってきた」


「シャンプーヘルメット」


 は? アイスケは口を開けたまま固まった。


「だから、シャンプーヘルメットだよ、買ったの」

 

 ほぇ? とアイスケは気の抜けた声を出す。


 何だろう。聞き覚えのない単語だが、とても、非常に、嫌な予感がする。


「分かりやすく説明すると、そこで寝っ転がって頭はめるだけで自動で髪洗ってくれるやつ。便利でしょ」


「自動で、髪を、洗う?」


「そ。でもバスルームに置いたら邪魔だしアイちゃんにバレたら怒られちゃうから、部屋の物置きに置いてるんだけど」


「………………」


「でも買って損はなかったよ。寝っ転がってるだけで頭洗ってくれるし、マッサージ機能もついてるんだよ。もう俺あの子なしじゃ生きていけない」


 まるで自慢の恋人を語るような言い振りだった。 


 ミントは引きこもりでニートなうえ、家事もろくにせず、部屋を移動する動作すら面倒くさがり廊下で突っ伏すこともあった。

 それがとうとう、シャンプーすら億劫になったというのか。たかが三分もあればできるシャンプーを、百万円で買ったというのか。それも兄の金で。


 あれほど説教してやると意気込んでいたアイスケだったが、いざ真実の蓋を開けてみれば呆れすぎてものが言えなかった。


「何? もしかしてアイちゃんも使いたい? いいけど、アイちゃんのサイズだとちゃんとはまるかな? 溺れ死ぬ可能性も……」


「兄ちゃん」


「なぁに?」


 だからアイスケは、できるだけ優しく、

 怒りに震える唇を噛んで、できるだけ、感情を表に出さないように言った。


「兄ちゃんは一辺出家して山奥の滝に打たれて厳しい自然界の中で自給自足の生活を送るという流行りのバラエティー番組に出たほうがいいんじゃないかな? 人生やり直せると思う」


「え~めんどくさい。ギャラもらってもやだ」


「嫌ならこれ以上カード悪用はやめろ!! いいな!?」


「ふわぁ」


「返事は!?」


「はぁ~い」


 やはりこのナマケモノを相手に、感情を殺すなど無理難題だった。随分と呆けた返事だったが、というかあくび混じりだったが、猫みたいに脚にすりすり頭を擦りつけてくる可愛さ (二十一歳男) に免じて許してやろう。


「アイちゃんの脚すべすべで気持ちいい〜」


「よ~しよしよしよし」


「ふわぁ~」


「わ~しゃわしゃわしゃわしゃ」


「ふうぅ~」


「よしゃよしゃよしゃよしゃ可愛いなぁ~………じゃなくて!」


 甘えてくる兄が可愛いあまり撫で回して猫カフェ気分になり、危うく目的を忘れるところだった。というか結構色んな人に見られた。我ながら恥ずかしい。


「一番の借金大王に話つけねーと!!」


「え、バニちゃん何したの?」


「器物損壊とか器物損壊とか器物損壊とか!! もう宇宙人と戦争でもおっ始めたの? てレベルでいろいろぶっ壊してんだよ!!」


「あ、バニちゃんいた」


「どこ!?」


 ミントが指を差した先、キッチンカーが並ぶ通りから、銀髪の美少年が歩いている。


 黒いベストにショートパンツ、ゴジック風のタイツとアームカバーに、ゴツゴツの金属ベルトを腰に巻いた、ビジュアル系のファッションを、今日も見事に着こなしているようだ。ちなみに兄は騎士団の調査部隊一員だが、非番でも当番でもこのスタイルを貫く猛者だとか。


「え……」


 と、ここで気付いた。



 バニラは颯爽と歩きながら、巨大なトルコアイスを二つ持って歩いていることに。



「何で二個持ち!?」


「うわぁ、きっとアイちゃんが来ることを予知して買ってくれたんだね! バニちゃん優しい」


「いやあのアレンジバージョンの方は明らかに自分のだろ!!」


 一日でお菓子ツリーのトルコアイスを二つも平らげるとは。

 いくら甘党でも、胃が悲鳴を上げる並みの暴食ではないか。


「つかアレいくらすんの? サイズ的に高そうなんだけど」


「さぁ? お店の人トルコ人だったから、何言ってるか分かんなかった」


「えっ、バニラ兄ちゃんトルコ語喋れたの!?」


「ううん、バニちゃんは中国語喋ってた」


「何で!? 通じないじゃん!!」


「お互い胸ぐらつかみ合ってた」


「そらそうなるわ!! 言語の前に常識としてのコミュニケーションが成り立ってねーわ!! よく買えたなそれで!」


 叫び声が聞こえたのか、バニラはこちらに気付いたようだ。

 一瞬眉がピクリと動いたが、特に驚いた顔はせず、そのまままっすぐと歩く。


 すると両側から、大柄な少年が二人詰め寄り、道を塞いだ。


「あ………」


 禁断のフラグが、立ってしまった。


「あー」


  ミントもおそらく、同じことを思っていただろう。




「おいガキ、いいモン持ってんじゃねーか」


 しわくちゃに制服を着崩した、渦巻き状のリーゼント頭の少年が二人。


「俺たちトルコアイスが大好きなんだよ。好きすぎて髪型もトルコアイスみたいになっちまってよ~、女の子たちから黄色い悲鳴も上げられちまってな~、マジトルコアイス神だわ」


 二人は飢えた獣のように下卑た笑みを浮かべ、行く手に立ちはだかる。


 バニラは凍てつく眼差しで見ていた。


「でも金がなくってなぁ。しかもあそこの店員怒らせちまって、トルコ語で罵倒されながらコーンで目潰しされちまったんだよ。いやマジ可哀想すぎないか俺ら」


「だよなぁ~コーンの威力半端なかったわ。で? そんな不幸のどん底にいるって時に、こんな小綺麗なガキが俺たちでもめったに買えねージャンボサイズを両手に持って歩いてるとか、マジ舐めてんのかってしか思えねーじゃん? しかも何だよその菓子の量。糖分の化け物すぎてマジウケんだよ、なぁガキ、喧嘩売ってんだろテメェ!!」


 罵声を浴びてもなお、バニラの表情は凍ったまま。


「でもこんなキレイなガキの顔殴んのも良心が痛むしよぉ、大人しくそのアイス譲ってくれんなら、見逃してやってもいいんだぜ? 俺ら優しすぎんだろ? あ?」


 バニラは氷と化したのように身動ぎ一つせず立ちつくしていた。


「おいいつまでもだんまり澄ましてんじゃねーぞクソガキィ!!」


 少年の一人が舌打ちしながら、ずんずんと接近して胸ぐらをつかもうと手を伸ばす──



 ビリッと、その指先に黒い火花が弾けた。



「グギャァァァアアアアアアアアア!!」


 喉も張り裂けんばかりの人間離れした叫喚が、広場中に響き渡った。


 バニラの全身から、漆黒の稲妻が威嚇するように閃いていた。


 目の当たりにした親子連れやカップルたちは短い悲鳴を上げたあと、一目散に逃げ去った。中には慌てふためいて転んでしまう人もいた。

  神樹ヶ咲にはこんな注意書が各地に貼られている。



【黒い雷には近付くべからず。そのライゴウの使い手、魔界の天性血統てんせいけっとうを二つ受け継がれし両統の悪魔、バニラ・ディアボロス又の名は鬼畜王子】



 ライゴウを浴びた少年は、地面の上で死にかけのカエルのように足をヒクヒクさせて、悶絶している。


「……お、いおい、嘘、だろ……」


 目の前で繰り広げられた瞬殺劇に、もう一人の少年は腰を抜かしてぺたんと座り込んだ。


「鬼畜王子、って、確か成人してたんじゃ………」


 バニラはアイドル顔負けの美貌を持つが、小さな顔にまだあどけなさが残っており、体型も小柄で手足も細く、中学生に見えても不自然ではなかった。


 だがその無意識な油断こそが、このようなおぞましい逆襲劇を生み出す火種となることに、まだ理解していない人々もいる。

  この不運で哀れな不良少年らも、等しく。


「あぁ、イライラする」


 ずっと噤んでいた唇が開くと、凄みもあるが、甘く澄み通った声が出た。


「俺は朝からイライラしてんだ。ヒキニートのクソ兄貴は動かねーからおぶってやんなきゃなんねーし、黒蜜プリンの抹茶味は売り切れてるし、トルコ人に中国語で挑んだらキレられて一番ちっせーコーン渡されるし、発情したサルみたいなバカップルのせいでまた買い直さなきゃなんねーし、店員の煽り性能上がりまくってパフォーマンスに十五分も時間食っちまったし」


 話しながら、黒い閃光は勢いを増して全身を駆け巡る。まるで黒雲のような瘴気がツノの上から立ち込めていた。


「やっと買えたと思ったら、うんこ頭のガキにガキ扱いされるしなぁ」


「いや、うんこじゃなくてトルコアイス」


「あ? そんなに欲しいならやるよオラ」


「があっ!」


 少年の顔面にどろどろのトルコアイスが直撃した。


「テメェらのせいで溶けちまったしな」


「い、いや、溶けたのは十五分間のパフォーマンスのせいじゃ」


「うるせえ」


「がああっ!」


  少年の顔面に二発目のトルコアイスが直撃する。クッキーが目に刺さり、板チョコが口を塞ぐ。お菓子ツリーの方が遥かに威力が高かった。


「おいガキ、三分以内でジャンボサイズ二個買い直してこい。そしたらこの不敬罪は水に流してやる」


 ひいぃっ! とクリーム塗れの体に戦慄が突き抜けた。


「………いや、その、金、持ってなくって………」


 少年は歯をガチガチさせながら、震える声を発した。


「そうか」


 バニラは真紅の瞳をギラつかせた。


「ならこの寛大な第四王子様が、ビリビリの刑で許してやるよ」


 刹那、漆黒の落雷が光速で地面に一撃し、耳を聾する咆哮の如き雷鳴が轟いた。




 少年の断末魔は止むことなく響いている。


 自動販売機やら公衆電話機やらが石ころのように軽々しく吹っ飛んできて、バス停の時刻表と衝突してアーケードが崩れ落ちた。

 アイスケとさすがのミントもこれには慌てて、離れの屋根付きのショーウィンドーの前まで避難する。


「あーあ、バニちゃんやっちゃったね。あの様子だと一時間くらいは収まらないかも。経験上からして」


「どんな恐ろしい経験値積んできたんだ!! 兄ちゃんよくあんな危険生物と隣り合わせで暮らせるなぁおい!!」


「ちっちゃい頃からずっと一緒だったし、優しいところもあるんだよ? きっと俺たちには攻撃を向けないはず」


 ズドォン! 雷の太い矢が真横に突き刺さって、ガラス破片が飛び散った。


「どこが優しいって!? めっちゃ命中するとこだったんですけど────!?」


 走りながら、アイスケは叫んだ。


「あーもう無理! あの怪物を説教できるほど俺は命知らずじゃありませえええええええん!!」


 予定を変更。アイスケは飛んでくる電撃を回避しながら、広場から脱出する。


 ミントは「バニちゃんは優しい子だから大丈夫」などと言ってその場に残ったが、アイスケの脳は逃げろと全身に命令していた。


 触らぬ神に祟りなしなら、

 触らぬ鬼畜王子にも、祟りなし。


 そして、トルコアイスは人も悪魔も狂わすほど美味うまい。


 アイスケが、目で見て耳に聞いて心で感じた世の中の恐ろしい実態だった。

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