ep25 男と先輩

 ここに集まった理由は俺たちも分かっていた。 能力の適性診断だ。 書類で能力についてわかっていても実際に使ってもらわなければ分からないことも多い。 知らなければ管理もできないということらしい。 そのために俺たちはここでテストを行い、能力を定めるということだ。


「ルールは簡単、君たちに5つの風船を両手足、お腹につけて互いに割ってもらう方針だ。

  他人の風船を割ったらその風船分のポイントがもらえる。 逆に割られるとその分のポイントが消えるという訳だ。

  全ての風船が割れた時点でゲームオーバーで、得点は逃げた時間の分貰える。 最後まで残っていた人はそれプラス割った風船と持ち風船の分をプラス 」


「制限時間は約3時間、逃げるもよし、割るもよしということだ 」


 柳原先輩が意気揚々に説明する。 この人、やりたかったんだろうな……


「怪我をさせたら全てのポイントとペナルティを与えるから注意! 」


「ははは!そんなお遊びどうでもいいから、実力見せればいいんだろ? 」


 巨体の男がポキポキと指を鳴らしながら前に出てくる。 柳原先輩はふふふっと悪そうな笑みを浮かべる。


「何をするつもりか知らんが、野暮なことは考えない方がいいよ? 」


 その瞬間巨体の男が消え、柳原先輩の方に飛び上がる。


「筋肉増強! 全力投拳フルスロットル!! 」


 巨体の男の筋肉が大きく膨れ上がり、パンチを決め込む。 辺りに轟音と床の破片が飛び散る。 狙ったはずの先輩はほんの少し横に避けていた。


「なーんだ、つまらないなぁ 」


 ふっと消えたかと思えば巨体の男の後ろに立っていて、ヘッドホンをクルクルと回している。


「ふ、ふざけんなぁあああ! 」


男が暴れ始める破片を投げたり、無我夢中に殴り続ける。 あんなの当たるはずはない。 ひょいひょいと柳原先輩は避け続けている。


「スピードもパワーも十分、けどね 」


パァン!!


 男の顔の前で両手を叩く。 ザワザワしていた空気が静かになるほど部屋に響き渡る破裂音。 いや、破裂していないのだが言葉で表すには1番近い。


「力任せに殴ってもいいことは無いよ 」


 男は小刻みに揺れながらゆっくりと膝をつき、口からは泡を吹き出している。


「彼を医務室に、風船は2個減らして与えてあげてね 」


 どこからが現れた黒い影が担架を運んできて男を乗せた後、そのままどこかへ持って行ってしまった。

 柳原先輩はこちらを振り返ると、


「他にやりたい人は? 」


 とにこやかに笑った。 誰一人としていなかった。 あんな強そうな男が一瞬で倒されてしまったのだからみんな畏怖してしまっていた。


「ううっ、怖がらせるつもりはなかったんだけどなぁ…… 」


 悲しそうに呟く柳原先輩。 ちょっとその姿は可哀想だった。

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