第五十話 後始末

俺たちが敵を……。いや俺たちは逃げてたら全て終わっていた。

正しくはコリン少佐とバラト大佐が大半の山賊達を殲滅し後始末にかかっていた


付近では小さな火種が燻りパチパチと弾けている

山賊の死体は道の片側に山のように積まれ、帝国兵の死体は丁重に1人ずつ並べられている。

一部の山賊達は捕縛され縄で雁字搦めにされている。


「すごいなバラト大佐、最高のタイミングとしか言いようがない」

ルイスが腕を組みながら周囲を見渡している


「あ、あぁ。まったくだな。敵の援軍まで一網打尽にしてしまうなんて……。」


戦闘がひと段落したことで人を殺したショックが蘇ったのか俺は真っ青な顔で木にもたれかかりながらルイスと話しているところにヘレナがやってきた

「どうした?ルーク、随分と顔色が悪いみたいだけど」


「いや、ちょっとな」

「コイツ、さっきまでのあの感じで、ベルと揃って初陣なんだよ」

ルイスが俺の肩を叩きながら己の肩をすくめて見せる


「ちょっと、嘘でしょ?アンタ、初陣だったわけ?よく逃げ出さなかったわね」

「ほら、あそこでベルもダウンしてるだろ?」


ルイスが指差した方を見ると俺と同じようにベル君がグッタリとしながらドグとヤウンに介抱されていた

あ、ドグにバシバシ叩かれてる。あれは介抱と言っていいのだろうか


そうやって俺たちがそれぞれ戦いの後の空気に浸っていると、遠くから戦後処理中の

ヌーベル伍長が走ってきた


「ルーク殿!ご身傷のところ申し訳ないが、バラト大佐からのお呼び出しですぞ!」

「呼び出し?」

「はい、バラト大佐は事情を各将兵から聞き取りを行いたいとのことです」


なるほど、確かに。バラト大佐からすれば慌てて山賊を蹴散らしたはいいが多くの将兵は倒れて被害は甚大だ。事情の聴取は何より行いたいところだろう


「あぁ、わかった。すぐむかう」

「大丈夫?少しぐらい休んだって…」

ヘレナが少し不安そうに俺を見る

しかし、いつまでも動けないままでは良くない。


「いや、大丈夫だ。ドグ!ヤウン!大佐のところに説明にいく。大佐の直属兵として着いてきてくれ。ヘレナとルイスはベル君を頼む」

俺はそれぞれに指示を出すとドグとヤウンを連れて仮説陣地のところへ向かった




俺たちが大佐のいる天幕のあたりに近づくと付近は物々しい雰囲気が漂っていた

帝国兵達は大急ぎで倒れたトラックや荷車を起こして荷物の積み直しやダメになった物資の目録制作に奔走していた


そんな兵士たちの合間を抜け天幕の中に入る


俺たちが幕を潜ると同時にコリン少佐が部下を連れて走り出していくところだった


「おや、ルーク伍長。先ほどは世話になった、隊を代表して感謝する。隊の指揮官連中が貴官に一杯奢りたいそうだ。まぁ、その年齢ではアルコールは飲めないだろうから美味い飯でも振る舞おう!では、先を急いでいるのでこれで」

そう言って彼は再び駆け出していった


そういえば俺はこの世界の年齢ではアルコールは成長に良くないんだったな。酒はウイスキーをよく飲むほどアルコールが好きだったが、流石に身長が伸びなくなったりするのは嫌なので大人しく自重しておこう


そう思い、バラト大佐の方に向き直り敬礼を交わす

「ご苦労だったなぁ、ルーク伍長。奴らの正体がわかったぞ」

「ただの山賊ではなさそうでしたが…」

バラト大佐は俺と目を合わせると嬉しそうに自分の足を叩いた


「そう、奴らはただの山賊じゃあない。構成員の半分はパンドラの敗残兵がゲリラ化したものだ。しかし、驚くのはもう半分の構成員よぉ」

「もう半分?」

俺が聞き返すとバラト大佐は渋い顔をして腕を組んだ


「どうやらもう半分の構成員はパンドラよりも遥か北方にある、フーザイトの騎兵のようなんだ」

フーザイトだって?確かあの地は前世でいうモンゴルのような騎馬民族国家だ。豊富な馬産地だが、作物があまり取れない地域なので略奪と傭兵稼業を生業にしているとアラスターから習った記憶がある。


「まさか、この戦いでフーザイト騎兵の介入が確認されたということは奴らはパンドラについたといことですか」

「いや、国家単位の本格介入はないと見ていいだろう。しかしなぁ、おそらく幾つかの傭兵団が独断で参戦している可能性が高い」


フーザイトは略奪で補給を確保するのでコイツらが今回のように襲撃を繰り返してカナリア本土に侵入する可能性も高い。そうなると、民衆に被害も及ぶ。それは避けたいところだ

「それと、被害状況だが、コイツが酷い」

そう言ってバラト大佐は被害状況について説明を始めた。


彼の言をまとめるとこうだ

バラト大佐の率いる補給大隊は1000人からなる。

陣容としては先鋒を務めるセリーヌ少佐が250人を率いて、バラト大佐が中央の500人を率いる。そして、後衛がコリン少佐の250人となっている。

今回襲われたのは俺たちの所属するコリン隊250人だ。


襲ってきた山賊は先鋒が100人、終盤の援軍を合わせると300人になる。

問題は戦後処理の中で二つ起きた。

一つは山賊約80人が捕虜となったこと。コイツらの扱い

二つ目はコリン少佐率いる後衛軍が100名ほど戦死し後衛部隊としての体を為せなくなりかけているということだった。

「山賊共の処理は最悪殺せばいいのだがなぁ。下手にフーザイトの人間を殺すとフーザイトの反帝国感情が燃え上がりそうでなぁ。しかし、送り返すのも手間だ」


そうなると、殺すという手段が一番手間が省けると言うことか。


だが、安易に殺すと言う手段は取りたくないと思ってしまうのは俺が前世の価値観で生きているからだろうかこれでレポートが書けそうな深い話だ


「なら、捕虜としてフーザイトの傭兵団に売り渡すしかないっすね」


俺が今世と前世の価値観の違いについて脳内論文を書こうとしているとヤウンが口を挟んできた

「二束三文でも何でもいいっすから、厄介払いで売っぱらってしまいましょう」

ヤウンも普段は欠伸ばかりなのに結構エグいこと言うのな伊達にエリート出身じゃないのか


「しかし、さっきも言った通りフーザイトとは距離的な問題があるんだぞ?どこの傭兵団に売るんだ?」

「ほら、ルイス上等兵も言ってたじゃないっすか」


あー、ルイスがなんか言ってたかな


「あれじゃないのか?頭の切れるやつが山賊団にいるってヤツだ」

あ、おもいだした。策略に長けた奴の影を感じるとかって



んで、それが何だって?

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