第四十九話 光明差す

馬蹄の音はさらに多くなり、こちらに近づく音は大きくなってくる

俺たちは先ほどの安堵した顔とは打って変わって状況の悪化に顔をこわばらせていた


「正直、俺たちだけでは盤面はひっくり返せないぞ?」


ルイスの問題提起に俺たちは誰も反論しようとはしなかった。

あのドグでさえ悔しそうな顔をしながらも、戦局を変えることができないことは理解しているようで苦虫を噛み潰したような顔で歯噛みしている


「やっぱり、逃げるのが最善じゃないの?」

ヘレナが俺たちの顔を順番に見ながらそっと声に出す


「でも、僕たちは逃げれてもコリン少佐達の隊はどうなるのさ。見殺しにするっていうの?」

ベル君はやはり彼らを見捨てることに否定的なようだ


「とはいえ、圧倒的物量差の前に我々が割ってはいったところで焼け石に水ですな。こう言っては何ですが無駄死にですぞ?」

ヌーベルはあまり戦う気はないようだ。彼の部下もウンウンと頷いている


「現状、うちの長はルークだ!」

ドグははそういうと俺の方に向き直り真剣な眼差しで俺を見つめた

「ルーク!どうする!?貴様が決めろ」


どうするって言われたってなぁ。俺はアラスターから兵法は習ったが実戦は初だ。

そう簡単にいい案が浮かんで溜まるものか

俺に言えるのは彼らの言ったことの折衷案しかない

「本格的な介入は避ける。先ほどと同じように十数騎を引き付け離脱する。だけど、さっきはうまくいったが。今度はもっと多くの敵を引き付けてしまうかもしれない。覚悟しておいてくれ」


「「「了解」」」

俺たちは先ほどの位置に戻りライフルを構える。しかし、その背中には悲壮感が漂っていた。

最悪、俺たちの誰か死ぬ。皆そのことがわかっていた

「構え!」

また、ルイスが号令を下す

「放t……」


ドン!ドン!

俺たちのとは違う銃声が街道の奥から聞こえ、馬のいななきが続く


俺たちは狐に摘まれたように顔を見合わせ茂みの奥を恐る恐る確認した

と、同時に喇叭の音が響き渡った。

「コリン隊!!生きてるかぁ!」

森に響き渡るは我らが大佐の大音声だった


「装甲車部隊!ウマ如きに負けるなよ!鉄の馳走をしてやれ!」

その声と同時に装甲車が3台、そこに随伴歩兵が続く


馬のいななきが響き次々と倒れていく

「いまだ!すり潰せ!」

今まで騎兵の突撃を受けるだけだったコリン少佐の率いる隊も前進を開始する


「え?どうなってるの!?」

ヘレナが慌てて大佐の隊とコリン少佐の隊を交互に見ながら頭を傾げる

「やっと、塞がれてた障害物の撤去が完了したんだろう。異変を察してこちらに急行してくれたみたいだな」


「おぉ!あの大佐もやるな!」

「まったくだな、これで助かった」


ヘレナは腕を組んで嬉しそうに頷き、ルイスもそれに追随する


だが俺は何か引っ掛かるものを感じていた

確かに助かった。しかし、何か忘れているような気がする

このまま静観していれば敵は殲滅されるだろうか?


否、山賊は逃げ場を求めて軍のいない方に逃げるだろう

そう、まるで泥団子を両の手のひらで静かに押し潰すときのように手のない方に泥が逃げていくように


そうなれば、山賊はどこへ逃げる……。

街道沿いの森だ。俺たちがいるこの場所に


「ま、まずいっすよこれ」

「あぁ、このままここにいるとまずいぞ」


俺がその結論に辿り着き顔面が蒼白となるのと同時に歴戦の元近衛師団の出であるドグとヤウンも同じ結論に辿り着いたようで冷や汗を垂らしながら顔を見合わせている


「総員!撤退!」


せっかくまともに仕事ができたと思ったのにまた逃げることになるとは……。

俺たちはまだまだ無力だ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る