第四十八話 乾坤一擲

「よし、近づいてきたな。初撃は外すなよ?」

ルイスが周りの兵士達に声をかけて回る


「ヌーベル伍長!近づかれた時の接近戦はそちらの隊に任せてもいいか?」

「ご心配召されるな、接近戦は我らヌーベル隊の最も得意とするところ。だが、我ら別動隊の目的は陽動であるからにして、適当に騎兵を引き付けたのち撤退するが良かろう」


俺の質問に進言と共に回答を返すヌーベルに俺は無言で頷いて返す

「よし、貴様ら!よく狙い、心を落ち着けよ!騎馬隊の戦闘は狙うなよ!」


そう、ドグの言うことは気をつけなければならない。ライフル騎兵は攻撃方法が遠距離攻撃である為、お互いに程よい距離を取り一つの塊となって進む。

そうであるが故に先頭の馬を追いかける習性がある。なので先頭を攻撃するとこちらに矛先が向く可能性が高い。

だから先頭に向かって銃撃すると陽動が目的の俺らにターゲットが移るのが1番まずい


そうこうしている間に馬蹄の音が大きくなってくる。それと同時に山賊共の怒声も聞こえてくる

「帝国軍どもがぁ!囮のために生け取りにしてやったってのにそんなに殺されたいか!」


なるほど、どうやら最後尾の中隊を囮に先をいくバラト大佐の本隊を惹きつけるのが狙いだった様だ


「奴らも大概馬鹿じゃない様だ。山賊の一味に切れ者がいるな」

「あぁ、それも。帝国に飛び切りの憎悪を抱く奴がな」

「アンタたちホントに呑気ねぇ」

ルイスと俺が奴らの参謀格について話していると目の前を数頭の騎馬が通り過ぎた


「貴様ら!無駄話をするな!」

「そろそろ、騎馬集団の中核が来るっすよぉ」

ドグとヤウンがライフルを構え直し俺たちに檄を飛ばす


「隊員の諸君構えよ!」

ヌーベルも彼の分隊員に声をかける


「ルーク君大丈夫?」

ベル君が心配そうに俺の顔を覗き込む

正直さっきのこともあって今にも吐きそうだが胃酸を嚥下して笑いかけて見せる

「今は大丈夫。ここが踏ん張りどころだからな」



途端、ルイスが叫んだ

「放てぇ!」

同時に16の銃口が火をふいた。

目の前の騎馬が二頭倒れ、続く4、5頭の騎馬が巻き添えを喰らう

「各々、次弾の用意が出来、次第各自の判断で斉射!」

ルイスが2射目の号令をかける

俺とベル君も慌てて薬莢を排出すると次弾をこめる


ドン!ドン!

という散発的な銃声が響き渡りまた2、3人の山賊が倒れる

「森の中だ!20人ほどついてこい!」


流石に2回目の射撃で気づかれたか

やっぱり判断が早いのが数人混じってるな

「こっちに来ますぞ!ヌーベル隊抜刀!ルーク殿の隊は少し後方に下がって援護射撃をお頼み申す!くれぐれも某の尻は撃ってくれるなよ!」

「わかってるよ!お前たちも死ぬなよ!」


そういうとヌーベル隊10人はライフルを後方へ放り投げ抜刀して臨戦体制を取る

俺たちは後ろに下がりライフルを構え直し奴らがこちら側に向かってくるのを待つ


「ここだぁ!ここにいたぞ!」

それが彼の放った最後の言葉となった

ヤウンが放った一撃で男は眉間を撃ち抜かれ後ろへひっくり返った


「かかれぇ!奴らは少数に違いないぞ!」

そう声が聞こえると斬馬刀を掲げたボロを着た兵が突進してきた


「どうやら最初に撃ったのが少数を率いる隊長だった様だな」

「そっすね、後の奴らは脳が豆粒以下の馬鹿みたいですね」

俺がボソリと呟いたのをヤウンが拾って肩をすくめる

周囲からは忍び笑いが起こり、緊張していた空気が少し弛緩する

「くるぞ」

ルイスが低い声で呟き、俺たちはアイアンサイトから敵を狙う


「ここか!」

声が聞こえると同時に茂みから15人ほどの山賊が分けいってくる


「ヌーベル隊!屈め!」

ヌーベルが声を張り上げると一瞬で隊員たちの作っていた壁が下がる

「ルーク隊!放て!」

今度は俺たち6人の銃口が火を吹く。


銃弾の当たった4人の山賊が倒れ、山賊たちの勢いが殺される

ヌーベル隊はその隙を見逃さなかった

屈んだ体勢から袈裟懸けに山賊たちを切って捨てた

見事に1人が一殺したことで10人の山賊が倒れ伏した


数が一斉に減ったことに恐れをなしたのか残る数人の山賊たちは恐れをなしたのか慌てて逃げ出した

「トドメを!」

ヌーベルが叫ぶとヌーベル隊の面々は軍刀を山賊たちに突き立てる

彼らの絶命する音がやけに大きく響き渡った


「よし、こちらにきた奴らは追い散らしたな」

ルイスが周囲を見渡し、ポケットから薬莢を取り出して弾の再装填を始める

それを横目に俺は次の指示を飛ばす

「引き続き、射撃を再開する。先ほどの位置に戻ってくれ」

「「ハッ」」


この調子で少しずつ削っていけばなんとかなるか……?

そういう楽観視した空気が俺たちの間に流れ始めていた


俺たちはもう一度先ほどの位置に戻り様子を見る

するとさらに多くの馬蹄の音が遠くから響いてきた

「あのさ、さっきより馬の数増えてない?」

ヘレナが顔をこわばらせながら俺たちの方を見る


確かに概算でも事前に見ていた倍はいる。つまり遠目に見ていたのが100騎、そこにさらに100騎近い騎馬が進んでくる。

アレは間違いなく後詰だ


俺たちも顔を見合わせてヘレナに向かってウンウンと頷く

「おい、ルーク。これはトンズラこいたほうがいいか?」

ルイスが俺の肩を肘でつつく


「なにぃ!トンズラだとぉ!?我ら帝国兵は最後の一兵になろうとも戦うのが矜持であろうに!」

「あはは…まさか、冗談だよ」


ドグの怒りに俺が肩をすくめて答えるとドグはため息をつきながら、こっそり逃げようとしていたヤウンの首根っこを引っ張る


「グエッ!いいじゃないっすか!給料分の仕事はしたっすよ」

「馬鹿者が!貴様それでも元帝国近衛師団であるか!」


しかし、戦うにしてもこれは分が悪い。

コリン少佐たちの隊は騎馬の勢いが殺されているとはいえ正面から突撃を受け止めているので現状の維持が手一杯だ。そこに、もう100騎が突撃なんてしたら折角立て直した戦線の崩壊は必至だ


どうする……。ドグにはあぁは言ったがやはり逃げるか……

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