第四十七話 逆襲戦

その土地とはまさにアルデンヌの森。一次大戦では数十万の軍勢がぶつかる様な大きな戦闘には至らなかった様だが、二次大戦ではかの有名な電撃戦の作戦の一部になった。

あー、そうか。大勢的に見た本を畳む様な作戦だ。部隊を半分に分けることで畳み込む様に敵軍を包囲する作戦だ。中世日本では正面からぶつかる合戦が多いために鶴が翼を広げる「鶴翼の陣」なんてのがあったが今からあんなものは作れない


ならば

「コリン少佐殿!自分は一回の伍長でありますが、お願いが!」

「む?なんだ、伍長。提言を許そう」

コリン少佐は眼鏡を掛け直し、兵達に防衛線の構築を指示しながら目を向ける


「私に15人ほど兵をお貸しください!敵の側面を突き、騎馬兵を混乱させます」

「なるほど、挟撃を狙うのか。悪くはないな。しかし、先の戦闘では数の優位があっても負けた。15は多すぎる、10人で妥協しろ」


うーむ、10人か俺たちの一派を加えて15人になるわけだが、まぁ側面攻撃は敵に衝撃を与える意味あいが強い。ならば、それでも事足りるな

「承知しました!では、10人ほどお借りいたします」

「よし。おい!ヌーベル伍長!隊を連れてバックハウス伍長について行け!」


ならば、俺たちも集まって森の中に身を隠すとしよう。

「ベル君達は荷車を置き次第集合!ドグ伍長とヤウン伍長は部隊の集合まで敵の応戦準備に力を貸していてくれ!」


そう指示を飛ばした途端、ドグがぶすっとした顔をして俺を指差した

「急に伍長などと付け出して、水臭いというか、小心者の男だ!今まで通りドグとヤウンと呼べば良いのだ!この作戦下において貴様は我らの長。そう言ったのが聞こえんかったのか!」

「あ、あぁ。すまないドグ。俺たちは挟撃を狙って森の方の入る。側面攻撃で騎兵を潰すぞ!それまでの間、武器の配当を手伝ってやってくれ」


ドグとヤウンは頷くと兵達に武器を配り始めた。

「おーい、ルーク。そっちも上手くやったみたいだな」

そこにルイスやベル君とヘレナがやってきた。

「あぁ、なんとかな。お前達もお疲れ様」


そう労いの言葉をかけるとヘレナがやれやれと言った様子でため息をつく

「まったく、手が焼けたよ」

「それは、ヘレナさんが鉢合わせた山賊を撃ち殺したからでしょ?」

「う、うるさい!アレは仕方なかったのよ」


どうやら、山賊達が追いかけてきたのはヘレナが脳筋なだけだった様だ。

まぁ、遅かれ早かれこの騒動がバレるのは時間の問題であったろう。

「それで、俺たちはもうひと仕事だって?」


逸れかけていた話をルイスが戻しにかかる


「あぁ、そうだ。コリン少佐に10人ほど兵を借りた。俺たちはこれから突撃してくる兵を叩く」

「わかった。しかし、よく少佐殿も兵を貸してくれたな。さっき散々に負かされたのにな」

それは、思う。戦下手なのに豪胆とか。意外と経験値を積むと化けるタイプか?


「失礼!コリン少佐より命令を授かったヌーベルである。先ほどは助けていただき感謝する!指揮権はルーク殿に委任されている故、存分に命令されよ」


俺の肩を叩き現れたのは立派なカイゼルヒゲを蓄え、サーベルを腰に垂直に佩く剣士風の男だった

「どうも、ルーク・バックハウス伍長だよろしく。早速だが、敵が接近している。大急ぎで側面に回るぞ」

「承知!」

「お前らもいくぞ!ここからは速度が命と心得ろ!」

「「「了解!」」」





俺たち15人は木の生い茂る側に入り、敵の横腹を突くべくライフルを構えていた。

状況としては敵の50余騎の騎馬兵が道をまっすぐ迫ってくる、それをコリン少佐が140名を率いて正面から受け止める。

俺たちが横合いから敵の土手っ腹を突き混乱させる。

数の有利を活かした作戦といえよう。

「しかし、上手くいくといいんだがな」

「まぁ、失敗したらその時はその時さ。考えすぎず行こう」

ルイスが不安がる俺の肩を叩き銃を頬に当て中腰で射撃体勢を取る。


一抹の不安の抱えながらも敵の馬蹄の音が大きくなってくるのを緊張の面持ちで待つことしかできなかった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る