第十八話 祖国の歴史Ⅳ

第一連隊 連隊長 ルフェイン視点


ルフェインは先程の作戦会議の様子を反芻して周りで防衛陣地を構築する将官達には気づかれないよう。

そっと、ため息をついていた


それはこれから始まる文字通りの決死の戦いに対してでもあったし、やはり死にたくはないと思ってしまう自分の弱さに対してでもあった



ルフェイン自身が提示した作戦は実に単純なことだが実行するには大いに骨の折れる計画だった。まして奇襲された側が用意するのには時間が足りなさすぎる



内容としてはそれぞれの連隊が各々の特色を生かしつつ上陸してきた敵を半円上に囲み、各所で波打つように部隊の押し引きを繰り返すというものだ。

うまくいけば敵の戦力を分散し侵攻を遅らせることはできるだろう


しかし、それだけだ。「侵攻を遅らせる以上のこと」つまり”敵の撃破”や”手痛いしっぺ返し”はできない。つまりこの作戦は遅滞戦闘を完遂するため以外の何者でもなくここにいる将兵たちはこの作戦の終了時には誰も残ってはいないだろう


実を言えば自分以外の連隊長達には東のパンドラか北のアトラス王国に亡命してもらい再起を図ってほしかった。こんなところであの優秀な隊長たちを死なせてしまうと思うと悔やんでも悔やみきれない。


だが、彼らの自身の家族を守りたいという心意気は本物だった。そこに水を刺すのも無粋であるし、何より逃げ出した先で仲間を集めて奪われた土地を取り返す方がここで戦って死ぬより何倍も辛い。


そんな面倒な役回りは国境警備についている第七と第八のビクターとアリッサに任せて自分はさっさと冥土に行ってしまった方がいいだろう。そんな認識があの会議室の自暴自棄になった隊長達になかったと言えば嘘になるだろう。




そうやって現実逃避という名の物思いに耽っているとタップ少佐が駆け込んできた。


「敵軍所定の位置から8キロメートル地点に到達!現在の進軍速度を維持するものと考えますと到達予想時間は1時間後になるかと!」



その報告を聞いて俺は驚愕した

なんだと…想定していたよりも随分と早い。いや、早すぎる…!


一昔前の剣と弓の時代ならいざ知らず今の時代は装備も増えているし敵は馬にも乗っているようには見えなかったから行軍にはもっと時間がかかってもおかしくないと思っていたが…


やはり偵察兵の話にもあった鉄の装甲で覆われた車両が原因だろう

その兵の話によれば車両の天井には機関銃の銃座のようなものが取り付けてあり運転手がいるであろう部分は前が見えないほどに鉄板で覆われ隙間のようなところから覗きながら運転をしているように見えるらしい。


正直どんなものか想像もつかないが機関銃陣地が高速で前に進軍してくるというのは恐怖以外の何者でもない。


「やはり、まずい状況ですよね」

この報告を聞いた俺は相当苦い顔をしていたらしい。タップ少佐が俺の顔色を窺うように問いかけてくる。俺は決戦前の部下に不安を与えてしまった自分を責めながら返答する


「まぁ、ある程度は想定していたさ。これ以上悪くはならんだろうしな」


そう、タップを慰めると俺は周りで心配そうな顔で作業の手を止めている部下達に向かって叫んだ。


「諸君!聞いてくれ!私は問いたい!我々が一体何のために議会や国民達から疎まれながらも!訓練をしてきたと思う!」


そこで一呼吸置いて俺は言葉を紡いでいく


「私は愛する者達を守る力を得るためだと考える!このような事態になって!愛すべき者達を自らの手で守ることができるのはこの国では我々だけだ!我々にヤジを飛ばし続けた議会でも国民達でもない!」


「死力を尽くし家族を!恋人を!守り切るのだ!」


「「「ハッ!」」」

この即興の演説がが功を奏したのか部下達はその場で見事な敬礼をしたのち各々の作業に帰っていく


だがあんな話をしておいて俺はやはり悩まずにはいられないのだ


もしかするとこの激励は彼らを死なせてしまうことに対する言い訳なのではなかろうか。

もしかするとこの声は自分が家族に死ぬ前に会いに行かなかったことへの贖罪なのかもしれない。




そんなことを思いつつこの平和な国を破壊する侵略者たちを睨みつけずにはいられなかった。

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